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書籍編集者・田中健士 どこにも売っていない本を作りたい。マニアにも受ける面白い本とは【インプレス出版人図鑑】

元・漫画編集者。グループ内企業から転籍してインプレスへ

―――田中さんはインプレスグループの別会社から転籍されてきたとお伺いしました。インプレスに入社されるまでの経歴を教えていただけますか。

大学卒業と同時にデザイン会社で働いたあと、パチンコ誌で4年程編集の仕事をしていました。その後、漫画編集者になり、10年以上ずっと漫画一筋でした。2016年にインプレスグループのICEに中途入社し、QuickBooks事業部というところでデジタル書籍の編集に携わりました。ICEはデジタルプラットフォームの開発や運営が主事業なのですが、いわゆる紙の書籍になったものを電子化するのではなく、デジタルファーストの電子書籍を作るメディア事業もやっています。紙の本は制作に半年、1年と時間がかかることもありますが、電子書籍だけならスピード感をもって商品化できます。当時はテーマを問わず企画することが許されていたので、手軽に読めてすぐに納得できるような電子書籍を山ほど作っていく感じでしたね。ICEでは電子書籍のブランドの立ち上げにもかかわり充実していたのですが、やっぱりまた紙媒体をやりたいなと思ったところ、ちょうどグループ企業のインプレスから社内公募の話があったので応募して転籍したのが2019年です。

インプレスに来てみて思うのは、とても過ごしやすい会社だということです。上司や同僚との程よい距離感も気に入っていますし、去年からのテレワーク導入もスピーディーでした。自分より年上の方でもパソコンやネットに長けた人が多い会社だからか、リモートワークの環境が整うのが早いのかなとも思いました。子どもが生まれたばかりの私としては、とてもありがたかったです。

―――現在はどのようなお仕事をされているのでしょうか。

現在はムックを中心にITや写真集なども扱う編集部で、主にシニアの方に向けたIT解説書『世界一やさしい』シリーズや、そのほかに自分で企画を立てた書籍の編集をしています。紙媒体は好きなんですが、ITがそれほど得意ではなかったので、最初はインプレスへの転籍が不安でしたが、わかりやすさをとことん追求する『世界一やさしい』シリーズを担当しているおかげで、だんだんITの知識が増えてきましたね。『世界一やさしい』シリーズは、紙面の文字や写真を大きくすることで、読者の方が細かな文字を読まなくても理解できるように制作しています。70代、80代の読者の方からメールで感想や質問をいただくこともあり、自分の作った本が読者の心に届いているんだなあと感じます。私自身もIT初心者だから、本を作りながら知識をつけていくようなところもありますね。実はインプレスに来るまでLINEも使ったことがなかったのですが、『世界一やさしいLINE』を見てインストールし、使えるようになりました(笑)。

大きな図と文字で、やさしくわかりやすい使い方を手順を追って解説した
『世界一やさしい』シリーズ

私が得意なのは、読者の目を惹きつけることのできるアイキャッチと呼ばれる文章や見出しを作ることです。これは漫画編集者時代に鍛えられたスキルだと思っています。漫画雑誌で作品を開いたとき、ページの余白にひとこと書いてある編集部からのコメントや次号の予告文を「柱」というのですが、この柱を書くのが好きでした。今作っている本では、書籍の帯にキャッチなどを付けるときに、目を引くようなものを作ることを心がけていますが、漫画雑誌時代の経験が生かされています。

アイキャッチにこだわった書籍帯

「田中さんは3人いますか?」と言われたメール返信術

―――田中さんが仕事をするうえで気を付けていることがあれば教えてください。

基本的なことかもしれませんが、メールの返事をすぐ返すようにしています。なんでも早く対応しようとするのは私の性格もあると思うのですが、漫画雑誌をやっていたときの、あるエピソードが心に残っているからです。

漫画雑誌の編集者時代、担当している作家さんへの外部からの依頼が編集者に届くことがあるんです。別の出版社から担当作家さんに依頼があったのですが、その作家さんは執筆ですごく忙しい時期だったので、その時に伝えて良いか悩んでいました。すると作家さんから「やるかやらないか、やれるかどうかの判断は自分でやりたいので、一旦そのまま伝えてください」と言われて、確かにそうだなと感じたんです。もちろん作家さんが不快になったり不利益になるようなことをそのまま伝えることは無いのですが、編集者である私の段階で情報を止めずに、その情報が必要かどうかは作家さん本人に判断してもらえば良い、1分1秒でも長く考えてもらうほうが良いと思うようになりました。あとは、「あなたの返信が遅かったから仕事が遅れました」と誰からも言われたくないのもありますね。朝や日中はもちろん、夜でもスマホをサイレントモードにせず、すぐメールに気づけるようにして返信していたので、「田中さんって3人いますか?」と言われたこともあるほどです(笑)。
またメールの話でいえば、リモートワークは会社に出社しているときと違って、周りの人にすぐに聞くことができなくなります。そのため、自分の中に生じた小さな疑問点は、できるだけ早めに他の人と共有することも心がけていることのひとつです。

