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書籍タイトルには「当たり」がある――『DXビジネスモデル 80事例に学ぶ利益を生み出す攻めの戦略』

タイトルの悩みは本づくりにはつきものです。内容について自身にとってのバリューを認めるであろうすべての人々にその本を届けるべく、今日も多くの編集者が、それぞれの案件で、タイトルに考えを巡らせています。
2022年5月19日の発売以来好評を博している『DXビジネスモデル 80事例に学ぶ利益を生み出す攻めの戦略』――シンプルなメインタイトルとなっているこの本も、例外ではありませんでした。ヒット作のタイトル決定までの経緯を、担当編集者のGT(できるビジネス編集部)が語ります。

「DXビジネスモデル」――ど真ん中ですね。企画を立てるときに重要なのは「どれだけわかりやすいか」です。

  • 書名を見た瞬間に何の本かわかる。

  • ページを開いた瞬間に惹きつけられる。

前者はとくに大切です。うまいタイトルをつける。社内会議で企画を通すにも、書店で手に取ってもらうためにも、ここがいちばん重要です。
世の中にはごまんと本があります。そんななかで、あらゆる言葉の組み合わせを考えて、これまでそのテーマで誰もつけなかったタイトルを引き当てる。それがヒットにつながる要素の一つだとしたら、タイトルづけは宝くじを引くようなものだと思いませんか?
また、中身も重要です。タイトルを見て期待して手に取って開いたら、なんだか思っていたのと違う。しっかり読んでみないとわからない良さはたくさんありますが、それにはページをめくるモチベーションが必要です。
しかし、この二つを満たしたからといってヒットするとは限りません。
それでも少しでも理想に近づけるためには、思考の積み重ねが大切です。今回取り上げるこの本も、そういう思いでつくりました。

「プラットフォームビジネス」が「DXマネタイズ」に

本書のタイトルは、企画段階から数度の変遷を経ています。
もともとは、お付き合いのある編集プロダクション経由でご縁をいただいた企画なのですが、そのときのタイトルは「プラットフォームビジネス」を前面に押し出したものでした。ここでいうプラットフォームとは「基盤」のこと。たとえばGAFAMに代表されるような巨大IT企業のサービスは社会基盤となっていますが、そのように、ある目的を果たすために欠かせないインフラを提供するのがプラットフォームビジネスです。
さてその企画内容は、プラットフォームをつくるための事例分析&ノウハウ解説。それをビジネスモデル図でわかりやすく伝えるというもの。見方を変えれば、巨大企業がひしめく市場に新規で参入するための指南書です。
この企画を成立させるには、いくつかのハードルを乗り越えねばならないと感じました。巨大企業の事例はほぼ語りつくされたといってよく、そのなかで新機軸を打ち出せるのか。読者が再現可能なノウハウを提示できるのか。といったハードルです。
著者の小野塚征志さん、そして企画立案者である編集者の三津田治夫さんとミーティングを重ねながら挙がったキーワードが「DX」(デジタルトランスフォーメーション:デジタルによるビジネス変革)でした。プラットフォームビジネスの実践者たちに通底している軸がDXであることから、であればプラットフォームというワードをDXに置き換えてもよいのではないかという発想です。またそうすることで、プラットフォームビジネスにとらわれず、幅広い事例を取り上げられます。
……しかしそうはいってもDX分野はレッドオーシャン。DXだけでは新規性を打ち出せません。
日本国内でDXへの関心が高まったきっかけの一つは、経産省が2018年にレポートした「2025年の崖」です。2025年までにDXを果たせない企業は競争力を失うというレポートです。そうして国を挙げてDXを推進する機運が高まり、多くの企業がDXに取り組みました。
2025年の崖まであと3年に迫ったいま、それらの企業はどうなったのか。収益を生み出し事業化できているのか。そのあたりの状況を知りたい人たちは多いのではないか。そのように考えを深めて、「DXマネタイズ」という切り口でビジネスモデルを図解する企画『DX時代のマネタイズの公式』というタイトルにまとまりました。

最初のタイトル案(上)と練り上げたあとのタイトル案(右下)。
儲けのロジックを解説していることを表す意図でこの時点では「公式」とつけていました。

「うまいタイトル」の要件

DXとマネタイズ。そこはかとなく響きのよい言葉を組み合わせたタイトルに落ち着きました。いわゆる「儲けのからくり」のDX版です。調べてみるとこの組み合わせの本は出ていません。
これは行ける! そのときはそう感じていたのですが、周囲はピンと来ていない様子。そういう場合は、一度立ち止まって考えます。自分のなかでは「マネタイズ」はキャッチーだと感じていました。しかし一般的にはなじみの薄いワードなのではないか。ということは、わかりにくいタイトルなのではないか。要するにビジネスモデル図解の本なのだから、DXビジネスモデルでよいのではないか。
というわけで、小野塚さんや三津田さんと改めて意見を交わしたうえで「DXビジネスモデル」に決定しました。企画をいただいた当初から「これはビジネスモデルの本だ」という認識はありましたが、タイトルに使うキーワードとしては目新しさもなく普通すぎると考えていました。ただこれも調べてみると、「DX」と「ビジネスモデル」を組み合わせた既刊書はありません。結果として「シンプルだけどこれまでにない」、要するに「当たり」が引けたのです。

最終的に「時代」や「公式」をなくしてシンプル&ストレートなものに。
具体的な内容はサブタイトルやキャッチコピーとして添えます。

いちばん重要なことってなんだ?

たいていの書籍は、章→節→項というように内容が階層化されていて、それぞれわかりやすい見出しがつけてあります。ここでもやはりタイトル(見出し)が重要です。
実用書の編集セオリーに「見出しだけ読めば(中身を読まなくても)内容が理解できるようにする」というのがあります。言い換えれば、その項目でもっとも重要なことを見出しにするということ。突き詰めるとそれは「著者がいちばん言いたいこと」となるでしょう。だったら見出しを著者・小野塚さんのセリフにしてしまおう――ということで、今回の本では各項目の見出しを吹き出し風にして、小野塚さんをキャラ化したアイコンをつけました。
吹き出し自体はよくあるあしらいです。しかしそれをいちばん目につく見出しにすることで、パッと開いたときに本書を印象づけるフックになればと考えました。また、DXビジネスモデルというテーマが醸す堅い印象をやわらげ、親しみを感じながら読み進められる効果も狙っています。加えて著者のキャラを立てることもできます。
結果的に、中身でも本書ならではの個性や特徴が出せたと思っています。

大きな見出しと、POINTのタイトルを吹き出しに。
小野塚さんのアイコンは表情を変えて3種類用意しています。

さて、今回は『DXビジネスモデル 80事例に学ぶ利益を生み出す攻めの戦略』のタイトルまわりに焦点を当て、「どうしてこうなったのか」をひもといてきました。積み重ねた思考を一枚ずつはがして、ふたたび重ね合わせる作業は、索然として味寡でした。しかし一枚一枚はつかみがたいページも、合わせ綴じれば知性になります。そしてそこには著者をはじめ、編集者、デザイナーなど本づくりにかかわるすべての人の意図がこもっています。そんな紙面の片隅に思いをはせてページをめくるのも、翻って一興でしょう。


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