見出し画像

著者×編集者対談|生成AIを利用した「新たな小説の作り方」とは?AIで創作をする著者に聞いたChatGPT活用法

近年、生成AI技術の進化は目覚ましいものがあります。特にChatGPTなどのチャット型AIアシスタントが注目を集めており、「ストーリー作り」というクリエイティブな分野でも注目されています。2024年10月17日、『小説を書く人のAI活用術 AIとの対話で物語のアイデアが広がる』が発売されました。今回は、ChatGPTを使った小説の書き方について、編集担当の鹿田玄也が、著者の山川健一さん、今井昭彦(ぴこ山ぴこ蔵)さん、葦沢かもめさんにインタビューしました。

ChatGPTとの出会いと、書籍制作で大変だったこと

鹿田 玄也(以下、鹿田) この書籍は「ChatGPTを使った小説づくり」を解説した書籍です。ここまで「AI×小説の書き方」を体系的にまとめた本は、まだ少ないですし、制作にあたって大変だった点もあったと思います。

山川 健一さん(以下、山川) そうですね。最初はChatGPTがどういうものか分かっていなかったので、「これって何なの? モバイルアプリなの?」というレベルでした。まずは「ChatGPTに慣れる」という点が苦労したポイントですね。ただ、UIがすごく良くできていて、直感的に操作できました。「これは使いやすいな」という印象でしたね。

鹿田 今井さんと葦沢さんは、いつごろからChatGPTで創作を始めましたか?

今井 昭彦さん(以下、今井) 私は2022年11月ごろからChatGPTを使い始めました。最初はとにかく使いながら、生成AIを理解していきましたね。今回の出版に当たって「AIが得意な仕事と苦手な仕事をまとめる作業」に苦労しました。

葦沢 かもめさん(以下、葦沢) 私は2018年ごろから生成AIを使って執筆していました。現在は最新モデルで「GPT-4o」や「o1」を使えますが、当時はGPT-2というソフトウェアでした。

鹿田 世間で話題になるよりずいぶん前ですよね。どうやってChatGPTの存在に気付いたんですか?

葦沢 公立はこだて未来大学で2012年から「人工知能を用いて星新一のショートショートを作るプロジェクト 」が始まったんですよ。実際に「星新一賞」に応募したりしていました。そのニュースを見て「自分も試してみよう」と。当時、アカデミックな分野では話題になっていましたが、当時は商業レベルで人工知能を活用できるレベルではありませんでした。

鹿田 なるほど。それから今日にかけて生成AIは進化してきましたね。

葦沢 そうですね。年々精度が上がっていくのを感じますね。「AIが生成した内容を人間がどう取捨選択するか」のバランスには苦労しますが、AIが作家のサポートツールとして商業的にも活用できるようになった感覚はあります。

プロはどうChatGPTを活用しているのか

鹿田 みなさんはChatGPTを小説執筆にどう活用していますか?

山川 前提として活用するうえで「AIが得意な仕事を理解すること」が大事だと思います。私は良い小説を書くためには、「プロットを構築すること」「キャラクターをつくること」「描写力を発揮すること」の3点が重要だと思います。まずはプロット。プロットはストーリーと違って、因果関係を指します。AIはプロットを作るのが苦手だと思いますね。定型的な内容を提示する癖があります。すぐ「謎の犯罪組織」を登場させたりね(笑)。だからプロットは、人間の脳である程度考える必要があります。

今井 謎の組織を出しがちな点は、すごくわかります(笑)。

葦沢 プロットづくりが苦手なのは、同意ですね。

山川 ただ「キャラクターメイキング」は得意だと思いました。ChatGPTと対話しながらキャラクターを作ると、時間軸を設定したうえで、キャラクターを動かしてくれる。人間よりも断然早くて優秀です。

最後に「描写力」は、60点くらいかな。まだAIが提示したものをそのまま使うわけにはいかないので、人間が推敲をしながら魅力的にしていく必要がありますね。

鹿田 なるほど。今井さんはどう使われていますか?

