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書籍編集者・山内悠之 年賀状不要論が叫ばれる時代に年賀状素材集がベストセラー!編集長の手腕とは【インプレス出版人図鑑】

―――2022年も年末が見えてきました。山内編集長は、この時期に需要が高まる年賀状素材集やカレンダーのご担当だそうですね。最近は年賀状を出さない人も増えてきました。そんな時代なのに、去年はインプレスの年賀状素材集がオリコンランキングで1位を獲得したとのこと。売れ続けている理由は何なのでしょう。

年賀状って、出す人が減ったと言っても国民的文化、つまり純粋に読者が多いコンテンツではあるんです。好きな人が作るというより、日本国民全員が関心を持って作るものなので、市場規模が純粋に大きいんですね。その中でオリコンランキングで1位を取れたことに秘訣があるとすれば、それはきっと「一生懸命作っている」ことに尽きると思います。手前みその話にはなるのですが、年賀状素材集に対して、インプレスほど一生懸命向き合っている出版社はないんじゃないかと思うんです。毎年一生懸命企画を考えて作っていることが読者さんに伝わっているから、クオリティを評価していただけているのではないかと思います。また、営業部も本当に一生懸命売ってくれるので、それも確実に理由のひとつです。感謝しています。

―――年賀状素材集に対する山内編集長のこだわりを教えていただけますか。

年賀状素材集に掲載されている絵や写真は、毎年同じように見えるかもしれません。ただ僕は、できるだけ素材に新しさを加えることが大事だと思っています。十二支は12年に1度巡ってくるので、モチーフの再利用は可能ではあります。でも12年前のイラストを見ると、どことなく古臭さが感じられますし、絵のタッチも昔と今とではだいぶ違います。その時代で人の好みも変わりますから、流行りもあります。それは富士山などの定番素材についても言えることです。そのため、いつも編集部のスタッフには「マンネリを感じさせるような、去年通りに作ればいいみたいなスタンスはやめよう。今らしさを探しながら、その年その年で求められているコンテンツをきちんと入れよう」と伝えています。
今年は12タイトルの年賀状素材集を出しています。2023年は兎年なので、ウサギに特化した企画をしっかり入れていますよ。例えばピーターラビットをキャラクターに採用したり、ウサギの可愛い写真を撮るカメラマンの作品を使ったり、鳥獣戯画やウサギとカメのイラストを取り入れたり。毎年、干支の企画はかなり力を入れて作っているので、そこをまず楽しんで年賀状に使っていただけたらと思います。

『年賀状DVD-ROM 2023』/『はやわざ年賀状 2023』

―――年賀状素材集の制作の大変さはどんなところにあるのでしょうか。

とにかく扱う画像の数が多いので、素材を1つ1つチェックして校了を迎えるまで、体力勝負ではあるんですが、手は抜きません! 大変でも「何かちょっと新しさがあっていいな」と読者に思わせるような年賀状素材集を作り続けないと、と思っています。
年賀状素材集にはたくさんの画像を入れていますが、読者にとって「この絵を使いたい」と思って気に入って使うのは、その中のたった1枚だけですよね。だから「イラスト1枚1枚に失礼があってはいけない」「この1枚が読者にとってのオンリーワンかもしれない」という目で大量のイラストに向き合って作っています。
年賀状というのは新年の挨拶のひとつの形。年賀はがきは出さなくなるかもしれないけれど、新年の挨拶をしなくなることはないですよね。皆さんがどういうかたちで新年の挨拶を表現するのか、それは時代の価値観で変わっていく部分だと思います。「年賀はがきに印刷する」というところばかり見ないで「新年の挨拶をするために何か便利なものを提供する」というような視点で新しいコンテンツを常に考えていきたいなと思っています。

―――編集部としても年賀状の新しい形を模索し続けているのですね。

年賀状素材集には素材が収録されたDVD-ROMがついているのですが、最近のパソコンにはDVDドライブが付いていないものもあります。そこで、素材集をご購入いただいた方の専用サイトをご用意しておいて、DVD-ROMなしでもそこからダウンロードして素材を使えるような取り組みを数年前から始めています。
また2023年版は、スマホで年賀状デザインを編集できるWebアプリを収録するなど、新しい取り組みもおこなっています。まだまだDVD-ROMを使って従来の年賀状作りをする人が大多数だとは思うのですが、徐々に「DVD-ROMなしで作ろう」「スマホで作ろう」という人が増えていくと思うので、その時に備えて今からやっていこう、という感じですね。

