27年変わらないカバーがイメチェンに成功!?編集長とデザイナーが振り返る「できる」シリーズリニューアルの裏側
昨今の読者層の変化を考え、カバーを一新
藤原編集長(以下、藤原):今回は「できる」シリーズのカバーのリニューアルについて、加藤さんと振り返っていきたいと思います。最初から脱線してしまうんですが、加藤さんは私が編集長になるずっと前から「できる」シリーズのカバーを担当してくださっていますよね。いつからになりますか。
加藤裕喜さん(以下、加藤):2009年の『できるWindows 7』からずっとカバーを担当させていただいています。当時の編集長から求められたのは、とにかく書店で一瞬でWindows 7の本だとわかるインパクトがあるカバーにすること。Windowsのテーマカラーである青を使ったグラデーションを背景にして「コンピューターの書籍らしさ」を表現しました。当時取り入れた青のグラデーションを使ったデザインは、その後「できる」シリーズから発売したWindows解説書でも踏襲することで、シリーズでの統一感を作っていきました。
また、『できるWindows 8』や『できるWindows 10』では、Windowsのスタートメニューのタイルの雰囲気をデザインに取り込んでみたりもしましたね。Windowsが大きくアップデートされるごとに書籍が発売されるので、そのときのソフトウェアのインターフェイスからイメージを膨らませて、毎回カバーデザインも更新を重ね、「できる」シリーズはこんな本、という王道感を作り上げられたと思います。
藤原:私は2018年にできる編集部の編集長になってからのお付き合いですが、加藤さんはずっと憧れの存在でしたよ。ぜひ一緒にお仕事をしたいと思っていました。加藤さんといえば「できる」シリーズのイメージを作った人、という印象がありましたから。
そんな中で、今回突然リニューアルのお願いをさせていただきました。これは編集部の反省点でもあるんですが、「できる」シリーズが刊行されてから27年の間に、読者層の変化に対応しきれていなかったと思います。
昔、「できる」シリーズは50代~70代の比較的年齢が高い方たちに支えられていたところがあったんです。仕事というより趣味でパソコンを使い、カメラで撮った写真をプリントアウトしてスケジュール帳を作るような用途で「できる」シリーズを買ってくださっていました。
ところが購入者層のデータを調べてみると、今は仕事で誰もがパソコンを使う時代になり、20代、30代、40代の方の割合も多く、老若男女問わず購入されている解説本になっていたんです。購買層が変わっているならカバーデザインも変えるべきだろう。今回はそう思って大幅なリニューアルを打診させていただきました。
加藤:リニューアルの話を聞いたときはビックリしました。でもデータを拝見して、この購買層だと確かにデザインは変えたほうがいいなと感じたのも事実です。従来のデザインを年々更新しながらも、「できる」シリーズの昔ながらの雰囲気はなかなか変えられないなと少し前から感じていたんです。今回リニューアルのお話をいただき、既存のユーザーだけでなく新しいユーザーの心もつかみ、書店でも目を引くカバーにしたいと思い、デザインを考え始めました。
「不易流行」を軸に、余白を生かしたデザインに
藤原:書店でビジネス書や文芸書など、いろいろな本を見ても白を基調とした余白のあるシンプルなカバーが増えてきて、しかも売れています。そんな観点で「できる」シリーズを見直してみると、「できる」のロゴとか書籍タイトルの部分とか、編集部が言いたいことを声を大にして言いすぎている気がしました。
「できる」シリーズと大きく打ち出していれば売れると思っていたのは我々の思い込みだったかもしれないと感じたんです。なので、これまで詰め込み過ぎていた文字の要素を減らし、白を基調としたシンプルなデザインにしていただきたいことを、最初にオーダーさせていただきましたよね。
加藤:そうですね。ただ、こういう白地がベースのデザインは世の中にあふれてきている現状もあります。白を基調したデザインに、今までの「できる」シリーズの独特の世界観をどう生かすかが一番悩んだポイントでした。
デザインは凝りたいですが、凝りすぎると上級者向けの本に見えてしまい、初心者のユーザーが選びづらくなってしまいます。なんとなく新しさ感じさせながらも、初心者が手に取りやすい本にしたかったんです。Windowsのテーマカラーの青を全体に使わず、これまで「できる」シリーズから発売したWindowsの解説書とは異なる印象にし、ちょっとにぎやかなデザインにして書店で目につきやすくしようと考えていきました。
