【ゆるりと巡る大人の社会科見学 #4】環境にやさしい紙づくりの現場
製紙工場が掲げるSDGsとは?
工場見学の前に、北越コーポレーションさまの歴史や取り組み、そして古紙から紙を作る工程をお伺いしました。
北越コーポレーションさまは1907年、明治40年に新潟県長岡市で創業以来、多種多様な紙の製造に取り組まれています。日本国内に多くの工場や事業所があり、さらに近年は国際競争力のあるグローバル製紙企業を目指し、カナダ、フランスをはじめとする海外に拠点を展開されています。
関東工場市川ではお菓子のパッケージや辞書などの箱に使われる白板紙を製造しています。まず古紙から紙を作る、これだけで環境への配慮が伝わりますね。原料だけでなく、製造におけるさまざまな工程の中で、自然環境や周辺地域との共生を考えた取り組みをされています。
ボイラーのエネルギー源としては30年前に業界に先駆けて、重油からCO₂の排出が少ない都市ガスに切り替えており、工場内の電力はすべて自家発電でまかなっているとのこと。また、工業用水は江戸川から汲み上げた水を工場内で浄化して使い、使用後は高度な処理技術をもってクリーンな状態にして江戸川に戻しているそうです。さらに近隣のマンションや住宅に配慮して、騒音については常時監視、防音壁の設置などあらゆる取り組みをされていました。
さて、ここからいよいよ工場内を案内していただきます。安全に配慮して、見学者はみんなヘルメットを着用。これぞ工場見学という出で立ちで向かいます。
再生紙の障害となる禁忌品にはご注意を
まず案内いただいたのが、古紙置き場。紙の原料となる古紙は市中から回収した新聞や雑誌などです。ブロック状にまとめて、敷地内に積み上げられていました。回収されたものの中には、古紙として利用できないものもあります。いわゆる禁忌品というもの。そういったものは原料となる前に取り除く必要があります。アイロンプリント紙やレシートなどの感熱紙、防水加工された紙コップや紙皿なども、混ざったままだと再生紙を作る際に障害となるそうです。
すごいなと思ったのは、禁忌品の情報が入ってくるということ。たとえば漫画雑誌の付録に禁忌品が含まれている場合、「今月号の○○雑誌には禁忌品の〇〇が入っている」といった情報が入ってくるそうです。あらかじめわかっていれば、そこに重点をおいてチェックができます。私たちも古紙を出す際には十分に気をつけたいですね。
まだまだ続く、異物を取り除く作業
古紙は最終的に「古紙パルプ」という再生紙の原料に生まれ変わります。ここに行き着くまでに「離解」→「除塵」→「脱墨」→「精選」→「漂白・洗浄」という工程を踏みます。まず「離解」では大きな洗濯機のような機械で古紙に水を加えて混ぜながら、古紙をほぐしていきます。比較的大きな異物もここで取り除かれます。
そして「除塵」ではクリーナーと呼ばれる装置でサイクロン流を起こして、水に溶かした古紙の中から、クリップなどの重たいものを下に落とすことで取り除いていきます。光に照らされたこの機械を覗くと確かに小さな金属などがくるくると回転して落ちていました。
「脱墨」とは字の通り、墨を取り除く作業です。古紙に含まれているインクを泡に付着させて取り除きます。
「精選」で目の細かいふるいにかけて小さなごみを取り除いたら、最後に「漂白・洗浄」で、原料をさらにきれいにします。こうして原料となる古紙パルプが出来上がります。
白板紙の構造とは?
ここから古紙パルプを使った白板紙の製造現場を見学しますが、そもそも白板紙とはどんなものなのでしょうか。板紙ときくと厚手の紙という印象を受けますが、複数の層を重ねてこの厚さを出しています。白板紙の各層のサンプルを見せていただきました。6層構造の白板紙は一番上の層だけ白く、中間層は白色度が低い古紙が重ねられています。これは層によって使うパルプ原料が違うためです。
一番上の層には上質系の古紙、その下の層にはそれぞれ新聞古紙、雑誌古紙など白色度の低い古紙が原料として使われています。サンプルを見ると特に中層の白色度は低いですね。これは「漂白」の作業を軽減しているからです。「漂白」の作業を軽減する分、省エネとなっているとのことで、ここでも環境への配慮が伺えました。
巨大な抄紙機で白板紙を製造
抄紙機(しょうしき)とは紙を抄(す)く機械のことを指します。
層ごとに異なる古紙パルプを脱水し、それらを重ね合わせて多層のシートを形成、乾燥させ、巻き取り、さらに必要なサイズに断裁するまでを1つの巨大な機械で行うことができます。熱気もあいまってすごい迫力です。見学させていただいた関東工場市川5号抄紙機は、1日平均230t、距離にするとおよそ300km生産できるそうです。東京から名古屋くらいの距離ですね。
こうして作られた白板紙が商品のパッケージなどとして使われていきます。
工場見学はここまで。
最後に今後の取り組みについてもお話しいただきました。
関東工場市川・長岡工場・大阪工場はガス、新潟工場・紀州工場・関東工場勝田はバイオマス燃料を使って、これまでにCO₂の排出量削減に向けて取り組まれてきました。今後はさらにカーボンニュートラルを目指して、2050年にはCO₂排出実質ゼロを目標に掲げているとのことでした。
原料だけでなくエネルギー源にいたるまで環境に配慮したものづくりの姿勢に、背筋が伸びる思いでした。関東工場市川のみなさま、この度はありがとうございました。