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書籍編集者・渡辺彩子 音大卒業の彼女がなぜインプレスへ?【インプレス出版人図鑑】

中途採用でインプレスへ

――今のお仕事を教えてください。

2018年9月にインプレスに中途入社し、書籍編集の仕事をしています。私が所属している編集部には私以外に3人の編集者がいて、それぞれスマホやSNSの解説書系、ビジネス書、あとそれぞれの興味関心のある分野の書籍を担当しています。雑誌と違って単行本は一人でやる作業が多いので、自分のペースを持って、それぞれがコツコツ仕事している感じですね。年間何冊かの出版をベースに、さらにもう少し出版できればいいかなという感じで企画を考えていきます。

音大卒業後、演奏者志望から編集者へ

――経歴を見て驚きました!渡辺さんは音大を卒業されているんですね。

そうなんです。5歳からクラシックピアノ一筋で、演奏者になりたくて音高と音大に進みました。プロのピアニストを多数輩出する学校で、大学を卒業したらヨーロッパに留学するのが当たり前という世界。音大卒業後は研究科に進み、プロの道を目指したいと思っていました。

――音大の卒業試験の結果はどうだったんですか?

結局、卒業試験でうまくいかなくて、研究科には進めませんでした。そこで大きな挫折を味わうことに。その後、学内の掲示板に貼りだされていた劇団四季の募集に応募し、アルバイトとして入ったのですが、プレーヤーとしての仕事をあきらめきれず、結局辞めてしまったんです。

演奏の仕事をやろうとしても、なかなか稼げないし生活は大変。そんなとき「私ひょっとして編集の仕事に興味あるかも」って気持ちが降りてきたんです。本も好きだし、学生時代に文集を作ってたなって思い出して。たまたまクラシック専門の出版社で編集職を募集していて、そこに入社し、以後十数年、音楽教育の月刊誌を作っていました。

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スタンフォードで知った世界観が次のステップに

――しかしその後、音楽系の出版社を辞めていらっしゃいますね。

はい。夫のスタンフォード大留学について行くことにしたんです。夫の留学が決まり、友人に「絶対一緒についていったほうがいいよ。本当に楽しいから」と背中を押され、会社を辞め、私も渡米を決めました。英語はほぼ話せない状態でしたし、たった1年間の滞在でしたが、本当に行ってよかったです。
スタンフォード大学はスパウス(配偶者)向けのプログラムがとても充実していて、私もいろいろな勉強ができました。たとえば、英語の講座を朝9時から午後3時まで受けたりできるんです。そのほかにもそこから料理、韓国語、タンゴなどの講座を受講し、刺激的でわくわくするような日々でしたね。同じように世界中からスタンフォードに来ていた多くののスパウスと友達になり、視野も広がりました。

インプレス入社を決めた「クリアファイル事件」

――音楽雑誌の編集からスタンフォードに1年滞在、帰国後インプレスに入社という流れですが、IT系の出版社に違和感なく飛び込めましたか?

私にとっては、インプレスに入社するのは自然な流れだったんです。スタンフォード大学はシリコンバレーにあり、イノベーションを身近に感じられる環境でした。GoogleやAppleの本社、スティーブ・ジョブズの家があったり、世界的な著名人の講演が身近で行われたり……それこそ世界の最先端にいるような感覚で。もともと音楽一筋だった私は、ずっと16世紀、17世紀の音楽の話ばかりに触れていたので、帰国したら新しい情報を扱う出版社に入りたい!と思ってインプレスを受けることにしたんです。採用面接のときに、すごく「いい空気」を感じたのも入社を決めた理由です。

――面接で感じた「いい空気」とは?

面接のとき、自前で準備したクリアファイルに履歴書を入れて提出すると思うんですが、そのクリアファイルは自分のお金で買っているものだから、私としてはできることなら返却してほしかったんです。ほかの会社ではクリアファイルごと取られちゃうけれど、インプレスだけは違った。「これはお返ししますね」って返してくれたんです!小さな出来事かもしれませんが、私にとってはこのことが「この会社しかない」って思う一番のきっかけだったかもしれません(笑)。
面接のときも役職の方々がとても優しくて、圧迫面接されることもありませんでした。入社後もとても風通しがいいです。企画だって、エビデンスがあって論理づけされていれば頭ごなしに否定されることもなく誰もが私の話を聞いてくれる。前例のないような仕事でもどんどん挑戦させてくれる会社です。

編集者がここまでやる?的な書籍づくり

――渡辺さんが担当した書籍で、思い入れがあるのはどの本ですか?

