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著者×編集者対談|世界中で大人気!動物たちが織りなすファンシーな塗り絵本ができるまで

なにかとストレスの多い昨今、少しでも癒されたい。そんな世界中の大人たちに、自由に色を塗って楽しめる塗り絵がブームになっています。インプレスでも、5月に発売された塗り絵本『森の小さな仲間たちとおとぎ話を巡る旅』が大好評!
イラストを描いたのは、表情豊かな動物の可愛いイラストで支持を集めるイラストレーターの小林さゆりさん。どこか懐かしさもあり、誰もがほんわか優しい気持ちになる彼女の作風は、女性のみならず男性のファンもいるのだとか。小林さんと、編集担当の竜口明子が、この塗り絵本の制作の裏側を語ります。



動物の可愛さ、メルヘンチックな世界観が大好評

竜口明子(以下、竜口) 小林さん、まずは初めての本を出されての感想をお願いします。
 
小林さゆりさん(以下、小林) なんかいまだにふわふわしているというか、「自分の本ができたなんて」という、信じられない気持ちでいっぱいです。一生懸命描いたイラストが、いろいろな人に楽しんでいただけているようなので、ちょっと自信がつきましたし、もっと描きたくなりました。

竜口 私の編集部では、年賀状素材集を長年制作しているのですが、やりとりさせていただく多くのイラストレーターさんやクリエイターさんとのお付き合いが、毎回年賀状だけの単発的なものとなってしまうのがもったいなくて。たくさんあるご縁を、何か別の形、別の書籍で生かせないかなと考えていました。そのひとつとして、3年ほど前に始めたのがこの『ときめく塗り絵シリーズ』 で、絶対に小林さんに1冊お願いしたいと思っていました。

『森の小さな仲間たちとおとぎ話を巡る旅』

動物たちの可愛さ、メルヘンチックな世界観というのがシリーズの軸なんですが、まさに小林さんにぴったり! 小林さんの描く絵は、とにかく動物がすごく可愛いんですよね。フォルムはもちろんのこと、動物たちの生き生きとした表情がとってもいい。1コマ1コマ、まるで生きているかのようにキャラクターの感情が描き出されているんです。今回の書籍では、小林さんの作風の魅力を最大限に引き出したい、小林さんの絵の良さが活きるような話を展開していくというのがこだわった点でした。おかげさまで重版がかかり、大好評です。

小林 ありがとうございます。今回の塗り絵のお話をいただいて、私に出せる絵はどんなものだろうと考えましたが……。背景も動物も「可愛い」をベースにして、自分自身楽しく描けたらきっと読者の方にとっても楽しい塗り絵になるはず。そう思って、竜口さんを信じて描かせていただきました。

竜口 そう言っていただいて嬉しいです。今回は小林さんの絵のルーツも知りたいと思いまして……小林さんはいつ頃からイラストを描き始めたんですか?

小林 小学生の頃から絵は好きで、人から「下手」って言われても、ただ絵を描きたいから描いていました。中学時代に「人からの評価なんて気にしなくていいやん」と振り切れた瞬間から、自分の好きなものが自由に描けるようになって、ぐっと絵が伸びた気がします。そこからもう、絵を描くことがただただ楽しくて、どんどん絵の道に入っていきました。
美大では油絵を専攻したものの、油絵そっちのけで女の子とかうさぎのイラストを描いていました。その絵をポストカードにして大学の文化祭で売り出したのが、今思えば私のイラストレーターとしての原点かもしれないです。
あるとき、私のグッズを取り扱ってくださるお店の方に「小林さんの絵は、決して流行の絵ではないから、パッと爆発的に売れるわけではないけれど、ずっと長く愛される絵だから続けていったらいい。年齢も子どもからずっと上の年齢の方まで好かれる作風だから自信をもって」と言っていただき、それなら頑張ろうと思って今に至っています。

アイデアが出ない、子どもが病気……ワーママ同士で乗り越えた多くの壁

竜口 今回の本では、物語のワンシーンだけでなく、パターン柄や斬新な構図も採用し、手に取った方が気分に合わせて塗り絵を楽しめるように制作しました。でも、きっとこれだけの枚数をオリジナルで描き下ろすのは、かなり大変だったと思います。小林さんは、この本を制作していて苦労したのはどんなことでしたか?

