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出版営業・梅田拓実 出版物のマーケティングを担当。編集者が絶大な信頼を寄せる営業プランナー【インプレス出版人図鑑】

―――梅田さんは営業部の中でマーケティングを担当しているとお聞きしました。どんなお仕事をされているのでしょうか。

もともとほかの出版社で営業をしてきましたが、4年前にインプレスに入社して、現在は営業部のマーケティングを担当する部署でプランナーをしています。出版社には、編集部門と営業部門があります。私が所属するマーケティングを担当する部署は、編集部門と営業部門のちょうど中間に位置するような存在です。具体的に言うと、たとえばインプレスから出版される書籍の初版部数を提案するのも私の仕事です。
編集部で制作している出版物を初版で何部刷るかを考え、社長以下、営業側や編集側の責任者が一堂に顔をそろえる「部決会議(部数決定会議)」で初版部数を提案します。初版部数が決まると、次に書籍の卸問屋である各「取次」に何百、何千部卸すか、取次各社と交渉します。書籍が出版されると、印刷所から各取次、各取次からその先の各書店へと書籍が流れ、読者の手元に届くわけです。
書店を回ってインプレスの出版物を店員さんにおすすめするのが営業職ですが、私たちプランナーの仕事は、そうした営業活動を補う存在でもあると思います。自社のこれまでの書籍や他社類書の売上データから、どの場所でどれだけ類書が売れているか分析し、今後どこで売れそうかをはじき出して、書店への提案を考える……。いわば営業部のブレーン的な立場とも言えると思います。と同時に、初版部数を決めるという点では書籍を制作する編集部の売り上げに直結する仕事でもあります。

―――なるほど、営業プランナーは非常に重要な仕事ですね。初版部数はいつもどうやって決めているのですか。

出版の2か月くらい前に編集部から書籍のタイトルや価格、ページ数、刊行スケジュールなど書籍の具体像の提案が行われます。まだこの段階では書籍自体は制作途中なので、担当する編集者から競合書などの情報をヒアリングして、競合書がある場合はそのPOSデータをもとに市場規模や実際の売り上げを予測します。さらに、企画の独自性や優位性などを編集担当者に確認して「この本はもう少し売れそうだからこの部数でどうだろうか」と設計し、発売日1か月前の部決会議で初版部数を提案します。過去に出版実績のあるテーマなら感触はなんとなくわかるのですが、インプレスにとって新しいジャンルの書籍で内容が想像できない場合は、編集部に頼んで制作途中のゲラを見せてもらって自分の目で確認することもあります。

―――たとえば、編集部が「これだけ刷りたい!」と言っても、梅田さんのリサーチ結果では「その初版部数は無理!」という場合はないのですか?

そういうせめぎ合いは常にあります。編集部が希望する印刷部数と、私の出す提案部数がだいたい同じ場合もありますが、両者の希望部数に開きがあるときは、会議の場に一瞬緊張が走る気がしますね(笑)。編集部のほうが印刷部数を多く希望することもありますし、逆に私たち営業側が「この本は編集部の希望部数よりももっと売れるに違いない」と判断して多めの部数を提案することもあります。

―――部決会議を経て部数を決めたあとは取次への連絡ですね?

はい、決定した部数を各取次(問屋)に納品するため、部数の交渉をします。「うちは1500部希望します」という私たちの提案に対して、「うちはそんなにいらないです、1000部でいいです」なんて取次から言われたときには、「この本はこういう特徴があって売れると見込んでいるので、もう少し多めに引き受けてもらえませんか」などといったやりとりを行ったりしています。各取次さんとの交渉は、いつもなかなか苦戦するところではありますね(笑)。

スケジュールはこだわりの手帳で管理する

―――梅田さんから見て、「これは売れるな!」という企画はどのようなものか教えてください。

最も重要なのはタイトル、次に表紙ですね。目立つ表紙だということ、その表紙にアイキャッチなどでどういう情報が書かれているのかも重要なポイントです。あとは書籍のページ数、価格帯も大切ですね。

―――編集部としては「いい本を作る」ことがミッションだと思いますが、梅田さんのミッションは何でしょうか。

まずは売れ残りを防ぐこと。現状の書籍流通の仕組みでは返本はどうしても発生するものですが、基本的には作った本の6割~7割は売れるように部数を設定できれば成功と考えています。返本率が低いことは大切ですが、一方で初速が良すぎて欠品になってしまうケースもマーケティング担当としては失敗なんです。売れるべきタイミングで売り逃しが発生してしまったということですから。たとえば、書籍の発売後すぐに重版がかかったときは、多くの人は喜ぶと思うのですが、「自分の予測が間違っていた」という点ではプランナーとして反省すべきケースではないかとも思うんです。
出版後の書籍の売れ行きが自分の予想通りだったかは常に気にしていますし、自分でも予想と実売部数をExcelなどで管理し、振り返っています。自分が組み立てた部数が、実際に自分の思い通りの売れ方をしたときは嬉しいですよ!
 Amazonなどの予約数や初週1週間くらいの売れ方で「この書籍はかなりの部数いけそうだ」というのは見えてきますが、ジャンルによってその速度は違うので、週次で新刊の動向を追いかけています。著者さんやインフルエンサーが書籍を紹介してくれたことで売れ行きが急に伸びることもありますし、書籍に関するイベントやセミナーが開催されて、その前後だけ短期的にぐっと売り上げが伸びるなんてこともあります。

―――コロナ禍になって書籍の売れ行きも変化しましたか?

