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『かくあげ先生の 発達障害・グレーゾーン 子育て 新ベストテクニック54』(まえがき公開)

『かくあげ先生の 発達障害・グレーゾーン 子育て 新ベストテクニック54』の著者である撹上雅彦さん・理恵さんご夫妻は、発達障害児のためのデイサービスを運営する発達障害児教育の専門家です。また、重度に近い広汎性発達障害と診断された息子さんを持つ親御さんでもあります。「特徴ある子」の専門家であり親でもあるご夫婦が実践してきた子育てテクニックを一冊にまとめたのが本書です。ここでは発売に先駆けて、その「はじめに」を公開します。

はじめに ― 母親の立場から

抱っこをしなければぐずるし、何も興味を示さない。子どもが喜びそうなごはんをつくっても全然食べてくれない。ママ友と子どもを連れてランチ会に行っても全然食べてくれず、誰とも話をせず、ただボーッとしているだけ……。夫は日中、仕事に出ていて、息子と一緒にいる時間は私のほうが長く、「子育てはこんなにも大変なの?」と何度も思っていました。

ある日、「もしママが死んじゃったら、どうする?」と幼稚園児の息子に尋ねたら、「隣のおばちゃんにごはんをつくってもらう」と返され、さすがに悲しくなりました。テレビで悲しい場面が流れても、息子はケラケラ笑っています。この様子を見て「これはおかしい!」と思い、自分の親に相談しても「大丈夫。気にしすぎよ」と言われ、誰に頼ればよいものか……と孤独に陥りました。

その後、小学校低学年で「重度に近い中度の発達障害」と息子が診断され、私たち夫婦は大きなショックを受けました。しかし同時に、「私たちの育てかたの問題ではない。自分が悪いのではない」とわかり、正直ホッとしました。息子の発達障害の判明後、夫は息子のために『放課後等デイサービス』を立ち上げ、私が代表者となり一緒に活動を始めました。それからは、私だけでなく、夫やスタッフと一緒に子育てする感覚もあり、精神的にもかなり楽になりました。

そして息子が小学4年生の頃、みぞぐちクリニック医院長の溝口徹先生の著書『子どもの「困った」は、食事でよくなる』(青春出版社刊)に出合いました。
それまでの息子の食事は、朝はパンケーキやパン、フライドポテト、フルーツジュースで、おやつはスナック菓子やアイスクリームなどでした。また、当時の息子は、お米よりも麺類が好きで、主食にはラーメンやうどんを与えていました。栄養の偏りは気になりましたが、私も好きで与えたわけではありません。栄養のありそうなメニューを一生懸命につくっても、息子は好き嫌いが激しく、全然食べてくれなかったのです。私はそれまでの子育ての疲れから3度の食事の支度も面倒になり、食べられるものを与えて食べてくれれば、「とりあえず食事をしてくれた」と安堵するような状況でした。

しかし、溝口先生の著書を読み、私たちの体は食べたものでできている、という言葉にハッとさせられました。食べたものが消化分解され、私たちの体の細胞一つ一つをつくっているわけですから、当然、体にとって食べるものは大事だと思うのです。栄養が偏れば、体が不調になるのは当然です。さらに、発達障害の子は、大量の糖質と小麦製品や悪い油、乳製品などの影響を受けることもわかりました。
本書でも、これらが子どもにどのように影響するかをご紹介しますが、息子は、発達障害に悪影響のある糖質(グミやアイスクリーム)、小麦製品(パンや麺類)、油(フライドポテトやスナック菓子)などを好んで口にしていました。

溝口先生の著書には思い当たる内容が多くあり、「薬を使わずに、困った行動をどうにかできるなら」という思いで私は夫と溝口先生の病院を訪れました。採血して息子に不足している栄養素を調べてもらうと、重度の鉄分不足で、ビタミンB群も不足し、低血糖症だとわかったのです。
そして、食事から発達障害を改善するオーソモレキュラー療法(薬に頼らず、不足しがちな栄養素をサプリメントで補いながら食事で改善をめざす療法)を開始しました。
それからは、病院でサプリメントを処方してもらいながら、私は食事の栄養面から、夫は学習特性やコミュニケーションなどの環境面から改善を図り、息子には大きな変化が表れました。こうした私たちの実体験が、現在のデイサービスの活動でも活かされています。