小林 スランプになったのはアイデア出しです。私の絵で人気上位のモチーフである、猫、うさぎ、リス、ハリネズミ、小鳥を主人公にすることは決めていて、次はより詳しいページ決めでしたね。「シンデレラは絶対ですよね」「次は何にしようかな~」なんて最初はリズムよく竜口さんといろいろ出していましたが、定番の西洋の童話を出し切ったあたりでアイデアに行き詰まってしまって。

様々な童話をモチーフにしたイラスト

西洋のもの以外に、一寸法師などの日本の昔話も入れ始めたんですが、「みんなが知ってて、親しみがあって、塗りたくなるような物語」という意味で有名な物語を思い浮かべると、とにかく登場人物がおじいさん、おばあさんが多いので、動物に置き換えるには無理がある気がしました。

また、塗り絵にぴったりな美しい物語であっても、結末が悲しく切なすぎると、今回の塗り絵には入れられない気がして……。「3匹の子ブタ」や「オオカミと7匹の子ヤギ」もいいなと思いましたが、例えば「3匹の子ブタ」を今回の登場キャラクターのうさぎと猫と小鳥に置き換えると、もう子ブタの話でもなんでもなくなってしまう! 一体どうすればいいんだろう……と、このあたりで途方にくれました(笑)。

竜口 確かに、このシリーズは「絵本のような物語のある塗り絵」がテーマですが、それがいい部分もあれば制約になってしまう部分もあるんですよね。通常の書籍と違って、塗り絵制作の上で編集者ができるのは、著者を応援することだけだと思っていまして……「アイデアが出ない」と小林さんがモヤモヤしているときに、ヒントとしていろいろな資料を集めて、「こんなのどうですか?」って提案するのが精いっぱいでした。

小林 いえいえ、竜口さんのサポート、すごく助かりました。どうしてもアイデアが出ないとき、竜口さんに相談したら、「既存の童話だけではなく、小林さんの中にあるイメージを童話のようにしていいんですよ。遊園地やサーカスはどうですか?」っていろいろアイデアを考えてくださって、「ああ、それならまだまだアイデアを出せる!」って思えたんです。あのとき、竜口さんは、心の底から私のイラストのファンでいてくれているんだって、すごく伝わってきました。

遊園地をテーマにしたイラスト

竜口 あとは、私も小林さんも、小さい子どもが2人いるところが共通していて、なぜか同じ時期に子どもが病気になってしまう(笑)。

小林 そうそう。夜中の12時にチャットで話していたこともありますよね(笑)。

竜口 小林さんも、お子さんが幼稚園にいる間や、子どもが夜寝ている間に絵を描いていただき、少ない時間をかいくぐって制作するのは本当に大変だったと思います。

小林 いえいえ、毎日「絵が好きだからとにかく絵の仕事をしたい」、ひたすらそんな気持ちで描き続けていました。子どもがいるので、私が絵を描けるのは1日の中で限られた時間だけですが、時間の制約があるからこそ、ぎゅっと集中できる面もあるような気がします。家事と育児と仕事に追われていると、自分の自由時間なんてないようなものですが……絵が大好きな私にとっては、仕事の時間がそのまま自由時間のような気持ちでした。

年齢も国境も越えて繋がれる!SNS時代の塗り絵の楽しみ方

竜口 ネット書店のレビューを見ていると、海外の読者の方からのコメントもあって嬉しいですよね。

小林 ビックリしました。塗り絵を趣味にしている方が世界中にいらっしゃるんですね。YouTubeでは、ヨーロッパやアジアのいろいろな国で、「こんな塗り絵を買ってきた」といって私の本をぱらぱらめくって紹介してくださったり、ただひたすら塗り絵を塗っている様子を動画に上げてくださったりしている方がいてすごいと思いました。

竜口 InstagramなどのSNSに塗り絵を投稿する人も多くて、ときめく塗り絵シリーズもよくSNSに投稿されているんですよね。ハッシュタグ(#)のあとに「ときめく塗り絵シリーズ」だったり、書籍名、小林さんの本なら「#森の小さな仲間たちとおとぎ話を巡る旅」で検索をすると、さまざまな塗り絵作品がヒットします。検索すると、日本の方ばかりでなく、海外の方も多く塗り絵を上げてくださっていて、塗った作品にコメントし合うなど、コミュニティが盛り上がっていて本当に楽しそうです!

