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著者×編集者対談|みんながマネしたくなるデザインの本は、こうして生まれた

累計19万部を突破した大人気の配色本『3色だけでセンスのいい色』。今回は著者であるingectar-e(インジェクターイー)代表の寺本恵里さんと、担当編集の宇枝瑞穂の対談をお届けします。書籍の執筆だけでなく、飲食業やスクール事業など、さまざまな仕事を通して「喜ばれるものを作ること」をぶれずに追求する寺本さん。ベストセラー書籍の制作裏話や、寺本さん流の仕事術を語っていただきました。


初心者目線の「3色だけの」配色本がベストセラーに

宇枝瑞穂(以下、宇枝) 寺本さんと初めてお仕事した2019年から、手帳や書籍などをご一緒させていただいてますが、今もingectar-eさんは私にとって憧れの存在です。自分が初めて読んだデザイン書の著者さんであり、今でも一緒にお仕事させてもらえてうれしいという気持ちでいます。

ingectar-e 寺本恵里さん(以下、寺本) 宇枝さんからいただく企画は、どれも絶対的な魅力があって「この企画、私たちなら絶対にいいものが作れる」と思ってお受けしています。「これ絶対売れるな!」「すごく作りたい!」と思う企画ばかりいただいています。

宇枝 ingectar-eさんと作った3色だけの配色本『3色だけでセンスのいい色』は、おかげさまで19万部のベストセラーになりました。

メインターゲットに想定していたノンデザイナーだけでなくイラストレーター、ハンドメイド作家などプロクリエイターの方々にもご支持いただけて、発売当初は反響にびっくりしました。去年11月に第2弾である『3色だけでセンスのいい色PART2』を出版しましたが、こちらも大好評です。

第2弾も累計2万部を突破!

寺本 色にも流行があるので、前作から3年経った今の流行の色を入れた第2弾を作りたかったんです。3年前には浸透していなかった「サスティナブル」という言葉も、今ならオンタイム。また、幸福感のあるカラーも人気を集めています。第2弾を作るためには、色の流行に合わせて内容をバージョンアップさせていくことが大事だと思ったんですよね。

第1弾、第2弾で収録しているカテゴリー

宇枝 第1弾はくすんだ色が出始めた時期だったので、くすみカラーを多く掲載しましたが、第2弾はコロナの影響で明るめの色が人気になってきていたので、パステルやビビッドな色を多めに載せていますよね。

第1弾ではくすみカラーを多く掲載
第2弾ではビビットカラーなどの明るめの色を中心に紹介

寺本 最初、3色だけの配色本を作りたいと宇枝さんに言われたとき「私、ほかの出版社から10色の配色本出してますけど……」ってお伝えしました。しかし、宇枝さんに「私、10色提示されても、そこから色が選べないんです……」って言われて、「えええ!!」って。ほんと衝撃でした(笑)!10色から選ぶのが楽しいんじゃん!って思ったんですけれど、それってクリエイターの感覚で、私がデザイナーだから感じる感覚だったんですよね。

宇枝さんから、「初心者の方は、10色から色をどう選んだらいいのかわからない。最初から3色になっていたらうれしい」と言われて、それは私にはなかった発想だなと思いました。ただ、配色を3色にまで絞るのであれば、カラーバランスがすごく大事です。そこでベースカラーやメインカラーを提示したカラーバランスを載せましょう、と提案しました。バランスによってセンスの良し悪しが決まってしまいますから……。

宇枝 配色だけではなく、作例もいろいろ考えましたよね。

寺本 最初、ポスターの作例ばかりの紙面を提出したら、イラストレーターやハンドメイド作家さんは、グラフィックデザインではなくもっと身近なデザインから共感を得てもらえるのではないかと宇枝さんに言われたんです。そこで、カードやテキスタイルなど、色だけがわかりやすく見える作例を追加して紙面を見せるようにしました。

