著者×編集者対談|「10日でBlender 4入門」が初心者から大好評の理由とは?
書籍を通してBlenderの裾野を広げたい! 企画の裏側について
小野寺淑美(以下、小野寺) もともと書籍の企画としては、SNSでBlenderの作品を見かけるようになり、興味を持って調べていくうちにM designさんのYoutube動画を知ったことがきっかけでした。最初の打ち合わせのことは覚えていますか?
M designさん(以下、M design) 最初の打ち合わせで私のYouTube動画について「最小限の手数で済むよう解説してくれる」って褒めていただいたのを覚えてます。まさに初心者の方向けになるべくシンプルな工程で済むよう意識していたので、嬉しかったですね。だからこの本でも「少ない手数だけど充実感があるもの」を作れるよう意識しました。
小野寺 私もまだまだBlender初心者ですが、初めてBlenderに挑戦する方は、いきなり専門用語が連発したり複雑な工程が登場したりすると、理解できずに制作が遅れてしまうんですよね。
M design そうですよね。ただ、教える側としてはBlenderに慣れてしまうと「どういった言い回しが伝わりやすいか」が分からなくなってしまう。そこは、小野寺さんに助けられました。
小野寺さんに最後まで言い回しについて「より良い伝え方がないか」粘っていただいて、とにかく「小学生にもわかるくらい易しくする」ということを考えていらっしゃいましたね。本当にすごいな、と。
小野寺 私自身がBlenderはもちろん、3Dに関する知識が全くなかったからこそ、専門用語や初心者では理解できない部分に気付けたと思います。最近ではお子さまもBlenderを扱うようになっているので、この本を通して裾野を広げたかったんですよね。また、今回の書籍はあくまで初心者向けなので、あえて中級者向けの内容は外したりしましたよね。
M design そうですね。今回は「クマのキャラクターの作り方」を入れていますが、ひとまず「座らせ方」に必要な説明だけに絞り、更に細かなポージング設定の解説は外したりしました。
初心者の方が難なくスキル向上できるように、機能の詳細な解説を通じて「深く」「頭で理解」することよりも、多少浅かったとしても、より頻度高く使うものに絞って「体で覚える」ことを優先しました。
小野寺 こうした調整が大変だったと思いますが、企業にお勤めのなか、対応していただきありがとうございました。ちなみに本業がお忙しく土日の稼働が多かった印象でしたが、平日にも執筆はすすめていらっしゃいましたか?
M design 仕事柄、平日は時間を使えなかったですね。土日はすべて執筆に割いていました。打ち合わせの際、「今日は30分しか時間が取れないので、共有しているスプレッドシートに修正内容を書いてください」など、小野寺さんには迷惑をかけた部分もあったかと……。
小野寺 とんでもないです。休日返上でありがとうございます。逆に時間に限りがあったからこそ、打ち合わせも要点だけを手短に伝えたりと、効率的に制作を進められたと思います。それこそ少ない手数で済みましたね(笑)。
平面とは違った達成感がある?Blenderならではの魅力とは
小野寺 M designさんは普段からYouTubeでBlenderのスキルを学べる動画を投稿されていますが、そもそもどうしてBlenderを始められたんですか?
M design もともと自動車会社で、Blender以外の3DCGソフトを使って車を作っていたんですよ。そこから他業界へ転職したんですが「3Dで物体の形を考えて作ること」が好きだったので、やめたくないなって思ったんです。
ちょうどそのころにBlenderの認知が広がってきている時期だったので、自分が持ってるノウハウを生かして、皆さんと作品を作れたらいいなと思いました。たった10分のモデリングでも、その多様な機能によって素敵な世界観を表現できるBlenderの素晴らしさを共有したいと感じたんです。
小野寺 「転職しても3Dをやり続けたい」と思えた理由は何だったんでしょうか。
M design そうですね。「3Dならではの魅力」に気付いたからだと思いますね。私は職業上、十数年かけて平面の絵も描けるようになりましたが、最初は苦手だったんですよ。そのとき「絵が描けなくても、3Dモデルだったら1ミリ単位のモデルでもコントロールできる」ということに気付いたんです。それが3DCGソフトの素晴らしいところですよね。
かつ平面の絵だと、描いたものの裏側は見られないじゃないですか。でも3Dだったら360度どこからでも観察できる。これも3Dならではの楽しいところですね。
小野寺 わかります。私もはじめてBlenderで作品を作ったときは、感動しました。平面の絵にはない達成感があるんですよね。
それからYouTubeで投稿を始められますが、チャンネルのコンセプトはあるのでしょうか。
M design 各動画で1つのモチーフを取り上げて、作り⽅を説明しています。その際に過去の動画で紹介した技術だけでなく「毎回新しい技術を学べる」というテーマを意識していますね。これは今回の書籍でも共通する点です。
新しい技術を学ぶ際には、複雑なテーマよりも、小学生でも理解できるようなシンプルなテーマである方が理解しやすい。3D作成で言うと、原始的な丸・三⾓・四⾓くらいのシンプルな立体を土台にして学ぶことで、自分が行った動作・編集に対して、事前・事後で何がどう変わったかがよく見えるようになります。なので、デフォルメされたような世界観で表現しています。
小野寺 本を作るにあたって、教える側として苦労された部分はありますか?
