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著者×編集者鼎談|読んですぐ活用できる生成AI本「AIビジネスチャンス」の制作秘話、専門家が語るAIのこれからとは

日進月歩で進化し続けている生成AI。多くの企業やビジネスパーソンが業務に取り入れている中、使いこなせていない方も多いと思います。2024年7月18日に『AIビジネスチャンス 技術動向と事例に学ぶ新たな価値を生成する攻めの戦略』が発売されました。生成AIを業務活用したい方向けの実用性の高い書籍です。今回は編集担当の田淵が、著者の荻野 調さん、小泉信也さんに「書籍の制作裏話」や「生成AIを業務活用するコツ」などをインタビューしました。

入稿間近で書き直しも! 生成AI本ならではの制作時の苦労

田淵 豪(以下、田淵) 書籍を刊行しようと考えた背景から伺っていきたいと思います。

荻野 調さん(以下、荻野) 今回の書籍は4名で執筆しました。全員がデロイトトーマツコンサルティング合同会社の生成AIタスクフォースメンバーです。デロイトでは社内での生成AIの利用に加えて、たくさんのクライアントの生成AI活用を支援していますが、その前段としてクライアント領域外も含めて技術的進歩はもちろん幅広く先進事例や成功事例などを収集していました。「そのナレッジを本にまとめたいよね」という話が制作のきっかけになりました。

田淵 書籍化の話が出たのはいつごろだったのですか?

小泉 信也さん(以下、小泉) 2023年初頭だったと思います。当時は生成AIのビジネス利用が始まってすぐのタイミングでしたから、最初は「生成AIがビジネスを破壊する」というセンセーショナルな内容を考えていました。

荻野 危機感を煽りつつ、これからの時代に競争力を身につけるためのスキルセットやマインドセットを提示するという内容でした。

広告業・小売業・飲食業・宿泊業・金融業など、全13業種における生成AIの活用法を紹介


田淵 実際に書籍を作っていく中で、いろいろ苦労もありましたよね。

荻野 そうですね。4人とも平日は仕事をしているので、執筆時間の確保に苦労しました。土日に執筆することで、なんとか書けましたが大変でしたね(笑)。

田淵 著者が4名いるので、進め方も意識しましたね。

荻野 まずは掲載したい項目を洗い出して、Excelにまとめてから各々セクションで区切って書くというやり方をしましたね。各セクションで執筆者が違うと、田淵さんも苦労されたんじゃないですか?

田淵 最初は「著者それぞれで文体が違うかもしれない」と身構えていましたが、意外とみなさん同じようなテイストで書かれていたので、その点はあまり苦労しなかったですね。

編集では「初出の用語がいきなり出てきてしまう」や「前段で説明したことが再度紹介されている」という点があったので、読者の方が違和感を覚えないように工夫しました。そのうえで、最初から最後まで通しでおもしろく読めるかどうか、という点は強く意識しましたね。

小泉  生成AIは進化の途中で毎日のように新しい機能やツールが登場するので、情報の更新が大変でした。私はChapter3:AIを導入&開発するために必要なことを担当しましたが、発刊間近でOpenAIからGPT-4oというモデルがリリースされました。その点は、田淵さんにもご迷惑をおかけしたかと(笑)。

田淵 大変でしたよね(笑)。校了直前にOpenAIとAppleが提携するというニュースも飛び込んで来ましたね。

小泉 今の状況で執筆をすると、記載している情報と生成AIのリリースがいたちごっこみたいになるのは想定していたんですが、少しでも最新の情報でお伝えするように、と心がけましたね。

「生成AIを業務生かすこと」にフォーカスした実用性の高い書籍

田淵 今回の書籍のテーマとしては「ChatGPTなどの生成AIを実用的に使うための本」だと思います。この点で意識したことはありますか?

荻野 はい。ChatGPTをはじめ各種LLMや、それを用いたアプリケーションが出てきたとき、「文章を生成する」「壁打ちをする」「翻訳してもらう」「プログラミングコードを生成してもらう」などの基本的な使い方が多かったと思います。

ただ、これらの事例はビジネスパーソン全員が業務に適用できるわけではないですよね。例えば、製造業の方々の場合、壁打ち資料はあまり作らないと思います。「では生成AIは生かせないのか」というとそうではないです。ちゃんと生産性向上に寄与できます。そこで今回はChapter5、Chapter6に業種ごとでAsIsとTobeが分かるように事例を掲載しました。可能な限り広い範囲をカバーできるよう意識しましたね。数多くのクライアントを支援している筆者ならではの強みを出せた書籍だと思います。

5章では文書作成や計画策定など目的別の活用事例を収録。6章では「生成AIによる新たな価値創出」として音声合成技術や、AIチャットボットなどを紹介している

田淵 確かに、具体的な事例を見ると「自分たちの業種でも活用できる」というイメージが湧きますね。お二人の視点でおもしろかった事例はありますか?