今井 私はこちらでたくさんの物語のパターンを用意したうえで、ChatGPTにブラッシュアップしてもらっています。またエンタメ専門の作家としては「オープニングで派手な事件を起こす」「主人公がピンチになる」「ピンチから脱出する」「最終的に大きな問題解決をする」という、ある種、定型的な流れがあるんです。

ただこのパターンって、長い歴史で出し尽くされているんですよね。だから人間の力だけで、目新しいパターンを考えるのは大変です。その点「AIに膨大なアイディアを出してもらって自分で最適なものを選ぶ」という使い方は便利だと思います。

ChatGPTでアイデア出しを行うための実践的なテクニックが身につきます。

鹿田 自分の想像にないアイディアをもらえるわけですね。葦沢さんはいかがですか?

葦沢 お二人のおっしゃったことはまさにその通りだと思います。追加するとしたら、私は「編集者的な観点」で使っていますね。自分の書いた小説に対して客観的な意見が欲しいときに、ネガティブなレビューをもらっています。プロンプトを打ち込む際は「描写」「人間関係」などの具体的な指示を入れると、そこにフォーカスをしてコメントもらえるので便利です。

鹿田 客観的なコメントと対話しながら推敲していくという使い方は便利ですね。

葦沢 ただ、まだプロの編集者の方と比べると、粗さはあると思います。

山川 ChatGPTを使って制作していると「AIは"鏡"だ」と思う瞬間があります。たまに期待していない回答が来て「いい加減にしろよ」とか言いながら対峙しつつ書いているんです(笑)。でも不満を感じる回答が返ってくる背景には、自分が打ち込んだプロンプトがあるんですよね。自分のせいで「いい加減にしろよ」と思っているわけです。

今井 そうですよね。そう考えると、まだAIだけではおもしろい小説は書けないと思います。AIは「結末を決めること」が苦手なんですよね。だから伏線もうまく張れない。特にエンタメ小説では「最後に読者の感情をどれだけ大きく揺さぶることができるか」が重要ですが、そこが苦手です。

一方で物語の心臓部以外をつくるのは、ものすごく優秀だと思います。詳細なデータに基づいたリアリティのある内容を書けるし、素敵な言い回しも出てくる。ただ、物語の根幹を作れるのは人間だけなので、AIはあくまでアシスタントに留まると思いますね。

「小説を書きたいが悩んでいる方」に読んでほしい

鹿田 あらためて、皆さんに書いていただいた『小説を書く人のAI活用術 AIとの対話で物語のアイデアが広がる』が発売となりました。どんな方に読んでほしいと思いますか?

山川 先ほども言いましたが、AIを使って小説を書くにあたって「基本的な小説の書き方」は理解しておく必要があると思います。だから「これまで何度か小説を書いたが、やる気が失せてしまった方」にぜひ読んでもらいたいです。「書いたことはないけど読むのが好き」という方にも手に取ってほしいです。使ってみると、自分の発想に揺さぶりをかけられます。つまり予想外の展開を書くヒントになるんですよね。

鹿田 その点でいうと、作家志望の方は何本も書いていると、自分の癖というか"持っているパターン"に流されてしまうことがありますよね。

山川 まさにその通りだと思います。ChatGPTと対話することで、そのパターンから脱却できます。私も最初はあっけにとられました。

AIを活用してアイデアを出すコツも紹介しています。

今井 私は「物語を書くことに悩んでいる方」に読んでいただきたいです。今ってWebやSNSが発達して、良くも悪くも現実がスケールアップしていると思うんですよね。そんな時代に虚構の物語を書くことで、希望とか危機感を見出している方にこそ、AIを使って小説を書いてほしいと思っています。

葦沢 この本は「小説」という単語がタイトルに入っていますが「ストーリーを考える」という点では、小説に興味がある方だけでなく、映像作家や漫画家などの方にも読んでほしいなと思いますね。生成AIを用いたストーリーの作り方について、ここまで具体的に書いた本は初めてだと思います。AIがどのようにクリエイティブな仕事をサポートできるのかを実感してもらえるはずです。

鹿田 ありがとうございます。実際、この本をもとにAIでストーリーを作るにあたって、注意点はありますか?