本書では、私は主に食事の課題について執筆しています。食事を変えて息子は大きく変わりました。食べものは、多くのお母さんにとって大きな関心事になると思いますので、本書が少しでもみなさんのお役に立つことを願っています。

撹上理恵

はじめに ― 父親の立場から

息子が小学校1年生の冬、私たちは夫婦で授業参観に参加しました。すると授業中に机の下に潜り込んでいる息子がいたのです。この姿を見て、「この子は普通の子とは絶対に違う! もう先生にだまされないぞ!」と私たちは思ったのです。

幼稚園の頃から、私たちの息子は普通の子ではありませんでした。1人で靴を履けず、極度の偏食。工作は下手、友達とは遊ばず、集団活動も苦手など、私たちは多くの違和感を覚えていました。そこで、幼稚園や小学校の先生に「息子は、ほかの子とは違いませんか?」と尋ねても、「大丈夫ですよ。早生まれなので、しかたがありません。この時期の1歳は大きいですから」と言われ続けていました。
息子は発語もあり、1対1なら指示もわかるので、3歳児健診を受けても入学時健診を受けても特に問題になりませんでした。しかしその後、専門的な検査を受け、それまでに私たちが感じ続けていた違和感は正しかったと証明されました。

ここで私自身についてご紹介します。
私は、群馬大学教育学部の障害児教育専攻(現・教育人間科学系特別支援教育専攻科)卒で、本来は、特別支援学校の先生になっていたはずでした。ところが、実は私自身がADHD(注意欠如・多動症)の傾向を持っており、先生になるどころか、普通の人よりもものすごく生きづらい人生を送っていました。
私にはADHDの傾向がありますが、日常生活を送ることができるレベルのため、医師からはあえて診断を下さなくてもよいと言われています。しかし、「整理整頓ができない」「約束を忘れる」「人とうまく関われない」「思いつきで行動するので仕事を長く続けられない」「金銭管理ができない」などの問題があり、不便なことは多々あります。
そのような私でしたが、息子の特性と向き合って理解し、改善への実践を通じて、私自身も大きくプラスに変わることができたのです。

息子の発達障害がきっかけとなり、私たちは現在、発達障害に特化した児童発達支援事業、放課後等デイサービス、個別指導塾を運営しています。令和3年末時点で、グループ全体で約500人の子どもたちが事業所や塾で学び、私は各担当者の指導や支援に入り、発達障害児やグレーゾーンの子の保護者のみなさんやスタッフからの相談を受けています。また、発達障害に関する多くの研修会にも参加し、常に実践的な研究を続けています。

私自身に発達障害の傾向があり、また、発達障害児の親でもあり、さらに発達障害の子どもたちの支援者です。このようなさまざまな立場を踏また上で、私が実感していることがあります。それは、特性ある子の子育てには、「愛情よりもテクニックが必要」ということです。
そこで本書では、発達障害児の考えかたや言動がどのようなものかを私自身の傾向や経験も交えて紹介します。そして子どもの特性に対処するための実践的なテクニックを、みなさんと共有できればと思います。

本書の冒頭では、特性ある子を育てるために一番大切な考えかたを紹介していますので、必ずお読みください。また、特性ある子を持つ親にとっては、毎日の細かな生活態度や宿題など、目の前の問題がとても気になるものです。もし、そうした問題がある場合は、第1章以降は気になる見出しからお読みいただいてもかまいません。
紙面の都合もあり、詳しくご紹介できない課題も多々ありますが、本書が少しでも子育てのストレスを減らし、みなさんの子育てのヒントになることを心から願っています。

撹上雅彦

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