入社してすぐに担当した『実践 スタンフォード式 デザイン思考』ですね。この企画を進めさせてくれる出版社に入りたいと思っていたくらい思い入れのある企画です。スタンフォード大学のd.schoolでデザイン思考を学んだ台湾人のジャスパー・ウさんに執筆を依頼したのですが、ジャスパーさんは日本語が書けないということに、企画が進行してから気が付いて。翻訳して執筆してくれる適任の方が見つからなかったので、インタビューから翻訳まで全部自分でやることにしました。

――編集者の渡辺さん自身が翻訳も担当したんですか?

私はスタンフォードでd.schoolのビジターツアーに参加したことがあったので、そこがどういう雰囲気かもわかっていました。翻訳やライティングを任せられる人が見つからず途方に暮れていたとき、「あれ?それなら私が適任じゃない?」と思って、ジャスパーさんに何度も英語でインタビューし、自ら翻訳し執筆する流れ……。おかげさまでこの本は好評で、現在続編を準備しているんですよ。
あとは、『サンラサーのココロとカラダが整うスパイスカレー』というカレーのレシピ本も思い入れの強い企画ですね。大人気の東新宿のスパイスカレー店「サンラサー」の店主・有澤まりこさんに執筆を依頼しました。インプレスでレシピ本って珍しいと思うんですが、レシピ本を作った経験がなかったにもかかわらず、フードライターに依頼せずに自分で試行錯誤しながら作り上げ、いい経験ができた仕事だったと思っています。

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渡辺流・本づくりのこだわり2点

――編集者として、本づくりのこだわりはありますか。

自分としては2つあります。
まず1つめは、「新人を発掘したい」ということ。すでに有名で誰もが知っている人に書いてもらえば、ある程度の部数も見込めると思うんですが、まだメジャーじゃないけどいいコンテンツを持っている人を発掘したいなって常に思ってアンテナを張っています。
2つめは「自分が共感できる内容にこだわる」ということ。例えば『Pythonで学ぶ音声合成 機械学習実践シリーズ』という本も私の担当した書籍です。私にとっては難しい内容でしたが、自分が面白いと思えることを企画したり、「この人に頼みたい!」という著者に執筆を依頼したりすることで、その本にすごく共感できるようになるんです。
私にとって、手掛けた本はどれも子どものような存在。だから、「これ出したら売れそう」と思っても、共感できない企画はやらないようにしています。企画も大事ですが、生み出す過程も大事にしたいんです。

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リモートになって変わったこと、そしてこれから

――インプレスでは、コロナ禍以来リモートワークが続いているとお聞きしました。何か生活は変わりましたか?

うちには2匹の猫、2歳の黒猫「ひじき」と7か月のキジ猫「きじた」がいるんですが、リモートワークになって私がいつも家にいるので、すごくうれしそうです!
あと、最近は漫画をよく読むようになりました。コロナ禍で人とおしゃべりする時間は減りましたが、その時間を漫画に費やしている感じです。今の私の知識やインスピレーションは、もしかして漫画に補完してもらっているかもしれないですね!

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――最後にこれからの夢があればぜひ教えてください。

「あの本よかったね」ってみんなに思ってもらえるようなヒット作を手掛けたいですね。それこそ「渡辺さんといえばあの本だね」と、自分の代名詞になるような本を。でも今の時代、狙って売れるほどわかりやすくないとも思っています。結局、担当している自分自身が納得して作れたものを世に出し続ける、というのが本当の夢なのかもしれません。
プライベートでは、好きな海外旅行に行ってリフレッシュしたいですね。ここ2年ほどどこにも行けていないので、世の中が早く落ち着くといいなと思っています。

――渡辺さんの作った書籍が書店に並ぶのを楽しみにしていますね!

【インプレス出版人図鑑】は、書籍づくりを裏方として支える社員の声を通じて、インプレスの書籍づくりのへ思いや社内の雰囲気などをお伝えするnoteマガジンです。(インタビュー・文:小澤彩)
※記事は取材時(2021年8月)の情報に基づきます。


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