荻野 私はコールセンター業務が興味深かったですね。おそらく最初期に生成AIが活躍し始めた領域だと思うんですよ。それまでコールセンター業務は人員をたくさん雇って、営業時間内だけ対応していました。でも、AIは営業時間に関係なく働くし、企業は人件費が必要なく電気代でまかなえるので、各社がいまAIオペレーターに代替するようになりました。すごく大きなインパクトを生んだ活用法だったなと思いますね。

これも最初はAIで回答できる範囲が狭かったですが、消費者データが溜まるに連れて応答精度が高まってきています。今後は「人との会話」という手段として、より広く活用されると思っています。

小泉 私は事例というより「AIエージェント」としての広い活用法はおもしろいと思っています。LangChainや、この本には掲載できなかったですがDifyなどのツールが出てきて、誰でもAIエージェントを作れるようになる方向に近づいてきていると思いました。つまり、人間による自然言語の指示によりAIが自分でタスクをこなしてくれるようになったわけです。こうしたツールが出てきたときに、いよいよ今までの働き方が大きく変わると思いましたね。

田淵 ちなみにお二人は、対話型AIでいうと、どのツールを使っていますか?

荻野 私はOpenAI社のChatGPT、Google社のGemini、Anthropic社のClaudeに登録しています。3つとも同じチャット型で使えるツールですが「同じ質問に対して解答はどう変わるのか」を勉強したくて、併用していますね。

田淵 なるほど。それは専門家ならではの使い方でおもしろいですね。小泉さんはいかがですか?

小泉 私も同じ3つに登録しています。特にGeminiはGoogle WorkSpaceのアプリケーションと連携できるので使いやすいですよ。ツール上でGmailの内容を呼び出したり、Google Mapsと連携してルート上の居酒屋を調べたりと、便利です。

ピンチをチャンスに変えるために何をすべきか?今後の生成AI予想

田淵 先ほどのコールセンター、AIエージェントの事例がありましたが、生成AIの登場により「自分の仕事がなくなるのではないか」と危機を感じている人もまだまだいると思います。一方で、私はこの状況をピンチではなくチャンスと思って生成AIをどんどん活用していくべきだと思うんですね。ビジネスパーソンが生成AIを使いこなすために、どんなスキルセットやマインドセットが必要だと思いますか?

荻野 まずは前提として「生成AIの活用」に関しては、各企業がハイスピードで取り入れている印象です。なので、まだ導入しきれていない方は積極的に適応することが必須だといえます。ただそれだけではなく、さまざまなスキルやマインドが必要です。

例えば創造性が必要となると思います。生成AI自体が創造的なものです。使う側の人間としても、目の前の課題に対してフォーマットにとらわれず、批判的・多角的なアプローチをすべきだと思います。そのうえでAIを活用することで革新的なソリューションを生み出せるはずです。

小泉 また現在「AIは民主化されてきた」という見方もできると思います。ChatGPTなどのプロダクトが登場する前、AIは限られた専門家のみが使う物でした。今は民主化され色んな人が使えますし、作れます。

また、使うツールによってバイアスがかかったデータ、プロンプトをもとにしている可能性もあります。例えば、人材採用ツールにAIを組み込んだ場合、AIが特定の人種・人材ばかりにアプローチをする可能性があり、フラットな視点での結果が出ない可能性もあります。使う側としては情報をキャッチアップすることも大切ですが、AIに対して批判的に見るという倫理観を大事にするといった基本的なリテラシーも重要です。

生成AIを活用するためのスキルや生成AIのリスクなども解説

田淵 そうですね。特にこれだけ日進月歩で進化していると、情報のキャッチアップも大変ですが、遅れてしまっても勉強をし続けることが、ピンチをチャンスに変えるために必要だと思っています。今後のビジネス市場において、生成AIの活用はどう変化すると思いますか?

荻野 今でいうWord、Excelみたいに企業にとって「使うことが当たり前のツール」になると思いますね。おそらく定型的な業務は、5年~10年ですべて代替されると思います。コールセンターのように、大人数が必要だった業務がAIで代替されるようになる世界は近いところまで来ていると思いますね。

小泉 フォーマット化された業務は、先述した「AIエージェント」がこなすようになります。人間は、定性的で創造性の高い業務を推進するようになると思いますね。今のうちから、未来を見据えてスキルを身につけることも必要です。

書籍の最後の章では生成Aiの未来についても触れている

田淵 先述したスキルセット/マインドセットを持って積極的に使いこなしていくべきですね。この本はエンジニアの方も多く読むと思いますが、エンジニアの業務はどう変わると思いますか?

