書籍編集者・関口雄也 「自分の興味」を企画に生かしてターゲット層にアプローチ 【インプレス出版人図鑑】
ものづくりがしたくて編集の道へ
―――関口さんは中途採用でインプレスに入られていますね。
新卒で印刷会社の出版部門に入り、その後編集プロダクションに転職しました。インプレスは3社目です。
もともと、ものづくりが好きで大学4年の時に本が作りたいと思って、まずは印刷会社で経験を積んだのち、編集プロダクションに転職しました。自分が好きなガジェット等のデジタル系ムックや雑誌づくりに携わり楽しく仕事をしていたのですが、結婚を機にじっくり腰を据えてデジタル系の仕事にっ取り組みたと思い、インプレスの中途採用試験を受けました。できるシリーズなどのパソコンソフトの操作解説書がインプレスの看板商品なので、きっと自分の経験が生かせると考えました。
細かい作業が求められる年賀状ムックを担当
―――入社してどんなお仕事をされたのでしょうか。
配属された部署は年賀状ムックを制作している編集部です。『年賀状DVD-ROM イラスト10000』や『かんたんさくさく年賀状』というムックを担当してきました。年賀状素材が1万点入っているのが売りのムックで、この素材づくりから任されたのですが、これがやることが本当にすさまじくて! 年賀状ムックは毎年10月初旬に翌年号が発売されるのですが、発売されたらすぐ翌々年の企画にとりかかります。収録されるイラストはすべて描きおろしの素材ばかりで、年明け早々からデザイン会社やイラストレーターに発注していくのですが、1万点の素材が一気に納品されてくるのでデータを確認しながら素材を作りあげていく……それは気の遠くなるような作業です。校了間際の8月から9月までの間は朝から晩まで毎日年賀状の仕事しかできないほどタスクがパンパンなんですよ。
インプレスでは年賀状ムックを13タイトルほど出版しているのですが、そのすべてのタイトルで使われる共通素材の発注担当が僕なので、大きなやりがいを持って仕事をしています。
―――話を聞いているだけで大変そうな作業ですが、関口さんの口調からは淡々と仕事をこなせる方という印象を持ちました。
周囲からはわりとそう言われますね(笑)。細かな作業を淡々とこなすのは編集プロダクション時代に慣れっこだったので「ひとつずつこなしていけばいつかは終わる」と思いながら仕事を進めています。年賀状ムックの編集は大変ではありますが、どの本にも愛着があり、思い入れをもって作ってきました。一方で、年賀はがき自体の発行枚数は減少傾向にあり、年賀状を出す人が年々減ってきていることも肌で感じています。それだけに、どうやったら読者が楽しく年賀状を出したくなるだろう、と考えながらいつも企画を練ったり素材を作ったりしています。
初心者の読者目線で金融系ムック本を編集
―――お金関連のムック本『いちからわかる!』シリーズも関口さんが担当されているそうですね。
編集部としてお金関連のムック本に力を入れていこうという方針が決まり、僕は『いちからわかる! つみたてNISA&iDeCo』と、今年の3月末に発売された『いちからわかる! FIRE入門 積立投資で目指す 早期リタイア術』を担当しました。
もともと僕も投資に興味があったので、NISAの口座は持ってはいたのですが活用できていませんでした。『NISA&iDeCo』については、そんな初心者の立場から「ここがわからない」という点を細かく制作会社とやり取りし、わかりやすさを追求して作りました。添えるイラストも、ほっこりと優しい作風のイラストレーターに依頼しています。
またFIREは「経済的自立・早期リタイア」を指す昨今話題のワードです。僕自身がターゲットとする読者と同じくらいの年齢層なので、いつか資産運用で経済的自立ができたらいいなと思ってはいるものの、どうすればいいのかよくわかっていませんでした。そこで類書を読みあさって結構勉強し、『FIRE入門』の企画を考えました。
実際にFIREできた人の体験談を読むと、もともと大企業に勤めていたから年収が高かったり、実家暮らしで家賃がかかっていなかったりと、「貯める」環境に恵まれていたケースも散見されます。一般の読者だったら「その人だからできたんだよね?」と感じるのではと思いました。そこで、それまでの書籍と差別化するために「自分だったらいくらくらい投資に回して、どういったFIREを実現できるのか」を、年齢・家族構成別に具体的なロードマップに落とし込みました。発売後、読者の方から「今からどうやってゴールを目指せばいいのかが明確になった」と感想をいただくこともあり、企画意図がハマってよかったと感じています。
親子で楽しめる鉄道カレンダーが大ヒット
―――また関口さんは鉄道系のカレンダーも手がけられていますね。ネット書店を見るとかなりの高レビューでびっくりしました!