M design 学んでいただきたい技術に対して、適切なモチーフを選ぶことに苦労しましたね。例えば今回は、一番最初に「円柱を活用したモデリング方法」を教えたかったので、フライパンをモチーフに選びましたが、「どんなモチーフにすれば読者がより簡単に理解できるだろう」と悩みましたね。テーマを伝えるためのモチーフ選びは、結構難しかったです。
だから最初はスプレッドシートの縦軸に「モチーフ」を、横軸に「使うテクニック」を並べて、作例の候補をマッピングしながら選んでいきました。
小野寺 難易度や学べる内容ごとにまとめていただいていたので、「ステップをたどっていけば徐々に知識とスキルが身に着く構成」になったと思います。
M design その点でいうと、私は小野寺さんからご提案いただいた「10日間で一つの部屋ができる」というアイディアに助けられました。もともと私が考えていたのは「10日間、ばらばらなモチーフを作る」というアイディアでしたね。
小野寺 これも私が初心者だから思いついたと思います。やっぱりBlenderって、モデルが完成したときの感動が大きいんです。だから一貫性のあるものが最終日に完成したほうがいいかなと思いました。SNSの投稿でも箱型の作品が多かったり、本の企画当時は『どうぶつの森』が流行っていたりもしていたので、部屋を作ることを思いついたんですよ。
ちなみに初心者向けの本を作るにあたって、M designさんから紹介するテクニックの案を出していただきましたが、これはYouTubeのコメントなども参考にされたんでしょうか。
M design おっしゃる通りです。よく視聴者の方からご質問いただく部分を参考にしました。例えば多くの方が最初につまずくポイントは、「オブジェクトモードと編集モードの違い」だと認識しています。オブジェクトモードは物体そのものを動かしたり、大きさを変えたりできるモードです。編集モードは、物体の中の頂点や辺・面を直接編集して形を変えるモードになります。この違いを理解できずに挫折しちゃった……という声をよく聞きます。ただ、作品づくりの途中で、いきなり「オブジェクトモードは○○で、編集モードは○○で」と説明されても分からないですし、楽しくないと思うんですよ。
小野寺さんが上手く編集してくださったので、視覚的にも分かりやすく、楽しく伝えられる本になったのかなって思います。
小野寺 その点でいうと、私は前職で語学書を作っていたんですが、英語以外の言語って高校までの科目に無いので、皆さん「無」の状態からスタートするじゃないですか。だから、普段から「知識がゼロの方でも理解できること」を意識していました。
ツールの解説本を担当するのは初めてでしたが、そんな過去の経験が生きたのかなと思いますね。
大好評につき早速の重版が決定!筆者が考えるオリジナルの作品の大事さ
小野寺 こうして完成した『ミニチュア作りで楽しくはじめる 10日でBlender 4入門』ですが、おかげさまで大好評です。Amazonの「3D グラフィックス」カテゴリではベストセラー1位を獲得しましたし、重版もされまして、嬉しいレビューもたくさん集まっています。
M design ポジティブなレビューが多くてすごく光栄ですね。なかにはネガティブなものもありますが「もう少しアドバンスな内容を学びたかった」というコメントが多い。つまり、ちゃんと初心者にターゲットが絞れていたということの表れだと捉えています。コンセプトがちゃんと伝わっている、ということだとしたら、本当にありがたいですね。
小野寺 私は「前に挫折して、数年ぶりにこの本を参考に作ってみたら完成できた」という声が特に嬉しかったです。M designさんは印象に残っているレビューはありますか?
M design AmazonのレビューやSNS上に、読者の方が作った作品を画像で掲載していただいているんです。それが嬉しいですね。なんというか「同じものをみんなで作っている」という一体感にわくわくします。クマのキャラクターは、それぞれ個性があったりして、眺めているだけで嬉しくなりますね。
小野寺 出版を通じて、Blenderの人気の高さを再確認しますよね。M designさんは、なぜここまでBlenderが流行ったと思いますか?
