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著者×編集者対談|「中に人が入ってる?」ユニークな『そとねこ』カレンダー

インプレスで毎年発売する写真家・沖昌之さんのそとねこの写真を使った『そとねこ』カレンダーが今年も発売されました。写真のそとねこたちは、のんびりと自由を謳歌しているよう。どうしてこんなに自然な姿が撮影できるのか。可愛い写真の撮影秘話とは…。カレンダー担当編集の馬場はるかが、写真家の沖さんにそとねこの写真の魅力と撮影の裏側を伺います。


「中に人、入っていませんか?」人間味あふれる写真が大人気『そとねこ』カレンダー

馬場はるか(以下、馬場) 沖さんの壁掛けカレンダー『そとねこ』、おかげさまで今年も非常に好評です。7年目になるこの『そとねこ』に加えて、今年から卓上カレンダー『そとねこmini』も発売できました。製造部数も認知度も上がり、レビューやアンケートで読者の皆さんからの熱いコメントも増え、本当に嬉しいです。

沖昌之さん(以下、沖) ありがとうございます。馬場さんが膨大なデータの中から、「そこ出してくる?」みたいな画像を掘り起こしてくれるので、僕も仕上がりが楽しみでした。今年から卓上カレンダーも始まり、ふたつとも、ぜひいろいろな方に手にとってもらえたらいいなと思っています。

馬場 壁掛けカレンダーは、横長の写真ばかりになるので、縦長の写真の中にいい写真があっても使えなくてもったいないと感じていました。今回発売できた卓上カレンダーで、すごく可愛い縦の写真がたくさん使えるようになったので、新鮮な気持ちで写真を選ぶことができました。せっかく可愛い仕草や表情をしているのに、背景の季節感がカレンダーには向かず使えなかった写真は切り抜きで使ってもいいと沖さんにご許可をいただけたので、卓上カレンダーのデザインは猫写真満載になって本当によかったです。

2024年版から発売する卓上カレンダー『そとねこ mini』。切り抜き写真を可愛く使ったデザインに。

沖 馬場さんは、カレンダーの制作シーズンになると、どの出版社より早く「沖さん、この写真、キープ、キープ! 」って言ってくるし、ぼくの膨大な写真データの中から「こんなんあったんや」っていう写真を発掘してくるし……。読者の方に喜んでもらえたらいいなという思いがすごく強いんだなと伝わってきて、ありがたいし、頼もしいなと思っています。馬場さんに預けた外付けHDDには、合計53万枚(!)入っていたわけですから(笑)。

馬場 沖さんの写真は本当にユニーク! 「中に人が入ってるの?」と思うほどリラックスした、面白いシーンばかりです。膨大な写真データの中から、私が初めてその写真を見たときの驚きや感動を、読者の方にもお伝えしたい。そんな視点で厳選しています。もちろん沖さんのSNSに上がった写真も漏れなくチェックし、ファンの方のコメントも参考にさせていただいています。

壁掛けカレンダー『そとねこ』の2024年版の写真の一部。おそとの世界を楽しく暮らすそとねこたちが登場。

時間をかける撮影。そとねこと絶妙な距離感を保つ苦労とは

馬場 沖さんにとって、そとねこの魅力ってどんなことなんでしょう。

 実家では猫を飼っていなかったので、撮影するまで、あまり猫を知らなくて。猫というものは一日中寝ていて、クールで無表情なんじゃないかと思っていたら全然違う。レンズの中のそとねこは、感情の動きが耳にも表れているし、喜怒哀楽も感じられる。血がつながっていても仲が悪い猫もいれば、血のつながりがない猫と、家族のように寄り添って生きている子もいる。「この猫、めっちゃ人っぽいやん」って子ばかりで、猫の生態は自分が思っていたよりも人間のようにややこしい。そとねこを通して知った猫の魅力を写真で表現したいっていうのが、そとねこばかりを撮り続けている理由でしょうね。僕って飽きっぽいし、めんどくさがりなのに、そとねこの写真は継続できてる。とにかくそとねこを撮るのがすごく楽しんです。

馬場 沖さんの写真の中で、そとねこの表情や行動がすごく自然なのはどうしてなんでしょう。

 実はシャッターを切っていない時間のほうが長いんですよね。あそこで寝てるんだ、毛づくろいして動かないな、とか思いながら、ぼーっと猫を見ているだけの時間があって。そんな感じで日々、猫のいる地域に通っていると、徐々に猫も「この人間、いつも来るけど害はなさそうやな」という空気感になってくれるみたい。そうすると猫も、自分の素の部分というか、普段の表情を見せてくれるんじゃないかと思います。

例えば卓上カレンダーの5月の写真に出てくる、茶トラのトランは、僕が行くと人懐っこい感じで寄ってきてくれたりもしますし、トランの前でカメラを構えると「仕事せなあかんのかな」みたいな感じで、モデルばりにゴローンと転がってくれたりね。

そとねこが可愛くて、普段は「撮影するよりもなでるほうが大事じゃん」と思っている僕ですが、人慣れしている子たちは、近寄りすぎると、僕を意識した表情が出てしまう。そうなると、普段の、自然な表情が撮れなくなってしまうのが、難しいところです。いつも、自分がどの距離感にいると、この猫は素の自分を見せてくれるのかな、というのを考えながら撮影しています。時にはすごく離れたところから、望遠レンズで数十メーター先の子を狙うこともあるんですよ。数十メーター先の猫ちゃんの、いつもの行動、自然な瞬間が撮影できたら、それはそれで正解だと思いますしね。

勇気をふりしぼった子猫とオス猫の2ショットが壁掛けの表紙に

馬場 今回の壁掛けカレンダーですが、沖さんはどの写真がお気に入りですか?