また、塗り絵って配色が命だと思うんですが、SNSにはこちらが思ってもいないようなカラーリングで塗られている作品が上がっていて、いろいろな色合いを比較できるのも面白いなあと思って見ています。
塗り絵の楽しみ方も人それぞれで。次々といろいろな作品を塗っていく方、1枚の作品を1ヶ月以上かけてじっくり塗る方、ハロウィンの季節に合わせてオバケの絵を塗るという感じに、自分で季節のテーマを決めて塗り絵をSNSに上げていらっしゃる方もいます。

小林 塗り絵は、とにかく人の目を気にせず自由に楽しんでいただくのが一番ですよね! ファッションを楽しむみたいに、自分の好きな色を塗って楽しんでいただけたらと思いますが、誰かの作品を参考にしたいなと思ったらSNSを検索すると、大人っぽい配色からファンシーな配色まで出てくるので、いいヒントになると思いました。

竜口 みなさん、本当に時間をかけて丁寧に塗ってくださっていますね。「○○さんがこう塗っているので、私はこうやってみました」「○○さんのお隣のページを塗って、コラボにしてみました」なんてオンライン上でやりとりされているのを見ると、こちらまで楽しくなってきます。塗り絵はひとりで黙々と楽しむイメージでしたが、ネット上でいろいろな人と繋がれるきっかけにもなっているなんて素敵ですよね。

小林 私自身、自分の塗り絵を塗っていても、塗る箇所が多いので色選びにはいろいろ迷うことがあるんですが、そんなときにSNSで他の人の塗り絵をみると、すごく刺激をもらえています。

ひとりで、家族で、友達同士で、オリジナルの塗り絵を仕上げる楽しみ

竜口 小林さんにとって、絵を描くということは、どんなことなのでしょう。

小林 私にとって、絵は、自分の人生の「支え」なんじゃないか、って思ってます。絵があったから、たくさんの人に出会えましたし、こうしてお仕事もいただけました。自分にしか描けない絵を認めてもらったことは、自分自身を認めてもらえたことと同じ。つらいことや嫌なこと、自信がもてないことがあっても、自分の絵をみんなに喜んでもらえているということが、生きる支えになっていますね。
今回、私の名前でオリジナルの本を作っていただくのは初めての経験でしたが、竜口さんとの二人三脚で、本当に自分が可愛い、楽しい、好きだと思えるものを思う存分描けて本当に幸せでした。

私の本を、お年を召したご家族にプレゼントして喜ばれたというレビューも拝見しました。小さなお子さんからお年寄りまで楽しんでいただけているようでなによりです。私も娘と塗り絵をすることがあるのですが、「ママの塗った色キレイ! 私もそう塗る!」と娘に真似されながら、わいわい盛り上がっています。塗り絵は自分ひとりで塗る楽しみもありますが、家族や友達と一緒に塗る、SNSで交流してみるなど、私の塗り絵をきっかけに読者の方の世界が広がるのはとても嬉しいです。

本書は1つの物語のように構成されているのが特徴です

竜口 読者のみなさんが1冊まるごと、小林さんのイラストの魅力をじっくり楽しめるような本に仕上げることができて、私も感慨深いです。インプレスの中でも塗り絵は珍しいジャンルだったのですが、おかげさまですっかり定着しました。今後も新しいシリーズも含め、魅力的な塗り絵本を作っていきたいなと思います。小林さん、これからもよろしくお願いします。

ー次の塗り絵本も楽しみです。小林さん、竜口さん、ありがとうございました。

(文:小澤彩)


▼対談で登場した書籍
『森の小さな仲間たちとおとぎ話を巡る旅 ときめく塗り絵シリーズ』
童話のような物語を楽しめる塗り絵「ときめく塗り絵シリーズ」の第5弾。イラストレーター小林さゆり氏が描く、メルヘンなおとぎ話の旅をテーマにした塗り絵本。動物たちが、物語の主人公に扮して夢の世界を巡ります。シンデレラ、赤ずきんなど誰もが知る童話の世界のほか、著者オリジナルのスイーツ、空を駆けるユニコーン、不思議なサーカスなど、乙女心をくすぐる塗り絵がたっぷり。

著者:小林さゆりさん
イラストレーター。大阪府生まれ、京都府在住。美大を卒業し、TVゲームのグラフィックデザイナーとして6年間勤務したのち、フリーのイラストレーターへ。あたたかみのある優しいテイストの絵が好評で、子ども向けのイラストや年賀状、商品パッケージのイラストなど、活動の幅を広げている。2児の母。

担当編集:竜口明子
インプレスでカレンダーや年賀状素材集などを担当する編集者。童話のような物語を楽しめる塗り絵本「ときめく塗り絵シリーズ」を企画・制作。