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出版営業・平田葵 編集部から異動して見えてきた「売れる本の特徴」【インプレス出版人図鑑】

「人に何かを伝えたい」が原動力。ビジネス書籍の編集を担当

―――インプレスに入社を決めた理由を教えてください。

大学時代、外国語学部で英語や言語学を学びましたが、そこで自分の興味は「何かを伝える」ことにあると感じ、「伝える」をキーワードに就職活動をしていました。その中で出会った会社がインプレスで、『できるシリーズ』もそうですが、ITの技術を読者にわかりやすく丁寧に伝えることに真摯に取り組んでいる会社だなと感じて入社を決めました。最初に配属となった編集部では、ITやビジネス関連書籍の編集をしていました。読者が書籍を読んだときに、どういう誌面ならわかりやすいか、文章表現やデザインにこだわりながら編集するうちに、自分が身につけたかった「何かを伝える」基礎を学ぶことができたんじゃないかと思っています。

―――編集部ではどんな本を作られていたんでしょうか。

主にビジネス書籍を手掛ける編集部なので、働き方改革やExcelの本、変わったところではデッサンの本などを担当しました。最も版を重ねられたのは『関数は「使える順」に極めよう! Excel 最高の学び方』という本です。

私自身、Excelは限られた操作しかしない初心者でした。「Excel関数っていっぱいあるけど、全部覚えられないし、本当に必要な関数って5つくらいじゃない?」そんな素朴な疑問からスタートした企画で、全く分からない人にもどうやったら分かりやすく伝えられるかを著者さんと練りに練って作り上げました。書店に行って類書を確認し、なぜその本が売れているのかを考えたり、Excelを仕事で使っている友人に「Excelのどんな機能を使ってるの?」「Excelはどの本を見て勉強したの?」と聞いたりもしましたね。また、編集部で毎週行われる会議で先輩社員にアドバイスをいただき、より詳しくわかりやすい本へとまとめ上げていきました。出来上がるまでかなり時間がかかりましたが、その甲斐あって6刷まで版を重ねることができました。

『関数は「使える順」に極めよう! Excel最高の学び方(できるビジネス)』

3年後に書店営業へ異動。「誠実さ」をモットーに書店営業の毎日

 ―――編集部で3年間経験を積んだのち、営業部に異動されていますね。最初に部署異動の話を聞いたとき、どう思われましたか?

「あ、営業部もいいかも」と前向きに受け止められました。「編集って奥が深いし、まだ分からないことも多い。自分の中で自信を持てる何かがあるといいんだけどな……」と思っていたタイミングだったので、より読者に近い書店営業という仕事を通じて、どんな本が売れているのかを知るのは自分の糧になるなと思ったんです。
営業部は書店営業という仕事柄、社交性が大事な部署なだけに、メンバーがみんな明るくてにぎやかでした。趣味も多彩でみんな個性的で、すごく面白いです。

―――書店営業ってどんなことをするんでしょうか。

私は東京と千葉、北海道の書店、数百店舗を担当しています。さすがに全店は訪問しきれませんが、1日5店舗以上は訪問しようと心掛けています。
まずは担当する書店に訪問してインプレスの本が並んでいる売り場の棚をチェックし、在庫を確認します。売れ筋の本が欠品していたら、書店の方に「今この本とこの本が売れているんですが、在庫がないので補充をお願いします」と言って注文していただく流れです。書店さんではスペースを取ってフェアを開催したりもするので、「うちのシリーズを次のフェアで大きく出していただけませんか?」というご提案もしています。

配属されたばかりのときは、書店さんに行く前に電話すべきかすべきでないか、どの本を重点的におすすめするべきなのか、そんなことすら悩みましたが、今は自分でうまくスケジュールを立てて、「この本のここが魅力で売れています」ということを書店の方にお伝えできるようになったと思います。

営業3年目になって、大切だなと思っていることは、自分が本当にいいと思っている本、おすすめの理由を、きちんと自分の言葉で伝える「誠実さ」です。新刊のご案内や売れ筋の提案も、この本のここがいいからぜひ置いてください、と伝えられるように日々頑張っています。

ただ、この3年間のうちにコロナ禍になり、書店訪問にも気を使う場面が増えました。訪問が難しい場合は、電話やメール、FAXでのご案内ということもありますし、特に北海道へはなかなか出張することができず、回れていないお店も多くて今ももどかしいです。なるべくお店に足を運んで、店内の様子を見て、在庫の状況も自分の目で確認したいですし、メールや電話ではなくて相手のお顔を見て話したいと思っています。もちろん売上だけならパソコンのデータで確認することはできますが、書店の方に「この本が売れているよ」と教えてもらったり、他の本と見比べながら意見を交わしたり、実際に本が売られている現場だからこそわかることを大切にしたいんです。

売れる本にはストーリーがある

―――営業のやりがいってどんなところで感じますか?

