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書籍編集者・柳沼俊宏 新しいことが好きで「とにかくやってみる」が信条。機動力のある編集長【インプレス出版人図鑑】

―――柳沼さんはどんなきっかけで編集者になられたんですか?

中学生のころからパソコンが好きで、パソコン専門誌をよく読んでいました。学生時代にアルバイトを探していたとき、たまたま先生に紹介してもらったのがインプレスで、すぐに飛びつきました(笑)。アルバイトからそのまま社員として編集者になりましたが、子どものころから好きだったものに関わる仕事に就けてラッキーだなと思っています。入社当時は同僚もみんなパソコンが大好きな人ばかりで、最新のテクノロジーや秋葉原の話で盛り上がるのは本当に楽しかった。新しいことに触れられる環境はとても刺激的で、そこから『インターネットマガジン』という雑誌の創刊に関わり、進行補助から取材、ニュース記事執筆と仕事を与えられ、編集者として育ててもらいました。その後、受託編集の部署に行ったあと、今の編集部に配属になりました。今はITやビジネス、クリエイティブ関連の書籍を編集する部署の編集長をしています。書籍編集のスタートもこの部署からでした。

配属されたときはそれなりの年齢になっていたので、編集長から結果を求められていることはひしひしと感じていて……「早く成果を出せよ、出さないとまずいぞ」というプレッシャーの中、結構必死だった気がしますね(笑)。

―――そしてヒットしたのが『新・100の法則。』シリーズだとか。今から15年も前に作られた書籍なのに、デザインも素敵ですね。

ありがとうございます。自分でもいい本になったと思っています。この『新100の法則。』はシリーズですが、シリーズを立ち上げるにあたりインパクトが欲しいねという話になって、2冊同時に出版したんです。2冊とも自分で担当しましたが、最後はドタバタでしたね。結果的にどちらも何刷りもできてホッとしたのを覚えています。

―――シリーズで本を企画するって難しそうに思えますが。

常にシリーズ企画は意識して作るようにはしているんです。単発の企画だとできることや売り上げにも限界があります。シリーズ化できれば、自分だけではなく他の人もそれを作れるので編集部全体の負担を減らすことにつながるし、部署の売り上げも上がっていきますし。またシリーズは営業の人も書店で売りやすいですしね。ただ、当然1冊目が売れなければ2冊目もありませんから、頭の中にシリーズ化をイメージしていても、テーマの選び方や解説をどうするかといったことは、1冊1冊こだわって作っています。

シリーズ企画でいうと、その次に出したのが『いちばんやさしい教本』シリーズです。著者の方をイラストにしてカバーに入れているのが特徴で、これは現在でも編集部の売れ筋書籍です。
シリーズ1冊目の企画当時、Web制作やWebマネジメント系のイベントを中心に足を運んでいたのですが、本当にたくさんの方が集まっていて、登壇される講師の方に受講者がサインを求めるような、そんな盛り上がりがあったんです。この盛り上がりを書籍に生かせないかと考えたのがきっかけでした。このイベントのライブ感を大切に、書籍を読みながらその人のセミナーを聞いているような感覚になれる本を作ろうと思いました。最先端のことをやっている人の話は本当に面白いしわかりやすかったので、それをそのまま書籍化したかったんです。
ですから『いちばんやさしい教本』シリーズはセミナーやワークショップを受けているような感覚で進んでいくのが特徴です。初学者の読む本ですし、途中で挫折することなく最後まで1冊読み進めることができるように、説明の仕方や読みやすさにこだわって作っています。

『いちばんやさしい教本』シリーズ/『新・100の法則。』シリーズ

―――柳沼編集長は新しいことがお好きだという話でしたが、編集者としての原動力はどんなことですか?

単純にヒットする本を作るのは楽しいですね。インプレスでの書籍の編集は、結構自由なことをやらせてもらっていると思っています。自分が興味あるものを企画し、実現していく仕事って楽しいですよ。もちろんダメ出しもたくさんされますが、ダメ出しされたら工夫を重ねていけばいい。そうしているうちに最終的にはちゃんといいものが出来上がって、自分の担当した本が書店に並ぶ。
自分のやりたいことが形になって店頭に並ぶ仕事はあまりないんじゃないかなと思っていますし、それが本当に楽しくてやりがいあるなって感じます。
編集長になると好きなことができなくなる可能性もあると思うので、ずっとスタッフのまま興味のあることをやっていくのもアリだと思っていました。結果的に編集長にはなりましたが、書籍を作ることが好きなので、今でも自分で担当を持って書籍を作り続けています。