荻野 私は需要が増していくと思います。生成AIの導入にあたってSIerのように目的の設定から、実装までが必要です。この仕事は今後も必要なので、スキルセットが身についているエンジニアは今後も必要だと思いますね。

小泉 私は実際にエンジニア業務をする側ですが、特に上流の設計ができるエンジニアの価値は高まると思います。実際にコードを記述して実装する作業はAIが代替していく流れです。しかし、企業が生成AIを導入する目的整理・活用のためのビジネス要件定義・KPIの設定、システム側の要件定義などのスキルは今後も必要です。

田淵 ありがとうございます。最後にこの本を読む方に向けて、メッセージをいただければと思います。

荻野 これまで「生成AIとは?」という概略的な書籍はたくさん発刊されたと思いますが、この本は一歩進んで「生成AIをどう使うか」という部分に注力しました。なので、「生成AIを自社・自部署でどう使うか悩んでいる方」にこそ読んでいただきたいですね。事例を用いて説明しているため、イメージしやすいと思います。

小泉 5章、6章の事例はもちろん、前段では「いまAIに起きていること」や「AIの種類」など概要的な部分も説明しています。なので、生成AIに関する知識がない方にも読んでいただきたいです。そのうえで、自分の仕事に生かせる部分をイメージしてもらえたら嬉しいです。

田淵 ありがとうございます。ぶっちゃけていうと、専門的な内容なので少し硬く感じる部分もあるかなと思います。ただ、編集者としては、その中でも図やキャラクターを用いることで、柔らかく読めるように意識しました。多くの方に読んでもらって、業務に適用してもらえたら嬉しいですね。

(文:緒方優樹)


▼鼎談で登場した書籍
『AIビジネスチャンス 技術動向と事例に学ぶ新たな価値を生成する攻めの戦略(できるビジネス)』

巨大ITテック企業が日本で大規模な投資を行うなど、多くの人々が「ビジネスチャンス」として注目しているAI。本書は、その波に乗るための知識やノウハウを網羅的に解説しています。AIを支える機械学習やLLMの基本にはじまり、自然言語から文章や画像が生成される仕組み、AIを導入・運用するためのノウハウ&課題、LLMを巡る世界動向、業界別のAI活用事例、今後の展望など、AIを武器にするために必要な知識を、豊富な図解をもちいて丁寧に紐解いています。

著者:
荻野 調
ハーバード⼤学⼤学院にてComputer Science修⼠号、東京⼤学⼤学院にて⼯学博⼠号取得。⼀橋⼤学⼤学院MBA。20代はソニー等にて新規事業の連続⽴ち上げや、500億円規模の事業再編を経験。30代は住友系・伊藤忠系ベンチャーキャピタルにて国内投資、海外投資を担当。40代はグリーにてグローバル事業を⽴ち上げ、Yahoo/KDDI等との戦略提携・ゲーム会社への投資・事業立ち上げ等に従事。その後AI×Financeのスタートアップを設⽴し、⾦融機関や官公庁にAIサービス等を提供した後事業売却。50代は大手コンサルや事業会社にて、⽣成AI特別チームの技術⾯・エミネンス⾯を率いて、生成AIを利用した製品化やサービス化を推進。フィンテック協会理事(2016〜2020)。クラウド・AI表現技術検定試験委員(2021〜)。

⼩泉 信也
大手通信会社での大規模ネットワーク構築、クラウド基盤上でのWebアプリケーション開発、AI技術検証など、多岐にわたるプロジェクトを経験。その後、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社にて、データ分析基盤の構築、パブリックブロックチェーンを活用したアプリ開発、生成AIアプリケーション開発などにアーキテクト・チームリードとして従事。現在は、デロイト トーマツ ノード合同会社で生成AI技術のチームリードを務める。著書に、「エンジニアのためのWeb3開発入門」(インプレス)など。

久保⽥ 隆⾄
2011年に東京⼤学⼤学院にて物理学の博⼠号を取得。博⼠課程では欧州原⼦核研究機構(CERN)にて新型加速器を⽤いた新粒⼦探索のための検出器の構築と最初期のデータを⽤いた物理解析を⾏う。⾼エネルギー物理奨励賞(2011)、⽇本物理学会若⼿奨励賞(2012)を受賞。学位取得後、メルボルン⼤学の研究員として引き続き素粒⼦物理の研究を⾏う。2012年にCERNで発⾒されたHiggs粒⼦の研究に貢献するとともに、Australian Research Councilより複数の競争的資⾦を獲得し、自⾝の研究プロジェクトを推進した。2018年に帰国、複数のプロフェッショナルファームを経て、2021年にデロイト トーマツ コンサルティング合同会社に⼊社。現在、⽣成AI特別チームにてLLMの技術検証チームをリード。

⼤塚 貴⾏
通信キャリアで新規事業開発に従事し、携帯電話向け位置情報サービスや宿泊予約サイトの企画および開発を担当。その後、広告代理店でポイントマーケティング部門を立ち上げ、ポイントクラブサイトの受託運営や自社メディアのアフィリエイトビジネスの拡大に成功。求人広告会社ではメディア戦略部長として、日本最大級の医療・介護求人サイトの新規立ち上げに携わりつつ、非正規労働市場に関する総合研究所で雇用に関するリサーチレポートを多数発信。2022年からはデロイト トーマツ コンサルティング合同会社のCSIO Officeに参加し、人事系コンサルティングサービスのPeople Analytics基盤の構築と、生成AIを活用した業務プロセス改革プロジェクト(アプリ企画)のリードを務める(現職)。

担当編集:田淵 豪
インプレスでIT系の書籍を幅広く手掛ける編集者。書籍『先読み!IT×ビジネス講座 ChatGPT 対話型AIが生み出す未来』などを担当。