書籍編集者 荻上徹 営業経験の上に、編集者としての今がある【インプレス出版人図鑑】
パソコン入門書の編集者として
――今のお仕事を教えてください。
現在は主にパソコン入門書をつくる編集部でデスクをしています。パソコン入門書の元祖である「できる」シリーズという大きなシリーズの担当です。初めてパソコンに触れる方にもわかりやすく解説するために、初心に帰ることを心がけて、初めてパソコンやソフトを使うというのはどういうことかを大切にしながら書籍を作っています。
編集プロダクションを経て業務委託からインプレスの社員に
――インプレスにはどのような形で入社されたのでしょうか。
もともとはマンガの編集がやりたくて、大学を卒業してから編集プロダクションに入社し、マンガ雑誌の広告ページやタイアップ、読者向けのページの制作など、いろいろな仕事を経験しました。あるとき知り合いのカメラマンから、ある雑誌の編集者がカメラに興味があって文章も書ける人材を探していると教えてもらい、ぜひやってみたいと『デジタルカメラマガジン』の外部スタッフとして参加したのがインプレスとの出会いです。
その頃は業務委託として編集プロダクションからの出向扱いでインプレスに常駐し、仕事をもらっていたのですが、当時の編集長から「インプレスの社員にならないか」と声をかけていただき、入社を決めました。
『デジタルカメラマガジン』では、カメラメーカーの技術者の方にインタビューする仕事を主にやっていました。「新しく出たカメラはどこがすごいんですか?」などと取材して記事にしていくんです。この編集部には7年くらいいましたね。
出版営業部に異動。編集者の目で見ていた世界との違いに驚く
――そのあと、編集部ではなく出版営業部に移られていますが、ここではどんなお仕事をされていたんですか。
出版営業部は、全国の書店さんを回って自社の本をセールスする部署です。担当する書店さんを回り、書籍フェアの提案や新製品のご案内、また棚をチェックして在庫がなければ補充のご提案をしていました。それまでは編集者の目しかなかった私でしたが、出版営業部での営業経験は狭かった視野を広げてくれました。
書店営業をするまで、本1冊にあんなにも多くの人が関わっているということを知らなかったんです。これだけの人が本を売ろうとしてくれている。そのことに感動しました。編集者がおもに意識するのは読者、直接やり取りをしているライター、著者の方、会社の上司といった人々だと思いますが、営業に出てみて、書籍に関わっている人がもっともっと多いことに気づかされました。取次会社や書店の方、書店のお客様など……、接する人の数も編集者時代より桁違いに増えました。
営業部内でそれぞれの担当エリアを決め、そこにある書店を訪問するのですが、私の割り当ては東京の一部と埼玉県全域、そして東北6県全部。1日6~10店、月に200店舗くらいを回っていました。
特に東北6県は広いので、レンタカーで1日500キロは走ります。大きなチェーン店から町の小さな書店さんまで、たくさんの書店員の方と話をしました。書店員さん達は編集者が考えているよりはるかに本をたくさん読んでいます。それもいろいろな会社の本をくまなくです。その後また編集者に戻りましたが、書店員さんの視点を知ることができたのは、非常にいい経験になりました。
――編集者だと、読者からの反響や売れ行きに一喜一憂すると思うのですが、営業だとどんなところで仕事の達成感を味わうんですか。
書店に営業に行ってフェアの提案をしたり、「この本は今とっても力があるので、ぜひ大きく取り扱いましょう」とお伝えして、展開を広げていただいたりするんです。そうやって提案した書籍が狙い通りに売れたりすると本当に嬉しくて! そんなときは、書店の担当の方と手を取り合って喜び合っていましたね。
インプレスの営業として書店を訪問するわけですが、当時は特定の編集部の担当も任され、その編集部のおすすめ本の仕掛け販売の提案もしていました。自作POPで自社本が目立つようにしてもらうのもそのひとつです。特に、インプレスの看板商品でもある年賀状ムックは、販売期間も短いので売り場でいかに目立つかが重要です。意外と手書きPOPが売り場では目立つので、なんとかお客様の目に留めていただこうと頑張って描いていました。年賀状のムックは十数タイトルあるので、タイトル別のPOPをすべて自作するのはなかなか大変な作業でしたが、このときのPOPは好評で、今でも手元に残っています。