―――そうなんですね!編集長は、自分の書籍を担当せずにマネジメントに徹するものかと思っていました。

そんなふうに考えたことはなかったですね。書籍が作りたいから作っているっていう感覚です。マネジメントしながらも、作りたいものがあるなら自分で企画する……ただそれだけのことです。
私の編集部でも、それぞれのスタッフが作りたいものを作ってほしいなと思っています。だって1年間に担当する本なんて、本当に頑張っても8冊くらいですから。
編集としての仕事は昔も今も変わりませんが、編集長になってよかったなと思うのは、自分のやりたいことや扱いたいテーマが自分で担当できない場合、スタッフと一緒に作ることができる。これはいいことだなと思いますね。

―――編集者になられて27年の柳沼編集長が企画を考える際には、どうやってトレンドを追っているのでしょうか。

SNSも見ますし、ニュースも雑誌もチェックしています。コロナ禍の前はよくイベントにも顔を出していました。トレンドをキャッチするためには、常にアンテナを張りまくるしかないような気がしますね。あとはなんでも実際にやってみることが大事かと。自分でやらないと気付けないことって結構あると思っていて、なんでも興味を持って試してみるのがいいかなと思いますね。

―――ちなみに柳沼編集長が最近担当された書籍は『YouTuberの教科書―視聴者がグングン増える!撮影・編集・運営テクニック』だそうですが、ひょっとしてYouTubeも実際にやられていたり……?

もちろんやってみました!インプレスとしてではないです、個人としてですよ、もちろん(笑)。

自分で撮影した猫の動画をベースに編集してみたんですが、まったく人が集まりませんでした。猫Tuberの人もたくさんいるので自分もいけるんじゃないかなと思ったんですけれど、100人の視聴者を集めるのもはこんなに大変なのかって感じました……。
でも、そういうこともやってみないと気付けないですし、うまくその気付きを企画に生かして、書籍のキャッチフレーズに『目指せ!!チャンネル登録1万人』と入れてみました。
私が学生のころはラジオを聞きながら勉強する文化があったんですけど、現代はYouTuberのライブ放送を聞きながら何かを勉強するなんてことを、若い人は普通にやっているんだろうなっていうくらい盛り上がっています。有名なYouTuberさんだと数万人、始めて数カ月の配信者さんでも1000人、2000人くらい集まるのは本当にすごいですよね。
私がYouTubeを見ていて感じるのは、若い人だけでなく幅広い世代の人が動画投稿をやりたいと思い始めているということです。例えば、退職して年金生活をされている方や、海外や地方に移住された方が、実際の年金や生活はどうなのかをまとめた動画を投稿されたりしています。そうした中高年のYouTuberも今は本当に増えているんです。これまでブログでやり取りしていたけれど、今はYouTube上でコミュニケーションを取りあっているような感じがありますね。書籍を買ってくださる方は30代、40代がボリューム的には多いと思いますが、今やYouTuberになりたいのは子どもだけではないんですよね。そこを狙って『YouTuberの教科書』を作りました。

『YouTuberの教科書』

―――柳沼編集長の考える「いい企画」ってどんな企画でしょうか。

「この企画をひとことで表すとどんな企画なの?」と聞かれて、ずばりひとことで言える企画がいい企画ではないかと思います。聞かれてしっかりとどんな企画か答えられないものは、出来上がった本もブレブレになっているなと感じることがあります。本のストーリーをきちんと端的に説明できるような企画はうまくいくと思いますね。

―――最後に、編集長としての思い、編集部としての今後の抱負も教えてください。

当たり前のことですが会社から求められている成果を上げながら、部署を成長させていきたいと思っています。結果的にはそれがスタッフの今後につながっていくと思うので……。
年のせいかわからないですけれど、やっぱりスタッフにどんどん自分の好きな企画をやってもらって、それが成功して、それぞれ独立した編集部を持てるようになってほしいなあと思っていて。うちの編集部のスタッフは経験者が多いこともあるんですけど、それぞれやりたいことへの思いがすごく強い人たちなので、そこをなんとかしてうまく伸ばして本をヒットさせてあげたい。そしてそれぞれが将来的には編集長として巣立っていけるといいなと思っています。

―――なんだかスタッフへの深い愛情にじ~んときました……。そして編集長のYouTubeの猫動画を見てみたいと強く思いました(笑)。今日はとても興味深いお話をありがとうございました。

インプレス出版人図鑑】は、書籍づくりを裏方として支える社員の声を通じて、インプレスの書籍づくりのへ思いや社内の雰囲気などをお伝えするnoteマガジンです。(インタビュー・文:小澤彩)
※記事は取材時(2022年6月)の情報に基づきます。