そうですね。コロナ禍から、Amazonや楽天ブックスを筆頭にネット書店での売れ行きが非常に良くなってきているという実感があります。私は営業としてずっと書店さんに足しげく通って営業していたので、街の書店で売れてほしいという思いは人一倍ありますが、ネット書店の売り上げが伸びているなら、厳しい目で見てネット書店に配本を寄せるという判断をしないといけない場面もあります。プランナーとして、こうして時代とともに売り方を考えていく必要があるのでしょうね……。
人が書籍を購入するとき、「目的買い」と「衝動買い」の2パターンの買い方があると私は思っているのですが、ネット書店での書籍購入は「目的買い」がメインでしょう。お客さまは「この本が欲しい」と思って買ってくださる。ネット書店でも書籍の内容を一部試し読みできるようにはしていますが、一度に見せられるページ数は限られてしまいます。
一方でリアル書店では比較的「衝動買い」が起こりやすいと思っています。視覚的な情報が多く、複数の書籍情報を一度に掲出することができる。衝動買いを促進できるという利点がありますね。
ネット書店での売上比率が高い書籍もありますし、どこでどの本がどのくらい売れるかは、より慎重に検討するようになりました。

―――梅田さんは書店でのフェアの企画も担当されていると聞きました。

はい。新学期シーズン、社会のトレンド、大きなイベント前など、読者の熱が上がりやすいタイミングに合わせてフェアを企画しています。
たとえばイラストの技法関連の書籍なら、コミケの前や新学期の前、年末年始など「何かを始めたい」と思う読者の気持ちを後押しするようなタイミングにフェアをプランします。対象とする書籍の点数を決め、売上金額の目標を立て、そこに対してどういうアクションを起こしていくのか設計します。どの書店さんからも受注をこれだけ取らないと目標の売上金額には届かないよね、と逆算していきます。
そのあと営業部に「今回は500万円を目標にしましょう。どこの書店に声をかけて、注文を取るか考えてもらえますか」と声をかけ、書店に営業してもらいます。フェアは、発注してもらった分の50%が売れれば合格点。期間中にその目標が達成できなかったとしても、書店さんに確保してもらった棚はずっと残っていくので、だいたい3か月スパンで見てフェアの対象書籍が50%売れれば成功と考えています。

―――梅田さんには経験から「売れる本」が見えているわけですから、営業ではなく編集者としても活躍できそうな気がしますが、編集者になりたいと思ったことはないのですか?

編集者になりたいとは正直あまり思っていません。自分で本を作ってみたいという欲求がないのかもしれませんね。それよりも「本を売りたい」気持ちのほうが強いです。仮に私が編集部に行ったとしても、数字を振りかざして営業に細かく提案してくる編集者なんて、営業もやりづらいだろうなと思ったりしますしね(笑)。

―――そうなんですね(笑)。こうしてお話を伺ってきて、梅田さんのやられているマーケティングプランニングは、まさにインプレスの成長を左右するお仕事だなと感じました。今後はどんな役割を果たしていきたいと思われていますか?

マーケティング部門におけるプランナーという仕事は、書籍の原価や出荷、売り上げにも関わるポジションです。今いる部署で、新刊の初版部数だけでなく重版も含めてハンドリングし、企画が世に出るまでのプロデュース業務を究めていきたいですね。とにかく売れる本はさらに売り伸ばしていきたい。
インプレスはIT系の版元としてスタートしているので、PC書や理工書に関しては他社には負けたくないです。また、最近は手掛けているジャンルもだんだん広がっているので、自分が経験していないジャンルの書籍も知識をつけて、より多くインプレスの出版物を売っていきたいですね。

―――お話を伺ってきて、梅田さんは感情を表に出さない冷静沈着な策士という感じがしました。編集部からも絶大な信頼を寄せられているという話も耳にしています。インプレスの出版事業拡大の裏に梅田さんあり、ですね! 本日はありがとうございました。

インプレス出版人図鑑】は、書籍づくりを裏方として支える社員の声を通じて、インプレスの書籍づくりのへ思いや社内の雰囲気などをお伝えするnoteマガジンです。(インタビュー・文:小澤彩)
※記事は取材時(2022年8月)の情報に基づきます。

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