インプレスは年賀状素材集を出版し始めてから2022年で29年になるのですが、もともとパソコンで年賀状を作れるようにしたこと自体、すごく画期的と言われた時代があったんです。ここ十数年の間にインターネットが普及してくるともっと便利なサービスが出てきて、「パソコンで年賀状を作れる」こと自体がだんだん古くなっていきます。当初画期的だったことが、時の流れとともに古くなるのは当然のことなので、常に新しさを入れていかないといけません。そこは気を付けるようにしています。

―――山内編集長はカレンダーも担当されていますが、2023年のカレンダーにも新しいトピックスがあれば教えてください。

新しい取り組みだと『KAGAYA奇跡の風景CALENDAR 2023 天空からの贈り物』というカレンダーで、今年からカレンダーハンガーを付属しました。インプレスの壁掛けカレンダーは今まで穴をあけておいて、それに吊るすタイプばかりだったのですが、このカレンダーにはカレンダーハンガーを付けてみました。
カレンダーハンガーというとプラスチックのものを思い浮かべる方も多いと思うのですが、環境的にはマイナスな面もあります。そこでSDGsの観点から、バイオマスプラスチックという再生可能な有機資源から作られた素材をあえて採用しました。

『KAGAYA奇跡の風景CALENDAR 2023 天空からの贈り物』

また、新規のカレンダーとして『すずめ暮らし mini』という卓上カレンダーも制作しました。これは去年出版した『すずめ暮らし』という壁掛けカレンダーの姉妹版です。以前シマエナガという小鳥のカレンダーを出したときは、「シマエナガってかわいいよね」といろいろなところで話題になっていたのですが、「すずめってかわいいよね」と話題になっているシーンにはあまり出会うことがなかったので、正直『すずめ暮らし』(壁掛け)は想像以上のヒットでした。すずめが好きな人が思った以上にたくさんいることがわかり、「すずめの卓上カレンダーも作ってください!」というリクエストも多数いただいたんです。そこで今年、卓上カレンダーも出してみました。
写真家の中野さとるさんの写真を採用しているのですが、この中野さんの”すずめ愛“がものすごくて! すずめの集まるとある場所で毎日毎日すずめを撮影していらっしゃるのですが、雨が降っても雪が降ってもすずめを撮り続けているんだそうです。愛情をもって撮られた写真には力があり、読者に伝わるんだな、ということを改めて感じましたね。

『すずめ暮らし mini』

―――カレンダーは、写真と日付のセットでできていますし、体裁自体は変えようがない気がしますが、山内編集長はどんな思いでカレンダーを作っているのでしょうか。

カレンダーについても年賀状素材集と一緒で、進化していかないと先がないと思っています。インプレスがカレンダー事業を始めて11年になりますが、徐々にタイトルを増やして、最近はカレンダー市場でもかなり目立つポジションにいられている意識があります。そこでこれからの10年は、それこそカレンダー市場をリードしていくくらいのつもりでやっていこうと思っているところです。それには新しい視点を入れることが大事だと思っています。
例えば、今までのカレンダーでは、6週ある月については、多くのカレンダーは最終週の30日、31日には独自のマスがなく、前週の表記に“/“で組み入れて、予定が書き込めないのが普通でした。でも「これでは使いづらいよね」という話になり、インプレスのカレンダーはすべての日付で予定が書き込めるようにしています。
また、カレンダーという紙製品のメーカーとして、少しでもエコに取り組もうと、環境に配慮したFSC®森林認証紙を利用しているのも新しい視点といえるかもしれません。小さいところから新しい視点、時代に合わせた機能をしっかり取り入れて、それが読者から“選ばれる”カレンダーにつながっていけばいいなと思っています。
それと、月めくりのカレンダーは1ヶ月の間同じ写真を見続けることになるので、「1ヶ月飽きずに見続けられる写真かどうか」と写真選びにも気を遣っています。

―――熱い編集長のもとで作られているからこそ、いい本、いいカレンダーができているのだとこちらにも伝わってきました。今年の商品の売れ行きも楽しみですね! 今日はどうもありがとうございました。

インプレス出版人図鑑】は、書籍づくりを裏方として支える社員の声を通じて、インプレスの書籍づくりのへ思いや社内の雰囲気などをお伝えするnoteマガジンです。(インタビュー・文:小澤彩)
※記事は取材時(2022年10月)の情報に基づきます。