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【ゆるりと巡る大人の社会科見学 #1】企画から製造出荷までをワンストップで!効率化された印刷工場

子どもの頃に一度は経験したことがある「社会科見学」。お菓子の製造工場や、博物館などに学習の一環やレクリエーションで訪れたことがある人も多いでしょう。ものづくりの工程や歴史などの知識を得ることは大人になっても楽しいものです。「ゆるりと巡る大人の社会科見学」は、一般的にはあまり知られていない出版関連の工場や工房、施設をめぐってリポートするちょっとディープなマガジンです。記念すべき第1回目は、インプレスもお世話になっている日経印刷株式会社さまの印刷工場「グラフィックガーデン」にお邪魔しました。

浮間舟渡駅から徒歩10分、到着してまず驚いたのが、建物がガラス張りでとてもおしゃれ!詳しくきいてみると、江戸東京博物館や昭和館の設計された菊竹清訓氏のコンセプトデザインによるものだそうです。ガラスの透明性を活かして、工場周辺の緑と一体化させるという狙いで設定されているとのこと。この日は天気が良く、建物内部もとても明るくて窓から見える景色が壮観でした。

建物内部からは周辺の緑や街並みが一望できる。コロナ前の夏には「いたばし花火大会」を見ることができたそう

グラフィックガーデンでは、企画から発送までが1つの工場内で行われています。フロアごとに工程が分かれており、4階で制作、製版→3階で印刷→2階で製本、加工→1階で仕分け、梱包、発送というように上のフロアから下のフロアに順に進めていくことで製品が完成する仕組みです。というわけで、さっそく4階から順に工場内を見学させていただきました!セキュリティ上撮影禁止のフロアについては、宣材写真をお借りしてご紹介します。

まずはDTPデータを製版する工程からスタート

4階の制作と製版のフロアではDTPデータの制作風景や刷版の機械を見せていただきました。フロアにはパソコンがずらり。取引先から送られてくるデータはPDFだったり、InDesignのネイティブデータだったりします。しかも制作したバージョンもさまざまといったことから、制作環境ごとに合わせたパソコンが用意され、24時間体制で製版作業をされているそうです。依頼する側からすると、大変ありがたい環境です。
刷版ルームではCMYKで分版されたデータをそれぞれプレートに焼き付ける作業が行われています。以前はフィルムを使ってアルミ製の板を感光させて……という作業が必要だったそうですが、今はデジタル化が進みプレートに直接プリントするような形で刷版を作るそうです。工数の削減に加え、廃液を出さない環境配慮型の刷版とのことで、印刷技術の進化も感じさせていただきました。

1時間に50版以上も出力可能なプレートセッター
画像提供:日経印刷

刷版のサンプルも触らせていただきました。印刷用のプレートときくと、ハンコのように凹凸がついているものを想像していましたが、採用されているプレートは平版と言われる凹凸がないものでした。印刷に使うインクは油でできています。インクが乗る部分には水をはじく加工をしてインクが乗るように、それ以外の部分には水が浸潤するようになっているので凹凸がなくても印刷ができるという仕組みです。

巨大な機械が立ち並ぶ印刷フロア

平版を用いた印刷の仕組みがわかったところで、実際の印刷作業を3階で見せていただきましょう!
フロアに入ると、たくさんの印刷機が轟音で稼働しているのが目に入ります。これぞ印刷工場というインクのにおいにもテンションが上がります!こちらはまさに4階で見せていただいた刷版のプレートを使って印刷する機械で、最初に紹介いただいたのは4色両面印刷の機械。8つのユニットが付いており、紙の表面をCMYKの4色で印刷したあと紙をひっくり返して裏面にCMYKの4色で印刷、つまり両面印刷ができるわけです。この機械の特徴はUVインクで印刷されるというもの。紫外線を当てて短時間でインクを固めるので、次の製本の工程にもすぐ移れるというメリットがあるそうです。

両面印刷が可能な最新のUV印刷機
画像提供:日経印刷

2色の印刷機も見せていただきました。ちょうど「イモヅル式 ITパスポート コンパクト演習」の本文が印刷されているところだったので、できたてほやほやの1枚をお借りしました!こちらの機械では油性インクを使用しているので乾くのには一晩くらいかかるそうです。

「イモヅル式 ITパスポート コンパクト演習」の本文(2色印刷)

ものすごいスピードで印刷されていますが、ごみや傷をチェックするシステムを通しているので昔と比べると品質も格段に向上しているそうです。

「令和5年度 徹底攻略 情報セキュリティマネジメント予想問題集」の表紙も印刷されていたので、裁断前のものを拝見。真ん中にあるバーコードで、商品を管理しているとのこと

切って折って整えて書籍が出来上がる

2階は製本のフロアです。通常、1枚の紙には8ページもしくは16ページ分が印刷されていますが、これを折り機でページごとに折っていきます。オートメーション化で印刷物が仕上がるスピードはずいぶんと早くなりましたが、折りは「折る」という物理的な作業時間がかかるため、製本には2日間ほどかかるとのこと。

折り機。三つ折りや四つ折り、観音折りなど、さまざまな折り方に対応している
画像提供:日経印刷

次は製本の工程の中も見ごたえのある「断裁」を見学させていただきました。1,000枚ほどの紙の束を、圧力をかけて一気に断裁します。紙とはいえ、1,000枚となると木を切っているのと変わらないくらいの動力が働いています。断裁の瞬間は、圧力がかかってギュルっという独特の音がします。

断裁機。ものすごい圧力がかかるため断裁の刃も数日で取り換える必要がある
画像提供:日経印刷

次に紹介いただいたのは巨大な無線綴じライン。折り機で折った紙は1冊単位でまとめられ、無線綴じラインへ。ベルトコンベアで次々と書籍の原型となる紙の束が運ばれてきて、乱丁の検査から表紙やカバーつけなどを一気に行います。はがきなども、自動で投げ込みされるそうです。私達が書店で目にする書籍が仕上がる瞬間ですね!
最後に、指定された部数ごとに梱包されます。この工程は手作業などが入るそうです。

高速無線綴じライン。乱丁検査や表紙・カバーつけなども一気にできる
画像提供:日経印刷

見学ツアーの締めは倉庫と製品が並ぶギャラリー

1階には製品の発送や保管をするための倉庫や製品のサンプルなどが展示されているギャラリーがあります。倉庫は外から撮影させていただきました。大量の印刷物が積み上げられている様子は迫力があります。ここから発送された書籍が、巡り巡って読者の手に届くわけですね。

外から撮影した倉庫

日経印刷さま、およびグループ会社さまでは書籍だけでなく、デジタルコンテンツやパッケージ、販促物なども製造もされています。ギャラリーではその一部を拝見させていただきました。

左:お米や卵の殻を使って作られたサステナブルなビニールバッグ
右:フラッシュをたいて撮影するとおばけが浮かび上がるパネル
ギャラリーではデジタルコンテンツ(VR動画)も体験できる

さて、今回は日経印刷さま全面協力のもと、工場を見学させていただきました。書籍ができる工程を詳しく解説いただくという貴重な経験をありがとうございました!今後も「ゆるりと巡る大人の社会科見学」では出版物に関連する工場などを中心にさまざまな施設をリポ―トしていきます。

※今回見学させていただいた、日経印刷さまのグラフィックガーデンは一般の方の見学は受け付けておりません。