著者×編集者対談|大事なのは「美しさ」ではなく「目的」!『会社のデザイン業務困ったさんに贈る本』制作秘話
「本だったらもっと深いところまで解説できる」書籍制作のきっかけの話
浦上諒子(以下、浦上) 私がむかいさんのInstagramでの投稿を見てお声がけさせていただいたことが、書籍を制作するきっかけでしたね。
むかいさやかさん(以下、むかい) そうなんですよね。お声がけいただきありがとうございます!ちなみにどの投稿をご覧いただいたんですか?
浦上 動物病院のチラシのデザインでした。私はデザインに関してほとんど素人ですが、それでも「こんなに見やすくなるのか!」と衝撃を受けたんですよ。すごく情報量が多いクリエイティブだったんですが、見違えるくらい見やすくなっていて……。
むかい わぁ~それは嬉しい感想です!
浦上 私自身、書籍の編集をするなかで、表紙のラフを作るなど簡単なデザイン業務をしています。同じくデザイン知識がなくて困っている方も多いだろうと思って企画を立てました。むかいさんは最初、書籍制作の企画を見てどう感じられましたか?
むかい 素直に「やってみたい」と思えましたね。というのも、もともとInstagramの発信だけでは伝えられる情報に限界を感じていたんですよ。Instagramはそもそも勉強するツールではないですし、リール動画だと尺の都合で表面的なビフォーアフターしか伝えられない。でも私としては「フォロワーの皆さんに、もっとデザインについて深いところを伝えたい」と感じていたんです。だから書籍のお話をいただいたときは「さらにやりたいことができる」と思いました。
浦上 「もっと深いところ」は、具体的にどういった内容なんでしょうか。
むかい 「デザインの目的を理解すること」です。Instagramの投稿では、デザインのパーツ、配置、フォントなど制作過程における内容にとどまってしまうんですが、そもそもデザインをするにあたって、必ず「目的(ゴール)」があります。
特にデザイン初心者の方は「見栄えを良くしたい」と思いがちですが、実際は先に「誰に、何を伝えたいのか」という本質的なゴールを設定することから始めるべきだと思います。そこから逆算して、クリエイティブに落とし込んでいくことが大事だと思っているんですよね。ここを理解できれば、デザインの捉え方が大きく変わるし「何をすべきか」の整理ができます。今回の書籍では「目的の大事さ」を書けたのがうれしかったですね。
浦上 その点は、書籍づくりの方向性に大きく影響しました。最初は「いろんな制作物のデザインをビフォーアフターで見せる」という企画を考えていましたが、むかいさんとお話しするなかで、その前の「思考」が大事だと気づきましたね。結果的に、より深みのある本に仕上がったと思います。
制作においてこだわった点
浦上 この企画が立ったのは2024年の5月だったんですが、半年足らずで完成となりました。インプレス社内でも「デザイン本としては驚異的な速さ」という声があり、あらためてむかいさんの仕事の速さに驚きました(笑)。
むかい いえいえ。浦上さん含め、出版まで進めていただいたみなさんに感謝ですよ。初めて本を書かせていただいたのですが「一冊の本を作るために、こんなにたくさんの工程を踏むのか」と驚きました。もっと皆さん、本を読むべきです(笑)。
浦上 むかいさんがこだわった部分はどこですか?
むかい もちろんすべてです(笑)。特に、執筆の前段階として「どんな本にすべきか」を浦上さんと丁寧に練り上げました。出版のお話をいただいて最初にやったことがあって、それが「こんな本は嫌だ」という項目を箇条書きに書き出すことでした。例えば「面白くない」「実用的でない」のように並べたうえで「自分が作りたくない本にしないためにどうすべきか」という思考で本を作りました。
だから楽しく読めるよう、図解を多くしています。また事例もただビフォーアフターを挙げるだけではなく「このように思考したから、この制作物ができた」という本質的な部分を書くようにしました。
浦上 この本では作図もすべてむかいさんがCanvaでなさっています。ビフォーアフター形式なので、デザインを大幅に変更する部分も多かったと思うのですが、あっという間に作られるし、すごいスピードでレスをいただけるので、私もスムーズに進められました。
むかい こちらこそ最後の最後まで細かい調整にお付き合いいただき、ありがとうございました(笑)。
浦上 こちらこそです(笑)。細かい言い回しなど、むかいさんの人柄が出ていると思います。例えば、編集者の立場としては「このデザインは、絶対こうすべき」と言い切りたい気持ちがあるんです。ただむかいさんは、ビフォーの例も決して悪く言わないんですよね。あくまで「こうするともっと良くなるよ」という言い回しをされます。最後の最後まで細部の言葉遣いは読み合わせをしましたね。
むかい デザインに困っている方へエールを送りたい、お守りになるような本を今回のコンセプトにしたので、その世界観に似合う言葉遣いには気をつけました。
発売前から予約殺到でAmazon総合ランキング2位に!