ターゲット層を絞った本づくりが成功。SNSでバズった投稿を書籍に

―――今まで作られた本で印象に残っている本はありますでしょうか。

私は、すでに世の中にある本は自分で作る必要はないと思っているんです。「どこにも売っていないような本を作りたい」といつも考えています。
私が担当した『モンスターハンター 超生物学~モンスターvs生物のスペシャリスト~』は、ネットニュースにも取り上げていただけるほど話題になり、売れ行き好調な人気の書籍になりました。“モンスターハンター”というゲームの本なのですが、ゲームの攻略本は巷にあふれています。だったら既存の書籍とは違うアプローチから“モンスターハンター”を扱いたいと思い、20年来の付き合いがある編集プロダクションさんと一緒に考えて、生物学の先生をはじめ、各分野の専門家にゲーム内のモンスターについて考察してもらい、変化球のような本に仕上げました。マニアの人がクスッと笑ってくれるような本にしたいと、ほかとは違うアプローチを心がけて作った本でしたが、読者の反応も良くてホッとしました。

現生の生物などとの比較を交えながら「モンスター」の未知の姿に迫った
『モンスターハンター 超生物学~モンスターvs生物のスペシャリスト~』

また最近では、静岡の女子高生たちを撮った写真集『夏色フォトグラフィー』も担当しました。田舎の素朴な風景の中にいる、地元の女子高生たちのキラキラした笑顔を切り取った写真集です。SNSでバズった静岡のカメラマンであるうちだしんのすけさんの写真を見て、「ぜひ書籍化したい!」とうちださんに声をかけたのが始まりです。私は今までいろいろな人と会って話すことで企画のヒントを得ることが多かったのですが、ここ2年間はあまり人と会えませんでした。リモートになったため隣に座った同僚と無駄話をすることもなくなり、ネットやSNSで新しい企画を探していたときに、うちださんの投稿が目に留まったんです。『夏色フォトグラフィー』が出版されると、地元のテレビに取り上げられたり、本の出版に合わせてサイン会が行われたり、写真展も開催されるなど、とても盛り上がりました。青春時代が懐かしいと感じるミドルシニアの方や、モデルになった高校生たちをはじめとして多くの方が手に取ってくださり、いろいろなところで話題になってうれしかったですね。

田舎と女子高生がどことなく懐かしさを感じさせる写真を200枚超集めた
『夏色フォトグラフィー』

昔からものづくりが好きで編集者に。面白い切り口の本を作りたい

―――田中さんにとって、編集者であり続ける理由は何でしょうか。

子どもの頃からものを作るのが好きで、もともとはエンジニアになりたかったんです。映像を撮りたかったり、CM制作も楽しそうだなと思ったり、作るという部分は同じですが将来の夢が二転三転しつつ、結局は編集者という仕事に就きました。作ったものが目に見えてわかりやすいというのが、紙媒体の編集の魅力だと思っています。

―――今後どんな本を作っていきたいですか。

20年近く前から再生紙やソイインクを使った本を作りたいと主張していたのですが、「そんなことより売れる本を作れ」と言われ続けて今に至ります。近年SDGsの気運が高まったので、いい企画を考えて地球に優しい本を作りたいですね。昨年5月に子どもが生まれてからは育児系のブログや漫画を読むことも増えたので、育児系の面白いコンテンツを発掘したいですし、好きなゲーム関連でも自分にしかできない、面白い切り口の本を作れたらいいなと思っています。

リモートワークだからこそ参加できる育児に奮闘中

―――最後に田中さんのプライベートを教えてください。

暇さえあれば生後8か月の子どもの相手をしています。リモートワークが続いているので、子どもが泣いたら飛んでいけますし、お風呂に入れたり、ご飯を食べさせたりもできます。この柔軟な働き方はとてもいいです。おかげで夫婦で育児を分担しつつ、仕事も家庭もいいバランスで送れていますよ。

―――お子さんが生まれたことで、きっと新しい世界が広がりますね。どんな書籍が生まれるのか、田中さんの今後の企画を楽しみにしています。今日はありがとうございました。

インプレス出版人図鑑】は、書籍づくりを裏方として支える社員の声を通じて、インプレスの書籍づくりのへ思いや社内の雰囲気などをお伝えするnoteマガジンです。(インタビュー・文:小澤彩)
※記事は取材時(2021年12月)の情報に基づきます。


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