M design やっぱりいちばんは「無料で使える」という点でしょうね。他のソフトは有料のものが多いので、皆さんBlenderから始められるんだと思います。またSNSで、Blenderを使った作品が多く投稿されているのも理由の一つだと思いますね。特にクリエイターや趣味で絵や手芸をしていた方が、気付き始めたんじゃないかな、と。
小野寺 確かに今までAdobeのソフトで平面のイラストを描いていた方が、自分のイラストを3D化するケースも増えていますよね。
M design 遊び感覚で楽しめるのがいいんでしょうね。あとは、職業上私は他の3DCGソフトも使っていましたが、Blenderは他のソフトより照明の設定が簡単ですしカメラの設定もやりやすいです。つまり最終的にSNSにアップする際に、映える画像を作りやすいのかなって思いますね。でもやっぱり、無料で使える点が流行っているいちばんの理由かな。
小野寺 なるほど。あらためて、M designさんはどんな方に、この本を読んでほしいですか?
M design 個人的には、書店でなんとなく見つけてもらって「こんなのあるんだ」って思ってほしいですね。Blenderを知る入口になるといいなって思います。ちなみに小野寺さんはどういった方に読んでほしいですか?
小野寺 初心者の方向けに書いたので「何となく気になっている方」や「前から使ってみたかった方」に読んでいただきたいですね。あとは「一度挫折した方」にも、ぜひ読んでいただきたいです。
初心者の方が抵抗感なく、楽しく読み進めてもらえるように紙面デザインも細部まで凝りました。どうしても紙面は画面キャプチャーとテキストになるんですが、視点を動かすのが大変だと思ったので、ショートカットキーを画面の上に置いたり……。またBlenderの操作画面はどうしても暗くなりがちなので、周りをカラフルにしたり……。実際にBlenderを操作しながら読んでいただく想定なので、開いたページのまま形状を維持できる綴じ方にもしました。
M design これだと肘で押さえながら読まなくてもいいので、使いやすい。このあたりの細部のこだわりは「さすが」と思いましたね。
小野寺 あと、途中でM designさんに「親近感を与えられるように星のキャラクターを作ってほしい」と無茶ぶりもしてしまいましたね……(笑)。
M design そうでしたね(笑)。紙面のなかで、私がBlenderで作った星のキャラクターが、読者にメッセージをくれるんですよ。本になって確認したときに「このキャラクターいい仕事してるな」って思いました。この本に対する距離感が縮まったというか。親しみを覚えました。
小野寺 やっぱりキャラクターを入れてよかったです(笑)。では、最後に読者の方にメッセージをいただいてもいいですか?
M design そうですね。やっぱり「自分のオリジナルの作品を作ること」って大事だと思っています。例えばこの本では同じクマのキャラクターを作りますが、人によって耳が大きかったり、ウサギのように伸ばしたり、それぞれに個性が生まれると思うんですね。
小さな差分かもしれませんが、ツールを駆使して「自分が良いと思うこと」を表現することで、人生における宝物が増えていくと思うんですよ。例えばカフェでスイーツの写真を撮るのも同じですよね。すでに同じような写真がSNS上にアップされていても「自分が撮影したもの」というだけで宝物になるじゃないですか。
Blenderもこの本の解説通りに作ったら同じクマができます。でも「自分が作ったクマ」はすごく意味があることだと思っているんですね。そこからBlenderでいろんな作品を作れるようになっていって、みんなで共有し合えたらいいなと思います。
小野寺 私も最初にBlenderで作品を完成させたときは、何度も物体を回して眺めてしまうくらい嬉しかったです。ぜひこの本をきっかけにBlenderを始める方が増えてくださったらいいですね。M designさん、今日はありがとうございました。
(文:緒方優樹)
▼対談で登場した書籍
『ミニチュア作りで楽しくはじめる 10日でBlender 4入門』
初心者でもセンス良く、かわいい3D作品が作れる!Blenderの基礎がしっかり身につくやさしい入門書です。人気YouTuber・M design氏がBlenderの機能や効率的なモデリングをわかりやすく解説。1日1作品ずつ作っていくと10日でミニチュアルームが完成します。スイーツやキャラクターなど思わず作りたくなるような作例が満載で、楽しくモデリングを学ぶことができます。初心者でも迷わず作れる解説動画特典付き!