『旅と鉄道』編集部による『日本を駆ける 新幹線カレンダー』と『四季を駆ける 特急カレンダー』は、ともに僕が立ち上げから関わり、ずっと担当しています。僕がインプレスに入社した2016年に『旅と鉄道』をの発行元である天夢人がインプレスグループに加わりました。このカレンダーは天夢人から声をかけていただいて実現した企画ですが、鉄道が好きだった僕が「ぜひ一緒にやらせてください」と手を挙げました。
このカレンダーもかなり企画を練りました。すでに鉄道のカレンダーはさまざま発売されています。子どもがメインターゲットの商品や、鉄道を入れ込んだ風景写真のような商品も多い中、僕は純粋に鉄道のかっこよさを楽しめる写真を使ったカレンダーにしたいと思いました。
子どもをメインターゲットと考えるとどうしても子ども寄りのデザインになってしまって、親がリビングにメインのカレンダーとして飾りたいと思えるもではなくなってしまいます。そこでターゲットは子どもから大人まで幅広くして、子どもが好きな鉄道の写真が載っているし、親世代の目から見ても「デザインがいい」と思ってくれるようなカレンダーにしようと考えました。カレンダーは子どもがかっこいいと感じる鉄道の画像をメインビジュアルにしているのですが、脇にはその鉄道の路線図や車両情報を載せました。こうすることで親子で一緒に鉄道のことが学べますし、リビングで路線図を見ながら「今度この鉄道に乗りに行こうか?」なんて話ができたら楽しいだろうなと思ったのです。
読者アンケートを見ると「毎年子どもが楽しみにしています」というコメントが多くて素直に嬉しいです。自分の思いを込めた企画の意図が読者の方にもきちんと伝わって、書店によっては鉄道カレンダーの売り上げナンバーワンにもなっているので本当に作ってよかったと思いますね。僕にも3歳と1歳の男の子がいますが、リビングには『四季を駆ける 特急カレンダー』を飾っています。僕も息子たちも電車が大好きなので、「乗り鉄」として一緒に出かけるのが最近のマイブームですね。
「読者第一」をモットーに本を作り続けたい
―――関口さんが考える編集者としての心構えや、今後どんな編集者になっていきたいかを教えてください。
あまり大それたことを言える立場ではありませんが、編集者にとって大切なのは、常に読者の立場に立って企画を考えることではないでしょうか。かつて先輩にも言われ続けたことですが、ようやく今になって「読者第一」という考え方が自分のものになってきた気がします。自分の企画した書籍が形になって書店に並んでいるのを見るときや、買ってくれた読者の方が書いてくれた感想を読んだとき、編集者としてのやりがいを感じます。
編集者を志したのは遅かったですが、これまでの興味、知識、経験が積み重なって今の仕事ができているのだと思います。「自分の興味」から企画を考えて本を作りだせるのは、編集者という仕事の醍醐味だと思います。今後はお金系の企画はどんどん出していきたいなと思っていますし、そのために本を読むなどして知識も広げていきたいです。
―――在宅ワークでお子さんと一緒に過ごされることも多くなったと伺っています。楽しそうに仕事をしているパパは、お子さんにとっても誇らしいでしょうね。魅力的な企画をこれからも楽しみにしています。今日はありがとうございました。
【インプレス出版人図鑑】は、書籍づくりを裏方として支える社員の声を通じて、インプレスの書籍づくりのへ思いや社内の雰囲気などをお伝えするnoteマガジンです。(インタビュー・文:小澤彩)
※記事は取材時(2022年4月)の情報に基づきます。