宇枝 そうしたこだわりが、幅広いユーザーに手に取ってもらうことへつながったと感じています。

赤字ばかりのPDF。お互いの違和感を解決していい本ができあがる

宇枝 書籍を製作するうえで、気になった点はPDFに赤字を入れてお送りしていますが……(汗)。

寺本 そうそう!PDFが宇枝さんの赤字で真っ赤ということもあって、スタッフと一生懸命直しました。でも私、それでいいと思ってます。私の中には常に「より良くしたい」っていう思いしかない。だから、現状より良くなるのであれば、そのために別に100回くらい修正しようが、やります。

宇枝 はじめて編集担当した時は、デザインのプロが作った紙面に対して、デザイン初心者の私が赤字を入れてもいいのだろうかと悩んだときもありました。でもやっぱり編集者としては、ここはこう直したほうがより良くなると思ったら、赤字を入れたいんですよ。だから最初は恐る恐る赤字を入れていました。

でも、寺本さんが「いやいや、宇枝さんの意見があるからいいんです。初心者目線とプロ目線の2つが合わさって本が良くなるんですよ。だから言いたいことがあったらどんどん言ってください」と声をかけてくださって、そこからはもう遠慮しないでどんどん赤字を入れるようになりました(笑)。

寺本 PDFに「こう考えているからこうしたい」って私が赤字を入れると、「いや、これはこうだからこういう考え方でこうしたい」って宇枝さんから赤字が返ってくる。お互いに説明を重ねて納得して、修正するのは大変ですが、その説明をはしょったらダメだなと思ってます。丁寧にやりとりして、お互いの考え方を納得し合って「これはこうしよう」「これはこっちに戻そう」みたいなことが大切だと感じます。

とにかく私は、紙面に違和感があったらダメだと考えていて。説明の言葉ひとつとっても「何かひっかかるよね」「読みづらいよね」「語呂が悪いよね」みたいに……。言葉もデザインも、紙面から何かしっくりこない感じがあったら、それを宇枝さんに伝えてとことん話し合っています。お互いの違和感をひとつひとつ無くしていく作業こそが、書籍の制作では一番重要なことだと思います。

ingectar-e流 デザインスキルを上げる方法

宇枝 今はデザイナーだけでなく、色々な方がデザインする機会も増えていますが、デザインスキルって、どうすれば上がるのでしょうか。初心者がデザインスキルを上げるためにできることはありますか。

寺本 一番大事なのは、デザインを見たときに言語化することです。例えば、あるデザインを見たときに「これ、可愛い」「おしゃれ」「すごい」だけで終わってしまってはダメ。このデザインをおしゃれと感じるのはなぜなのか。フォントの違いなのか、余白があるから洗練して見えるのか。自分の中で「この点がこうだからおしゃれに見える」のように、一度言語化できると自分の次のデザインに活かせると思います。

宇枝 なるほど! 寺本さんがどうやってデザイン力を磨いているかも気になります。

寺本 きっとデザイナーなら皆さん一緒だと思うんですが、とにかくインプットすることです。多くの情報を自分の中に入れないと、アウトプットもできないものですからね。私が日々やっていることをご紹介すると……。

RSS収集アプリで、デザインに関するあらゆる記事を収集し、嫌でもどんどんいろんなジャンルのデザインが見られるようにしています。雑誌もサブスクで目を通しますね。また、クライアントから海外の展示会の写真をもらうことも。

他には、プレスリリース配信サービスもよく見ています。プレスリリースには新しいコスメや新しいフード、新しいサービスの情報がリリース日に出てくるので、早く情報をつかめます。それから海外のBtoB、BtoCのサービスもチェックしますし、ネットのリアルタイムランキングも見ています。トレンドに関するものは目を通しますね。仕事の為にやってるというよりかは、人格的にも好奇心旺盛な方ですし単純に「ミーハー」だと思います。

宇枝 え……!それ、毎日やっているんですか?