浦上 「会社のデザイン業務困ったさんに贈る本」ですが、むかいさんに告知していただいてすぐAmazonで総合2位にランクインしました。私自身、インプレス社内でも「おめでとう」とか「すごいね」と声をかけられていて、逆にプレッシャーです(笑)。むかいさんは率直にどう感じられましたか?
むかい 正直、最初はあまり実感がわかなかったんです。数字を追いかけることよりも、どのように告知するかに集中していたんですよ。
というのも、これまで自分のアカウントで何かを告知したことがなかったんです。だから他のアカウントを見に行って勉強したり、告知のやり方を勉強するためにイベントに足を運んだり……。でも、どれだけ考えても自分らしい報告の仕方が見つかりませんでした(笑)
結局、自分のやり方で発信したところ、フォロワーの皆さんからすごい量の反応をいただきました。Instagramがパンクして2時間くらい立ち上がらなかったほどで、皆さんの優しさに感動しましたね。
その後にインスタライブで告知をしたんですが、フォロワーの皆さんの優しさに感動して泣いてしまって(笑)。泣きながら「皆さんの力を貸してください」と、その時の率直な気持ちをお伝えしました。
浦上 私もむかいさんのInstagramをよく拝見しているのですが、本当にフォロワーの皆さまが温かいんですよね。むかいさんとフォロワーさんが相互に「応援したい」と思っていることが伝わります。
むかい 本当にそうなんです! フォロワーの皆さんはいつも優しいんですよ。だからできる限り私も応えたいと思っています。
浦上 既にコメントも3000件以上ありますが、読んでみていかがでしたか?
むかい 感動して大泣きですよ(笑)。どんな否定的なコメントがあっても、すべて返信しようと決めていたんですが、ネガティブな言葉は一つもなかったんです。「みんななんて優しいんだ」と思って、また感動していました。
浦上 素敵です。むかいさんが優しいから、素敵なフォロワーさんが集まるんでしょうね。最後に、あらためてどんな方にこの本を読んでほしいですか?
むかい タイトルにもある通り、特に「デザイナーじゃないけど、デザイン業務をする必要がある方」に読んでいただきたいです。資料作成など、ビジネスパーソンであれば、なんらかのデザイン業務は発生すると思います。そんな方の力になれたら、と思いますね。
ただ、もっと自分の引き出しを広げたい駆け出しのデザイナーの方にも役立つ本になっていると思います。ただビフォーアフターを並べるだけでなく、制作物に至った思考まで書いているので、クライアントワークをしている方のお役にも立てそうです。
浦上 そうですね。「デザイン」といわなくても、何らかのアウトプットを出す際に、知らず知らず皆さんデザインをされていると思います。
むかい そうなんですよ。書いている最中に「この本はデザインというより、ビジネス全般に役立つ本だな」と思いました。「目的から逆算して相手に伝わりやすいように、アウトプットを調整する」という思考は、どのお仕事でも役立つと思います。本を参考にして、多くのビジネスパーソンの方の仕事のお役に立てたら嬉しいですね!
浦上 本日はありがとうございました。
(文:緒方優樹)
▼対談で登場した書籍
『デザイナーじゃなくてもここまでできる!会社のデザイン業務困ったさんに贈る本』
デザイナーを雇用していない企業や、フリーランスの場合、本来の仕事と兼任してデザイン業務が必要な場合があります。デザインの知識がないのに、見映えの良さやセンスを求められてしまう…本書ではそんなノンデザイナーに向けて、デザインの基礎知識、バナーやフライヤーなど制作物ごとのデザインのポイントを解説します。
デザイン困ったさんに寄り添う内容で「誰のためのデザインなのか」「このデザインで何を届けたいのか」そんな根本からしっかりと理解できるようになる1冊です。