【コダワリ #14 後編】磐石劫の果てしない石仏曼荼羅
前編はこちら。
お地蔵様? いや、弘法大師です
石仏を語るうえで外せないのが弘法大師(空海)。真言宗のお寺や霊場の写しで祀られていることが多く、遭遇する確率の高い石仏です。僧形であるためお地蔵様と似ており、慣れないうちは間違えやすいでしょう。でも見分け方はとても簡単、持物を見れば一発です。
地蔵菩薩の持物は前述の通り錫杖と宝珠で、弘法大師の持物は金剛杵(こんごうしょ)と数珠です。また、沓(くつ)と水瓶(すいびょう)が一緒に彫られていれば弘法大師です(まれにほかの祖師であることもある)。持物がなく合掌している場合はだいたい地蔵菩薩です。なお、近年造られたお地蔵様の持物はバラエティに富んでいるため、この限りではありません。バラエティといえば五百羅漢ですね。こちらも僧形ですが、さまざまな表情やポーズをしているので間違うことはないでしょう。
仏像入門に最適、十三仏
十三仏は仏典とは関係なく日本で広まった信仰で、不動明王、釈迦如来、文殊菩薩、普賢菩薩、地蔵菩薩、弥勒菩薩、薬師如来、観音菩薩、勢至菩薩、阿弥陀如来、阿閦如来(あしゅくにょらい)、大日如来、虚空蔵菩薩を指します。いくつかの仏教宗派では回忌ごとに十三仏を本尊として追善供養を行うためなじみがあるかもしれませんね。私も最初は十三仏を覚えました。しかし石仏としては、ここまでに紹介した地蔵や観音を除くと比較的珍しい部類になります。
成田山などでも有名な不動明王は石仏界でも人気があり、文字通り不動の地位を築いています。不動明王の眷属である制吒迦童子(せいたかどうじ)と矜羯羅童子(こんがらどうじ)も愛らしいキャラで、この三体が揃った不動三尊石仏は数も多くないので見つけるとうれしくなります。ちなみにいつもしかめ面なのが制吒迦童子で、おとなしそうなのが矜羯羅童子です。ほか、文殊や普賢、弥勒、勢至、虚空蔵の各菩薩も単独の石仏としては数が多くありません。ただ昭和以降に造られた十三仏が揃った石像は寺や霊園でよく見かけます。
如来部でいうと、阿弥陀如来や大日如来の石仏はわりと多く、釈迦如来や薬師如来、阿閦如来はレアです。釈迦如来と薬師如来は路傍の石仏としてはあまり見る機会がありませんが、四国八十八箇所の写し霊場の石仏群に見ることができます。阿閦如来は五智如来の一尊としてまれに造立されています。
見つけたらうれしいレア石仏
ここまでにも珍しい石仏をいくつか取り上げてきましたが、そのほか諸々で個人的にお気に入りの石仏を紹介します。
思惟した聖観音
木花開耶姫命(このはなのさくやひめ)
倶利伽羅竜王(くりからりゅうおう)
聖徳太子
弁財天
勝軍地蔵(しょうぐんじぞう)
八幡神
多聞天(たもんてん)
秋葉山大権現
石仏に興味が湧いたら
石仏に興味が湧いたら、まずは近所のお寺に行ってみましょう。古刹であれば高い確率で石仏に出会えるでしょう。神社にも足を運ぶことをおすすめします。なぜなら路傍の石仏は道路の拡張工事などの際に、近隣の神社仏閣に避難させられたからです。そのため寺だけでなく神社に安置されていることもよくあります。あらかじめ狙いを定めて見に行きたいなら、その地域の図書館で調べましょう。自治体が編纂した文化財や石造物一覧などが図書館にあります。市販本やネットの情報も役に立つでしょう。私はそれらの文献に加えてGoogleマップを大いに活用しています。検索して出てくる石仏も多く、またGoogleマップに載っていない石仏を見つけて自分で新規登録するのも楽しみのひとつです。ときおり開催される石仏ウォークの類に参加するのもよいでしょう。そうしてできあがるオリジナルの石仏マップは、さながら私だけの曼荼羅です。
今回は27の石仏を紹介しました。これは各地にある石仏の微塵ほどにもならない数です。そこにずっとあるのに誰もが通り過ぎて気にもとめない石仏も多いでしょう。それでも、縁あって生まれた石仏たちで、そこには人々の生きた証が直接に刻み込まれているのです。
お金もかからず、気ままにでかけて、ひたすら仏様と向き合う。そんな一日を過ごせると心がすーっと安らぎます。