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書籍編集者・佐川莉央 誰にも負けない探求心で読者目線の本づくり【インプレス出版人図鑑】

さくらももこのエッセイを読んで編集者を目指す

―――インプレスに入ろうと思ったきっかけを教えてください。

編集者になりたいなと思っていたのは中学生くらいからです。さくらももこさんのエッセイが好きで小学生のときからよく読んでいたのですが、その中に出版社や編集者とのやりとりが出てきて、当時は派手なこともできた時代だったようでとても面白かったんです。そこで中学生のときに出版や編集の勉強ができそうな大学に狙いを定め、高校、大学と進学しました。学生時代もジャーナリズムや編集の授業をとったり、ネットニュースの会社でアルバイトをしたりして就職活動も出版社に絞って応募し、ご縁があったのがインプレスでした。

最初の会社説明会のときに作文の試験があったのですが、大好きなジャニーズのことを書いたところ、面接でも不思議と話が弾みました。なにより私に興味を持ってくれたのが嬉しかったですし、ここに受かったら幸せだなと思ったのを覚えています。「どんな本を作りたいですか」ということももちろん聞かれたのですが、「双眼鏡のムック本が作りたいです」となぜか答えた気が……。ただ、双眼鏡の本はまだ作れていませんが(笑)。今年で入社4年目になりますが、インプレスは上司や先輩もみなさん優しいので安心して仕事ができます。

ターゲットに届く書籍づくりを学ぶ

―――新入社員研修のあとに、ビジネス書やIT関連書を主に手掛ける編集部に配属されていますね。新卒からいきなりビジネス書などの編集は難しく感じたりはしませんでしたか?

学生時代にはビジネス書はあまり読んだことはなかったのですが、私自身は興味を持ったものはとことん追求したくなるほうなんです。そのため、興味があればどんな本でもきっと作れるようになると思っていました。1年目は『できるポケット 最強のメモ術 OneNote全事典』と『できるポケット Web制作必携 HTML&CSS全事典 改訂版』の2冊を担当しました。特に『OneNote全事典』は初心者の方にツールの使い方をお伝えする本なので、ソフトに詳しくない読者目線で本づくりができました。私個人はツールやソフトを使うときは説明書なしでも感覚でなんとなく使えるようになるので、こういった本に需要があるのかはわからなかったのですが、できるシリーズのわかりやすいフォーマットに従って作ったところ、ありがたいことに出版後しばらくして重版がかかりました。

この2冊を通して、ターゲットとなる読者の心に届くようにするにはどうすればいいかを学べたのは大きかったです。たとえば『OneNote全事典』なら、パソコン自体は使えるけれど、急に新しいソフトを使わなければならなくなった方がターゲットです。そういう方が本を手元に置いてストレスなくソフトを使えるように詳しい内容にしようと心がけました。また、『HTML&CSS全事典』ではWeb制作に携わる方が、いろいろなサイトやHTMLを画面に表示しながら「これはどういう意味なんだろう」と思ったときに、さっと調べられることを重視しています。ターゲットを定め、類書もきちんと研究し、読者が何を知りたいのかを把握した上で丁寧に解説していくことが大切だと実感しました。

『できるポケット 最強のメモ術 OneNote全事典』、
『できるポケット Web制作必携 HTML&CSS全事典 改訂版』

父のひとことからTeamsの解説書を企画

―――その後『できるポケット テレワーク必携 Microsoft Teams全事典』を担当されたそうですが、ネット書店で多くのレビューが付くなど好評ですね。

ありがとうございます! この本の企画は、私の父のひとことから思いついたんです。父はコロナ禍になる前から、会社でMicrosoft Teams(リモートワーク向けのコラボレーションツール)を使っていました。「わかりやすいTeamsの本があったらいいのにな」とつぶやいたのを聞き、早速Teamsとはなんだろうと調べてみました。するとなかなか面白そうなソフトでした。早速Teamsの本を作ってみたいと企画に出したのですが、当時はそれほど一般的ではなく「このソフトを使う人はどのくらいいるか調べてから書籍化を考えよう」と言われ、企画化は一旦おあずけに。その後突然コロナ禍になり、あれよあれよという間にTeamsの需要がどんどん高まったので解説書を作ることになりました。Teamsはマイクロソフト365を契約している会社ならプランに入っているソフトなのですぐ使うことができます。そのためテレワーク下で、テレビ会議の普及による利用が急拡大しました。あらゆるビジネスパーソンがすぐに使い方を覚える必要があったので、本当に幅広い年代の方々が書籍を手に取ってくださいました。あとで上司から「もっと早く企画を通しておければよかったね」と言ってもらいましたが、自分の中で事前に企画のイメージがあったからこそ、素早く書籍化できたのだと思います。

