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【編集者の書棚から】#本好きの人と繋がりたい Vol.12

出版社は本好きの集まり。この「編集者の書棚から」では、毎回2~3人の社員が、いち読者として最近手に取った書籍を紹介していきます。「書棚を見ればその人がわかる」とよく言われるとおり、インプレス社員の人となりが垣間見えるかも(?)なマガジンです。今回ご紹介するのは、『闇の中国語入門』と『枕草子 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典』の2冊です。


視点を変えて物事を考える大切さを知った1冊

私は、大学で第一外国語として中国語を選択していたこともあって、今でも中国語がとても好きです。中国語だけにかかわらず、外国語全般をかじり学ぶことが好きで、そこから派生して手話にまで手を出したほどです。今でも、分からない言葉を話している動画を見たり、何を歌っているのか分からない外国語の歌を聴くと、その人が何を伝えたいのかがとても気になります……昔からそういう性分なのでしょう。

さて、本書は【闇の】という特殊な修飾語が付いた中国語教科書ですが、その実は非常に真面目な「言語文化学」の本で、【闇の】=【ネガティブ表現に特化した】という意味を示しています。では何故著者はそのような方針で本を書いたのかというと、日本にある中国語教科書に強く違和感を感じたからだそうです。その中で描かれている会話の世界はポジティブな感情に満ち満ちたユートピアで気持ちが悪い。もっと多様な面での表現を学ぶ必要がある!……悩み、恨み、悲しみ、不確実さ、厄介、恐怖といったネガティブ表現も知ることで、その国の文化理解がさらに深まるんだ!……といった感じです。確かに、皆さんも学んできたであろう【英語】の教科書でも、ニコニコした主人公と先生や友達が、楽しそうな会話だけをしているシーンで満ち満ちていましたよね。そこに「外国語の教科書の危うさ」を感じたのでしょう。私も激しく同意する面でした。

本書は、1つの感情表現単語を「例文」「例文の解説」「文化的背景の解説」という簡潔な構成で解説する流れになっており、スキマ時間を使って手軽に「3分で1単語が学べる」読みやすさがとても良いです。また、現在の中国の事情がリアルに描かれています。例えば、孤独を示す「孤独(gūdú/グードゥ)」「孤单(gūdān/グーダン)」という二つの単語の違いから、現在の中国国内における農村部での超高齢化の実情を解説しています。人の内面から湧き上がる感情「孤独(グードゥ)」、人の外部的要因で判断する「孤单(グーダン)」。同じ意味を持つ単語の奥に隠れている細かなニュアンスを知ることで、その国の実情や文化背景が見えてくるのってとても興味深いですよね。

翻して自分の日々の生活を考えたときに、物事をあまり深く考えずにお気楽に暮らす日々が続いていた私ですが、「これって本当にそうなのかな?」とか「相手は本当はどう思っているのだろう?」とか……言葉の持つ意味の可能性をていねいに観察する良いキッカケを与えてくれたのが本書でした。もちろんそればかりしていては毎日が疲れてしまいますが、メールを書いているときにふと手を止めて、「この単語を使って伝えて良いのだろうか」と考えることはとても良いことです。

変わった視点から中国語を学ぶ事を通して、言葉の奥に立っている「人間」をより意識してみようと意識改革された……良書でした。

いろいろな面から物事を考えることって大切ですよね。(編集部:畑中二四)


大河ドラマ『光る君へ』の時代へ転生できる本

「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、少しあかりて……」誰もが聞いたことがあるであろうこの一節は、平安時代に清少納言によって書かれた日本の随筆文学『枕草子』です。なぜ今回『枕草子 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典』(角川文庫)を紹介しようと思ったのか。

きっかけは、もちろんNHKの大河ドラマ『光る君へ』です。ファーストサマーウイカさんが演じる清少納言と、高畑充希さんが演じる藤原定子のやり取りが非常に魅力的で、特に清少納言の鋭い観察力やユーモア、定子との深い友情・信頼関係に引き込まれました。定子が「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく……」と読み上げるシーンは、それはもう美しかった。また、紫式部(まひろ)と道長の秘めたラブストーリーや、宮中での権力闘争もドラマの見どころの一つです。

さて、書店には数多くの『枕草子』が並んでいますが、その中でなぜ『枕草子 ビギナーズ・クラシックス』を選んだのか。このビギナーズ・クラシックシリーズは、はじめて古典を読む人でも最後まで読めるようにいくつかの工夫がされています。

・現代語訳→原文(ルビ付き!)→ 解説の順で構成されている
・全文ではなく重要なエピソードを中心に抜粋してまとめている

これにより、古典になじみのないわたしでも意味がわかり、原文のリズムも味わえます。そして時代背景や当時の慣習、登場人物の説明と関係性が詳しく解説されているため、読みながら場面をイメージしやすくなっています。

また、『枕草子』が書かれた時期についての具体的な記述は残っていないものの、清少納言が定子に仕えた期間とされる990年ごろから1000年ごろまでの出来事が書かれている、といわれています。ですから、全文はとても長く、全文を収めた文庫本にはなんと1000ページ近くにおよぶものもあります。わたしはコンピュータ書の入門書を何冊も編集してきましたが、どの本でも読者に「最後まで完読させられるか」をもっとも意識して作ってきました。その完読させるという視点でも、この『枕草子 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典』はいい塩梅に構成・抜粋されています。

『枕草子』は清少納言のユニークな視点や感じ方が面白く、とくに心に残ったのは四季折々の自然の美しさや季節の移ろいの描写です。桜の花や紅葉、雪景色など、清少納言が表現する風景は詩情豊かで、その時代の日本人が自然とどう向き合っていたのかがよくわかります。月並みな表現ですが、平安時代に書かれたものとは思えないほど、当時の日本が身近に感じられ、ドラマの世界へ転生した気分を味わえます。

ぜひ、NHKの大河ドラマ『光る君へ』を観たあと、本書を読んで感動をさらに深め、清少納言の魅力を存分に味わってみてはいかがでしょうか。ちなみにビギナーズ・クラシックシリーズからは『源氏物語』と『紫式部日記』も刊行されているので、ドラマの後半戦も楽しめます!(編集部・柳沼俊宏)



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