出版営業部のあと、「GANREF」というWebサービスの編集部で1年ほど電子書籍の制作に携わりました。そして2016年に現在の編集部に異動になり、書籍編集をしています。
東日本大震災がきっかけで子ども向けプログラミング本を企画
――今日は編集者として携わった思い出深い本を持ってきていただきました。『できるキッズ 子どもと学ぶ Scratch3 プログラミング入門』ですが、どんな思いで作られた本なのでしょうか。
この本を作りたいと思ったきっかけは、営業時代に経験した東日本大震災でした。
私が福島県の営業担当になったのは2011年3月9日。その2日後に東日本大震災が起きたんです。インフラが復旧してようやく営業に回れるようになったのは震災から半年たったころでしたが、福島の書店チェーンさんを訪れたときに「最近はプログラミングの本が売れているよ」と教えてもらったんです。
福島県には農産物の生産や電子部品の製造に携わる人が多くいらっしゃるのですが、震災と原発事故の影響で生産物や製品を出荷できなくなってしまったんですね。そんな状況の中、子どもたちが一生懸命プログラミングを勉強し始めたというんです。自分で組んだプログラムなら、自然災害で出荷停止になったりしない。そんな気持ちでみんなプログラミングを学んでいるのだと。福島の人や子どもたちの気持ちを考えたら胸が苦しくなりました。そのとき「いつかプログラミングの本を、自分が作らなくちゃいけない」、そう強く思ったんです。
今の編集部に異動になってから作ったこの本は1作目を2017年に、改訂版を2020年に刊行しました。2020年から小学校でのプログラミングの授業が始まり、小学4年生になった娘にもプログラミングを教えたかったので個人的にもいいタイミングでした。私自身、インプレスという会社でITに詳しい仲間と仕事をしているのに、子どもにどうプログラミングを教えたらいいかわからなかったんです。どこからどうやって説明すればいいんだろう? そんな親としての悩みを紙面に生かし、改訂して版を重ねることができました。
インプレスは社員にいろいろと任せてくれる会社
――インプレスという会社は、荻上さんから見てどんな会社でしょうか。
「自由な会社」だと思います。例えばリモートワークひとつとっても、インプレスではセキュリティ対策を十分におこなったうえで、会社のパソコンを自宅に持ち帰って作業することが許されています。ところが、ほかの会社はもっと使用に制限があるという話を聞きました。インプレスは、コロナ禍のなかでも社員が最大限働きやすい環境を整えてくれるところが良いところだと思います。
――書籍編集者としてのやりがいを教えてください。
雑誌編集、Web編集、営業と、この会社でいろいろな経験をさせてもらいましたが、今、書籍の編集が心から楽しいです。
雑誌だと締切も装丁もあらかじめ決まっている場面が多く、編集部員はおもに中身を作る作業なのですが、書籍編集には雑誌づくりにはない楽しさがありまして。書籍編集では、カバーはどうする? 紙はどうする? といった本の装丁から1冊まるごと全部ひとりで担当できるんです。興味、関心がある分野もいろいろあるので、これからも一編集者として本を作り続けていきたいと思っています。
デジタル一眼レフで花の写真を撮ることが趣味
――荻上さんの趣味は写真撮影だそうですね。どんな写真を撮っているんですか?
好きなジャンルは花の写真です。花の咲く季節に合わせて公園巡りをするのですが、ずっとコロナ禍だったのでここ2年ほどは撮影に行けていないんです。来年の春、花の咲く時期に世間が落ち着いていたら、また一眼レフを持って撮影に行きたいですね。何でも撮れるのがスマホカメラの良さかもしれないけれど、レンズ交換ができる一眼レフだからこそ、花や撮りたい被写体に合わせてレンズを選べる面白さがある。そんなデジタル一眼レフがやっぱり好きなんでよすね。
あとはソロキャンプやブッシュクラフトにも関心があるので、ゆくゆくはそんなことにも挑戦できたらいいなと思っています。
――ありがとうございました。
【インプレス出版人図鑑】は、書籍づくりを裏方として支える社員の声を通じて、インプレスの書籍づくりのへ思いや社内の雰囲気などをお伝えするnoteマガジンです。(インタビュー・文:小澤彩)
※記事は取材時(2021年10月)の情報に基づきます。