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【編集者の書棚から】#本好きの人と繋がりたい Vol.5

出版社は本好きの集まり。この「編集者の書棚から」では、毎回3人の社員が、いち読者として最近手に取った書籍を紹介していきます。「書棚を見ればその人がわかる」とよく言われるとおり、インプレス社員の人となりが垣間見えるかも(?)なマガジンです。

もしも「酒」がすべて禁止されたら…?

1920年代のアメリカで実施された「禁酒法」について、なぜそんな法律ができ、どんな結果をもたらしたのかを丹念に追うノンフィクションです。
禁酒法の実施前、アメリカ国民の飲酒量は過去最高でした。高度に工業化されつつあるこの時代に、しらふの労働者を求める企業の思惑と、第一次世界大戦が産んだ禁欲的な世論が噛み合って、禁酒法が成立しました。
禁酒法はさまざまな影響を社会にもたらしました。経済的な視点で見ると、酒に関する仕事をする人びとの失業や、酒に関する税収の激減といった悪影響も多かったようです。こうした悪影響に加えて、1929年の大恐慌がとどめになり、禁酒法は廃止されました。
禁酒法の下でなんとか酒を密輸・密造しようとするエピソードには、ジョークとしか思えないめちゃくちゃな事例がたくさんあります。人びとの飲酒欲求を完全に止めることはできなかったようです。一方で、禁酒法によってアメリカ人の飲酒量が半減し、高度に機械化された現代に適応したという論は興味深いものです。
「酒がすべて禁止されたらどうなるか?」という壮大な社会実験を、俯瞰して眺めることができる一冊です。(編集部・しかだ)

その景色は、ここにはないけど、どこかにある

アラスカに魅了され、19年間アラスカの大自然や人々の暮らしを撮り続けた写真家・星野道夫さんのエッセイ集です。星野さんがゆく先々で一つの風景の中に立って、あるいは誰かと出会って、いかによい時間、満ち足りた時間を過ごしたかという報告が素朴な筆致で書かれています。それだけと言えばそれだけなのですが、静かで説得力のある文章がアラスカを生きる喜びや厳しさを伝えてきます。
印象に残っているフレーズがあります。星野さんが普段は東京で編集者として過ごす友人と旅をして、帰国した友人からこのような連絡がきます。「東京での仕事は忙しかったけれど、本当に行って良かった。何が良かったかって? それはね、私が東京であわただしく働いている時、その同じ瞬間、もしかするとアラスカの海でクジラが飛び上がっているかもしれない、それを知ったこと……」
アラスカの地に降り立つ経験はなかなか得にくいものですが、読書という行為も確かに、ここではないどこかで起きている「もうひとつの時間」を感じさせてくれる体験です。毎日が忙しくて読書をする時間は……、と思っている方にこそ読んでほしい一冊です。(編集部・おだ)

現代社会の生きづらさの正体がズバリわかる本!

ブルセラ社会学者として一世を風靡した宮台真司氏と、大学院大学至善館の野田智義理事長による講義が書籍化されたものです。「経営リーダーのための」と銘打たれていますが、経営学に馴染みがなくともOK。現代社会の問題点を読み解く良書となっています。
講義は「生活世界」と「システム世界」の対比を軸に進みます。書籍内ではそれぞれのキーワードが「地元の商店街」と「コンビニ」に喩えられます。
システム世界は安心・便利・快適です。しかし、それがどんどん拡大すると、人間はシステム無しでは生きられなくなります。システムを道具として使っていた人間が、逆にシステムの奴隷になる、という現象が起こると言うのです。
次第に、地元の商店街で見られたような、名前や人となりを知っているからこその感情的な結びつきは失われていきます。人間はコンビニ店員と客のような、相手が誰でも構わない「入れ換え可能」な存在となり、そこから生まれる孤独感や無力感が、さまざまな分断や社会問題を引き起こすのだと宮台氏は論じます。
現代社会の生きづらさの正体を端的に言い当て、そんな社会を仲間とともに生き抜くための道しるべとなるような一冊でした。(編集部・みくりの)