今回のカバーをデザインするうえで軸にしたキーワードは「不易流行」です。これは松尾芭蕉の俳諧の理念。「できる」シリーズは今まで積み重ねてきたゆるぎない歴史がある一方で、ソフトウェアのアップデートや読者のニーズに合わせて書籍を更新していきます。
「不易(いつまでも変わらない本質)」と「流行(時代の移り変わりに合わせての変化)」、これこそが「できる」シリーズが追求し続けている姿なのではないかと思ったんです。
「できる」シリーズは入門書の元祖。奇をてらったことはせず、常に王道感を持たせる必要があります。これまでの「できる」シリーズらしさを出す部分と、新しさを出すために変える部分、そのさじ加減をデザインしながら見つけていきました。
藤原:リニューアルの提案資料に書いてくださっていた「不易流行」の言葉は、私を含めた編集部の心にグサリと刺さりました。「変えてはいけない部分」と「変えていかなければならない部分」、それぞれの要素は何なのか、何度も加藤さんとやり取りさせていただきましたね。
書籍を訴求するために、カバーにどの文言を必ず入れるべきか、社内でもいろいろな意見があり、無茶なリクエストをしてしまったと思います。書籍の特長を表したキャッチコピーや、「YouTube動画解説」や「電話・メールサポート」といった「できる」シリーズの特長を表した要素も、結果的に多くなってしまいましたし……(笑)
加藤:編集部の方はやっぱり書籍に対する思い入れが強いので、盛り込みたい情報量が多くなります(笑)。僕としてはできるだけ要素は減らしたい気持ちがありつつも、求められたたくさんの要素をどうすっきり見せるかがチャレンジでした。
こつじゆい氏のイラストや特色印刷がポイントに
藤原:出来上がったカバーを拝見して、「変わったな……!」と感じましたが、「Windows 11」の文字を中央ぞろえにしていただいたところに、大きく変わりながらも従来の「できる」シリーズらしさが出ていて、どこか懐かしさを感じました。また、手書き風のフォントで余白を生かしつつ、文字のメリハリも付けてただいています。そして今回、イラストも特徴的に入れていただいていますよね。
加藤:リニューアルのお話のときに、今までのオペレーターの女性の写真が今ひとつ評判がよくないことを聞き、どうすべきか考えたんです。電話やメールで初心者を手厚くサポートしているのは、他社にはない特徴ですし、差別化すべき点ではあります。考えながら書店でリサーチをしていたときに思いついたのが、写真ではなくイラストを使うこと。かわいらしすぎず、男性でも女性でもすっと入ってくるようなイラストがいいなと思っていたところ、イラストレーターのこつじゆいさんの絵が目に留まり、「まさにこれだ!」と思いました。
これまでは電話を受ける側のオペレーターの写真を採用していましたが、今回は「電話をする自分」「動画を見る自分」、つまり自分ごととして感じられるように、ユーザーの立場に立ったイラストにしました。
藤原:白を基調にした場合、文字だけで構成されたデザインになるとちょっと寂しい印象になると感じていましたが、こつじゆいさんの素敵なイラストで、思わず手に取りたくなる優しい雰囲気がプラスされました。
またこのイラストで、「できる」シリーズの電話・メールサポートという大事なサービスをうまく表現していただけたな、と思っています。Windows 11の「11」という数字に特色を選ばれたのも加藤さんのこだわりでしたよね。
加藤:特色インクは濁りがないので発色もよく、書店の棚でとても目立ちます。なのでせっかくなら特色を効果的に使おうと思ったんです。
カバーリニューアル後の書籍は売れ行きも好調
藤原:リニューアルされたカバーデザイン1号の『できる Windows11』ですが、おかげさまでとてもよく売れています。前書である『できるWindows 10 2021年 改訂6版』より売上の初速が2倍、書店さんによっては3倍あると聞いていますし、デザインにこだわりのある人からの評判もとてもいいです!
加藤:インプレスさんにこのデザインを受け入れてもらえるのかドキドキしていました。でも、「すごくいいです」と言われて、ホッとしましたよ。ここからまた別のシリーズ、そしてバージョンアップにしたがってまた更新を加えていくことになると思いますが、このデザインがどんな感じに育っていくかなと想像すると、今後の展開が楽しみになっています!
藤原:「できる」シリーズは、ソフトウェアの使い方がわからなくて困っているから手に取っていただく書籍のはず。だから、困っている人の背中を押してあげられるような入門書であり続けたいんです。今回のデザインのリニューアルが後押しとなって、1人でも多くの人に選ばれる本づくりをしていきたいなと改めて思いました。加藤さん、今日はありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします!
(文:小澤彩)