 自分で仕掛けたものが売れた時に、一番手応えを感じますね。書店の担当者の方と仕掛けやフェアを企画するんですが、その企画が当たって売上が伸びたときに書店の方と喜びを分かち合ったりもします。書店の皆さんは本当に優しい方ばかりで、毎日楽しく営業に伺わせていただいています。編集者時代に自分が担当した本を営業することもあるので、担当編集としての自分の思いを伝えることができるときも、これまでの経験が生きているなと感じます。

実は営業部に配属になって、重版になる本はどういう本なのか、少しわかったような気がしているんです。営業として本を提案するときに「この本はこういう本ですよ」って最初にパッと言える本は、書店側も売りやすいですし、読者にとってもわかりやすい本だと思うんです。たとえば先ほどお話した『Excel 最高の学び方』が売れている理由は「関数はたくさんあるけれど、実際現場で使うのは5つくらいだよ」というわかりやすいストーリーがウケたのかなと思います。

『できるポケット 時短の王道 ショートカットキー全事典』という本を書店さんで仕掛けたときにも、わかりやすいストーリーの重要性を再認識しました。編集部にいたときに企画や制作の過程を近くで見ていた本だったので、「この本に出ているショートカットキーを覚えれば、最も手っ取り早くパソコン作業を時短できますよ」という話をお伝えできました。仕掛けのおかげで、なんとひと月で200冊近くも売ることができたんです。この成績は全国1位でした。編集部時代の知見がこうして営業で生かせていると思うと感慨深かったです。

もちろん、売れると思って自分が推して発注してもらった本が思うように売れない時もあります。そのときは凹みますが、引きずらないようにして一晩寝たら切り替えます!書店さんには「ちょっと今回申し訳なかったのですが、次また頑張りますのでよろしくお願いします!」と言って、書店の売上に貢献できるような新しい仕掛けのご相談をしています。

直近では、新刊『見やすい資料のデザイン図鑑』を大展開いただいています。この本は著者さんの前作である『一生使える見やすい資料のデザイン入門』が12万部超えと実績があり、「図鑑」という切り口も新鮮であったことから力を入れて提案しました。おかげさまで売れ行きも好調なので、これをきっかけに全国的にも売り伸ばしを図っていきたいなと思っています。

新刊『見やすい資料のデザイン図鑑』の仕掛け展開(丸善 津田沼店さま)

書店さんと一緒に売り上げを伸ばすことが喜びに

―――2021年度のインプレスの年賀状素材集では、平田さんが担当する書店が全国売上1位だったと伺いました。

 そうなんです。今まで他の書店さんが売上1位だったんですが、どうしても追い抜きたくて頑張りました。書店の担当者さんも頑張ってくださって、いろいろと工夫を重ねてインプレスの年賀状素材集の売上で担当書店が1位、3位を取ることができました。その書店さんはおしゃれな雰囲気を大事にしているお店だったので、赤や黄色の原色を使ったPOPではなく、モノトーンに黄色を入れただけのシンプルなデザインにして「目立ち過ぎないけれどちゃんと文字は読めるようなPOP」を自作しました。売り場で差別化を図ったことで、インプレスの商品を選んでいただけたので、初心に立ち返って「POPなどで飾り付けをして、店頭で目立たせるのはやっぱり大切ですね」と書店の方と再確認しました。

書店のみなさんのご協力にはとても感謝しています。それと、コロナ禍から営業部ではインスタのアカウントを立ち上げたのですが、営業部のメンバーの投稿に書店さんが「いいね」を押してくださることもあり、書店さんとつながれている気がしてとっても嬉しいですね。

 ―――これから平田さんはどんなお仕事をしていきたいのでしょうか。

 最近、取次営業の仕事もしていて、営業の奥の深さに改めて気付かされたので、新しい仕事もしっかり学んでいきたいと思います。それと、もし今後、編集部に戻るようなことがあれば、営業経験で学んだストーリーや特徴をぱっと説明できるような書籍の企画を出していきたいですね。

―――編集と営業の2つを経験したからこそ色々な視点を取り入れられるんですね。平田さんの今後の活躍を楽しみにしています。今日はありがとうございました。

インプレス出版人図鑑】は、書籍づくりを裏方として支える社員の声を通じて、インプレスの書籍づくりのへ思いや社内の雰囲気などをお伝えするnoteマガジンです。(インタビュー・文:小澤彩)
※記事は取材時(2022年1月)の情報に基づきます。


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