寺本 そうですね、毎日全部こなせないときもありますけれど、インプットしないと、いいものなんて出てくるわけがない!海外旅行も大好きなので、コロナ前にはよく海外に行ってインスピレーションを得ていました。

ingectar-e 寺本恵里さん

デザインとは貢献。その先に、人生の充実がある

宇枝 毎日それだけのインプットをしつつ、本を作ってカフェを運営して、さらにオンラインのデザインスクールも開校されると聞きました。寺本さんのバイタリティって、一体どこから出てくるんですか。

寺本 クライアントや周りの方達から「一緒にやりましょう!」と声をかけていただいたりもありますし、自分の中でアイデアが出てきて「これやりたい!」となったりすることもあります。めちゃくちゃインプットすると「あ、これをこうして、あれをああして」と組み合わせられるようになります。そこから何かを生み出したくなるんですね。

私にとって、デザインとは「貢献」なんです。クライアントの課題を解決したいし、私はとにかくデザインを買ったり、食べたり、見たり、使ったりして下さる皆さんに「貢献」したいんです。これは会社(ingectar-e)の経営理念である「喜ばれるを作ること。」にもつながります。

6月にオンラインのデザインスクールを立ち上げるのですが、これも、書籍以上にもっと深くデザインを学びたいという方への「貢献」ですね。「3色だけでセンスが良くなる」「余白を作るだけでデザインは洗練する」……。私たちはこれまでたくさんの本を通じて、これさえ学べばデザインの変化を感じられる、というポイントを徹底的に伝えてきました。今度はデザインスクールで「デザインを学ぶと人生が変わる」っていうことを伝えたいと思っているんです。

デザインスクールですから、デザインツールの使い方も学びますが、徹底的にデザイン実践に特化して、デザインの表現力を向上させて、フリーランスの方でも会社員の方でもデザイン力で信頼される提案や仕事ができるようになることを目指したい。表現力や提案力のスキルを磨く先にあるものは、「人生の充実」です。

フリーランスでも会社の中で仕事をしていても、仕事の案件って、「新規」と「継続」しかないですよね。「新規」のお仕事をやらせてもらったあと、「継続」して仕事ができるほうがコミュニケーション的にも売上的にも絶対にありがたい。継続してチャレンジさせてもらえたら、クライアントの商品やサービスをより深く理解していき、さらにより良い提案ができ、どんどんクライアントに貢献できるようになります。仕事もやりやすくなり、良いものを作ることや信頼関係の中で仕事ができて楽しくなり、結果として自分の人生も充実します。宇枝さんとも何年もお仕事させていただく中で、宇枝さんのことがよくわかってきて、一緒により良い本が作れるようになっているなと思います。

宇枝 寺本さんのお話を聞いていると、人生が充実しているんだなとすごく伝わってきます。
 
寺本 そうですね。これまでに数多くの本を出させていただき、今の私があります。それをスクールでも伝えたいですね。
 
私たちの本って、わりと1冊1テーマみたいなものが多いので、企画の段階で、同じ色の本でも絶対的に違う切り口にしたいですし、すでに出した自分たちの本との差別化はすごく考えてきました。類書を作るだけなら各会社の編集者さんたちにも失礼だと思うので、すべて全く違う切り口の本にしているつもりです。

ちょうど今、宇枝さんと進行している新しい書籍企画も、いい本になると思います。絶対に成功させましょう!

宇枝 はい! 読者の方々にも楽しみに待っていてほしいです。

ー次の書籍も楽しみです。寺本さん、ありがとうございました。

(文:小澤彩)


▼対談で登場した書籍
『3色だけでセンスのいい色』
シリーズ累計19万部突破。配色が苦手でも、センスに自信がなくても。たった“3色”でおしゃれな配色が完成する配色アイデアを多数収録した配色アイデア本。

著者:ingectar-e 寺本恵里さん
デザイン事務所ingectar-eの代表。デザイン書の執筆やイラスト素材集の制作をしている。著書は40冊以上。代表作『3色だけでセンスのいい色』は累計19万部、『けっきょく、よはく。余白を活かしたデザインレイアウトの本』(ソシム)シリーズでは、累計50万部を突破。カフェの運営、店舗展開、企画を行うほか、6月からオンラインのデザインスクール『Fullme(フルミー)』を開講。

担当編集:宇枝瑞穂
インプレスで女性実用書やデザイン本、手帳を担当する編集者。ingectar-eさんの著書『3色だけでセンスのいい色』『マネするだけでセンスのいいフォント』『とりあえず、素人っぽく見えないデザインのコツを教えてください!』『3色だけでセンスのいい色PART2』を担当。