『できるポケット テレワーク必携 Microsoft Teams全事典』

―――その1年後に今度は中級向けのTeams本『Microsoft Teams踏み込み活用術 達人が教える現場の実践ワザ』も担当されたとお聞きしました。こちらも好調なようですが、どんな流れで出版に至ったのでしょうか。

『Microsoft Teams全事典』を作っている時に、Teamsには他にもいろいろな機能があると知り、それならさらに発展的で便利な使い方を解説する本があっても面白いのではないかと思って企画したのが『Teams踏み込み活用術』です。初心者向けから一歩踏み込んだ本を作るからにはTeamsに本当に詳しい著者さんに執筆をお願いしたかったですし、そもそも発展的な内容のTeams本に需要はあるのか、紹介できる機能はあるのかを確認する作業も必要でした。著者の太田浩史さんはTeamsが実際に使われている現場を知りつくし、どのような課題があるのかもわかっている方です。Teams中級者に向けた本ですが、太田さんにいろいろと教えていただきながら、タイトル通り、より踏み込んだ内容に発展させることができました。中級者向け、上級者向けだからといって解説を小難しく書く必要はないので、できるだけわかりやすい文章表現になるように気を使いましたね。それと、この企画は踏み込んだ使いこなし方が詰まっているのが特徴なので、Teamsを全く使ったことがない初学者をあえて狙わずに、中級者以上の方に響くタイトルになるように最後までこだわりました。昨年刊行したのですが、こちらも好評で、すでに3刷まで版を重ねています。

『Microsoft Teams踏み込み活用術 達人が教える現場の実践ワザ』

あくなき探求心が長所の彼女は、4月から法人営業部へ

―――お話を伺っていくと、佐川さんはものごとに取り組んだらがっつりとハマるタイプの方のように感じます。

多分そうだと思います。目指すものがはっきり見えていたほうがやりやすいですし、何かに取り組んだらとことん掘り下げることが得意ですね。就活のときにも「私は興味を持てたことなら誰にも負けないです。興味が持てるように努力してやっていくつもりです」と面接官に話しました。やると決まったことはとことん調べて、面白いと思うものを自分なりに見つけて知見を深めていきます。

ただ……深く掘り下げるのが得意な半面、編集部で過ごしてきた3年間を振り返ってみると、広く情報収集をすることにはチャレンジできなかった気もしています。父のつぶやきからヒントを得たTeamsの書籍は結果的には大成功でしたが、まったく違うジャンルから発想を引っ張ってくるような企画はあまり立てられなかったのが反省点ですね。本当はいろいろな人と会って話したりしたかったのですが、コロナ禍で気軽に雑談するチャンスも残念ながらありませんでした。人と会って情報収集の幅を広げることは、これからの私の課題かもしれません。

―――4月からは編集部から法人営業を担当する部署への異動が決まっているとお聞きしました。

はい、4月からはコンシューマー向けのメディアの営業に就くことになっています。インプレスに入社してから編集しかやってこなかったので、営業という初めての仕事に「私にできるかな?」という気持ちはあるのですが、媒体側のことを理解しながら仕事に取り組めたら、少しは編集者時代の経験が生かせるはずです。営業でいろいろな方と話せば知見も広がり、新たな企画の提案もできるのではないかと考えています。きっとそれは今後の私にとってもプラスになるはずです。新しい仕事は不安もいっぱいですが、楽しみでもあります。営業でいろいろなことを経験して自分の幅を広げられれば、もしまた編集に戻ることになっても、今度は営業職の経験を本づくりに生かしていけると思っています。

―――次に佐川さんがどのような活躍をされるのか楽しみにしています。今日はありがとうございました。

インプレス出版人図鑑】は、書籍づくりを裏方として支える社員の声を通じて、インプレスの書籍づくりのへ思いや社内の雰囲気などをお伝えするnoteマガジンです。(インタビュー・文:小澤彩)
※記事は取材時(2022年3月)の情報に基づきます。


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