 壁掛けカレンダーの中では、2月(表紙)の写真が好きですね。この2匹は、親子ではなく、普段から仲がいいわけでもなく、テリトリーも離れた2匹なんです。あるとき、子猫が臆病ながらも勇気を絞り出して、大きいオス猫にちょっとずつ挨拶をするように近づいていったんです。するとオス猫のほうも、普通だったら威嚇しそうなところを、子猫の挨拶を受け止めている感じがあって……。すごくいい瞬間だなと思ってシャッターを切りました。馬場さんがこの写真を表紙に選んでくれて「よくぞ選んでくれた!」って思いましたよ。

馬場 ありがとうございます!私は、3月の寝ている子の写真が好きです。ゴロンゴロン寝転がってリラックスしている表情が楽しそうだなと思ったのと、そとねこのゆるさというカレンダーのテーマにもいいなと思ったので、この写真も実は表紙候補でした。

 3月の写真は、猫島として有名な、宮城県石巻にある田代島で撮ったものです。ゴロンゴロンの仕方も、猫によって違いがあり、この子の場合、身体能力が高いのか、クセが強くてゴロンゴロンも跳ね気味だったんです。コメつきバッタみたいな感じで、ぴょこんぴょこんと飛び上がるような感じで転がるもんだから、面白いことしてるなと思ってシャッター切りました。

「お魚くわえた……」あの歌のような猫の写真が登場する卓上カレンダー

馬場 卓上カレンダーの中では、どの写真が気に入っていますか?

 卓上カレンダーの中では、2月の写真が好きですね。僕は「さとちゃん」と呼んでいる、人懐っこい子です。この撮影をする少し前に、SNSで階段を液体のように滑り落ちていく猫動画がバズっていたんですが、僕はそんなシーン、実際に見たことがなくて。そんなとき、さとちゃんがおもむろに階段の上から液体のように降りてきてくれたんです。「なんなんこれ、さとちゃん、めっちゃ気を使ってくれてるやん」と思いながら、夢中でシャッターを切りました。よっぽど僕が「液体のような姿を見せてくれ」オーラを出していたんでしょうね、「撮らせてくれなきゃ帰らないぞ」っていう、ね(笑)。

馬場 私は、卓上では12月の写真が好きです。あの有名な歌のまんまの姿だなと思ってビックリしました。しかも、写真から「やった~!お魚ゲットしたぞ!」という感じで嬉しそうに走っているのがわかるんですよね。後ろ脚も上がって、誰にも取られないところに急いで持って帰ろうという様子が、表情からもポーズからも感じられて、すごくかわいいなと思いました。

 これも猫島(田代島)で撮影したものですね。早朝に漁港に戻った漁師さんが、網から魚をはがしながら、売り物にならない魚を集まってくる猫たちにおすそ分けしてあげているんです。幸運にも魚をもらえたこの猫が、朝焼けの一番きれいな光の中、自分の好きな場所へうれしそうに帰るところでした。逆光でカレイもキラキラと透けて見えて、これはいい絵だなと思いながら撮影しました。これは自分にとって代表的な1枚になるなと思いながら撮影した記憶のある、思い入れのある写真です。

馬場 ルンルンしているところが写真から伝わってきて本当にいい写真ですよね。

躍動感、臨場感…。沖さんの撮るそとねこの魅力が詰まったカレンダー

馬場 今回の2つのカレンダーですが、仕上がりを見て沖さんからひとこと感想をいただきたいです。

 毎年、馬場さんの選ぶ写真はベストチョイスだなと思いながら出来上がったカレンダーを見ていますよ。僕らしいいい写真を選んでくれているし、季節感もあるし、SNSに上げた最近の作品だけでなく、ファンの方があまり知らない初期の作品からも選んでくれている。まんべんなく上手に仕上がっているなという気はします。

馬場 良かった! 季節感、そとねこの表情の面白さ、可愛さ、沖さんらしさ……。いろんなことを考えて12枚の写真を厳選しているので、初めて買ってくださる方はもちろんのこと、リピーターの方にも満足して楽しんでいただけるといいなと思っています。

そとねこの写真を撮られているカメラマンさんはたくさんいる中、沖さんの写真のいいところは、「これ、中に人間が入ってる?」と思うような猫の表情や動きです。「沖さんのカレンダーなら、これを買えばOK」と思ってもらえるように、写真選びはとことん妥協せずに頑張りました。

 来年もいい写真が渡せるように頑張ります!

ー多くの人に、沖さんのカレンダーで癒されてほしいですね。沖さん、今日はありがとうございました。

(写真:沖昌之 文:小澤彩)


▼対談で登場したカレンダー
壁掛けカレンダー『そとねこ』
気ままにお昼寝したり、愛嬌をふりまいたり、まるで人間のような行動をしたり……。自由気ままで愛される魅力たっぷりのそとねこの姿を大判A3サイズで見られる壁掛けカレンダー。

卓上カレンダー『そとねこ mini』
大人気カレンダー『そとねこ』の卓上版が2024年から発売。卓上タイプだから、のんびり気ままなそとねこたちの写真を会社・自宅のデスク周りやリビング、書斎の机など、どこにでも飾れます。

写真家:沖昌之
兵庫県生まれ。アパレルを経て、2015年に猫写真家として独立。メディア出演多数。人間にしか見えないような野良猫の日常を激写し、注目を集めている。著書に『必死すぎるネコ』(辰巳出版)、『残念すぎるネコ』(大和書房)、『日常にゃ飯事』(インプレス)など。

担当編集:馬場はるか
インプレスでカレンダー、年賀状、書籍を担当する編集者。毎年10タイトル以上のカレンダーを担当している。素材集『水彩・色鉛筆・クレヨン 手描き素材集シリーズ』、書籍『海外名作映画と巡る世界の絶景』などを担当。


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