山川 私は「どんなプロンプトを投げるのかを考えること」が重要だと思います。慣れないうちはChatGPTに対して「何言ってんだろうこいつ」と思うはずです(笑)。アインシュタインが「最も大切なのは、適切な疑問を持つことである」と言ったように、生成AIを使うにあたって重要なのは「どんな質問をするか」です。

だから、ChatGPTに対して「いい加減にしろよ」と思った際は、文句を言いつつ自分の質問の仕方を省みることが重要だと思いますね。

今井 まさにそうですね。「AIだけで小説は書けない」と先述しましたが、丸投げは禁止です。可能な限り、自分で言語化したうえでアシスタントとしてAIを使うべきですね。

鹿田 ありがとうございます。AIは魔法のツールではないので、自分の作家としての考えを追求する作業は必要ということですね。葦沢さんはいかがですか?

葦沢 私は違う観点からの注意点として「自分の作家らしさ」を理解しておくことが重要だと思います。AIを使うと、良くも悪くも画一的になってしまう可能性があります。一方で商業作家としては個性が重要です。だから「自分が何を書きたいのか」「自分の作家性は何か」「ビジョンは何か」という部分をきっちりと整理したうえで、ブレないようにChatGPTを活用すべきですね。

また著作権的な部分も大事です。書籍の中でも著作権まわりの部分は解説していますが、文化庁から最新の情報が出ているので、適宜確認しつつ、違反しないように気をつけるべきですね。

鹿田 お話をうかがって、AIとの適切な距離感の保ち方が見えてきたように感じます。皆さん、ありがとうございました!

(文:緒方優樹)


▼鼎談で登場した書籍
『小説を書く人のAI活用術 AIとの対話で物語のアイデアが広がる』

ChatGPTをはじめとする生成AIの普及に伴い、プロ作家たちもストーリーづくりやアイデア出しに生成AIを活用しはじめています。本書では、プロ作家とストーリーデザイナーが、生成AIを活用して物語のアイデアの幅を広げ、魅力的な小説を書くコツを解説します。生成AIと対話する具体的な手順やAIへの指示文(プロンプト)、プロ作家が考えるAI時代の小説のあり方、AIを使って小説を執筆する際の法的な注意点など、AIを活用して小説を書くときに必要な知識がこの1冊でわかります。

発刊を記念した特別イベント「AI時代の小説の書き方講座」を開催

発刊を記念し、10月25日(金)に特別イベント「AI時代の小説の書き方講座」を開催します。3名の著者が、書籍の内容に沿ってAIを活用して小説を書く方法やストーリー作りのコツについて解説します。
▶ イベント特設ページ

著者:
山川健一
1953年7月19日生まれ。千葉市出身。県立千葉高校、早稲田大学商学部卒業。大学在学中に『天使が浮かんでいた』で早稲田キャンパス文芸賞を受賞。1977年(昭和52年)『鏡の中のガラスの船』で群像新人文学賞優秀作。アメーバブックス新社取締役編集長、東北芸術工科大学文芸学科教授・学科長を経て、次代のプロ作家を育てるオンラインサロン『「私」物語化計画』 を主宰。早稲田大学エクステンションセンター専任講師。著作85冊が一挙に電子書籍化され、iBooksで登場。85冊を合本にした『山川健一デジタル全集Jacks』、発売中。近著に『物語を作る魔法のルール/「私」を物語化して小説を書く方法』(幻冬舎/藝術学舎)がある。

今井昭彦(ぴこ山ぴこ蔵)
1960年、大分県生まれ。1983年頃からフリーランスのコピーライター、ラジオCMディレクターとして、芥川賞、直木賞から江戸川乱歩賞受賞作に到る様々な分野の小説・マンガのCMを1000本以上制作。現在、あらすじドットコム 主宰。ストーリーデザイナー。どんでん返しにこだわるドンデニスタ。近著に『大どんでん返し創作法』『続・大どんでん返し創作』『どんでん返し THE FINAL』『〈3冊合本〉面白いストーリーの作り方+物語が書けないあなたへ』『切り札の書』『桃太郎にどんでん返しを入れてみた!』などがある。

葦沢かもめ
SF作家。AIを執筆に取り入れた小説で、第9回日経「星新一賞」優秀賞(図書カード賞)。第2回AIアートグランプリ佳作。AI共作小説が『SFアンソロジー 新月/朧木果樹園の軌跡』掲載。日本SF作家クラブ会員。

担当編集:鹿田玄也
インプレスでIT・資格系の書籍を幅広く手掛ける編集者。書籍『先読み!サイバーセキュリティ 生成AI時代の新たなビジネスリスク』『いちばんやさしいDXの教本 改訂2版』などを担当。