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『見やすい資料のデザイン図鑑』を書いてみて

12万部を突破した『一生使える 見やすい資料のデザイン入門』に続く『シーンごとにマネして作るだけ! 見やすい資料のデザイン図鑑』が12月9日についに発売! 発売を記念して、書籍製作の裏側をテーマに著者の森重湧太さんにnoteを執筆いただきました。今回、書籍の執筆は2回目となる森重さん。本に込めた想いや、制作の苦労話などを語ってくれています。

シーンごとにマネして作るだけ! 見やすい資料のデザイン図鑑』(以下、『見やすい資料のデザイン図鑑』)の著者の森重湧太です。

SlideShareの『見やすいプレゼン資料の作り方』で私をご存知の方もいらっしゃるかと思います。普段はデザイナーとして会社員をしていて、資料デザイン以外にも会社デザインやデザイン起点の部署横断の取り組みを仕事としています。

資料デザイン歴は10年以上で、個人で資料デザインを請け負ったり、事業として200社以上の案件を経験したりしています。ときどき、企業・学校・県庁の企画で講演も行っています。

さて、今作の『見やすい資料のデザイン図鑑』についてのお話ですが、前作の『一生使える見やすい資料のデザイン入門』の続編にあたる内容として、製作がスタートしました。

  • どういう狙い&想いで書いていたか

  • 書いていて大変だったこと

  • 本当はこうしたかったと思ったこと

今回はこの3点を著者目線でnoteにまとめましたので、書籍と合わせて読んでいただけると嬉しいです。

どういう狙い&想いで書いていたか

私も資料デザインに興味を持ち始めたころ、いくつか関連書籍を読んだことがありました。10年以上も前ですが、その頃の資料デザイン本の種類としては2種類に大別できて「コンサルタント視点の理論系」「デザイナー視点のビジュアル系」のどちらかでした。

「コンサルタント視点の理論系」は正直なところ難しすぎて参考になりませんでした。情報をロジカルに組み立てることを重視するため、地頭の良さを求められますし、見るだけ・読むだけでは実践しづらい内容だと思っていました。
また、デザイナーが作成しているわけではないので、ビジュアル面ではあまり参考になりませんでした。

それを「デザイナー視点のビジュアル系」で補おうとしましたが、本に書いてあるデザインを自分の手で再現するのが難しいと思いました。
私はもともとはデザイナーではなかったので、「これを素人が再現するの難しくないか?」と思いながら頑張って何時間もかけてトレースしたこともありました。
芸術要素も強いため、どうしてこのデザインがいいのかという理由も、感覚的なものが多めだったので理解が難しかったのも覚えています。

そして自分が本を書く立場になったとき、これらのことを思い出し、以下のような狙いを持ちながら作ることを心がけていました。

  • 頭のよさやセンスのよさに左右されない再現性の高いコンテンツにする

  • 素人でもマネしやすいビジュアルデザインにする

  • 説明を感覚的なものにせず、なるべく認知や情報整理の観点で解説する

  • 「読むとき」「作るとき」に時間のかからない本にする

また、デザインの悪い部分といい部分をセットで理解できるよう、前作では左右見開きでBefore/Afterになるレイアウトを提案したのですが、それが分かりやすいと好評だったので、今作にも採用しました。

前作『一生使える見やすい資料のデザイン入門』の紙面
今作『見やすい資料のデザイン図鑑』の紙面

ここまでは前作・今作に共通する部分ですが、今作に限った狙いや想いもあります。今作は「実用例として徹底的にデザインをマネしてもらうこと」が狙いです。

資料作成するときにネットで自分の作りたい資料と似たものを検索したり、先輩の過去の資料をあさったりしませんでしたか?

やってみるとわかりますが、実例を探す時間が面倒な上に、マネするのにちょうどいいクオリティのものがなかったり、マネしすぎたら「権利的に大丈夫かな?」、という心理も働いたり、なにかと不便に思うことがあります。

前作は教科書的な内容でしたので、もちろんマネはできる部分はあるといえばあるのですが、会社や商談で実際に使われている資料の例はほとんどありません。

そういった背景から、実際に自分が作った資料をベースに作例を用意しました。読者の方に「私がマネしたいデザインはこれ!」と1冊の本からすぐに見つけてもらえるようにしたかったからです。

会社説明資料、研修資料、営業資料、社内イベント資料…など、あらゆるシーンで作る資料から「これはマネしてほしい」というものを選別し、解説しています。またグラフや表といったデータの魅せ方も前作より多めに取り込んでいます。

本作に掲載されている作例の一部

とにかくマネして、マネして、マネしまくっていた昔の自分にも、「この本に書いてあるデザイン、全部パクっていいよ」と渡せるように作ったつもりです。

もし購入いただいた際には、「パクったのバレたら著者に怒られそう」といった心配や、「パクるなんてプライドが許さない」といった考えは捨てて、思い切りマネしていただけたら本望です。

書いていて大変だったこと

私はただの会社員ですので、通常の業務があるなかで本を書いていました。
「仕事が終わっても、また仕事がある」という時間的にも精神的にも追い詰められている状態でした。

なので、一言でいうならば「すべての作業が大変だった」という言葉に尽きるのですが、それだとあまりに雑ですので、心理状態と作業状況の2つの観点でお伝えします。

1. 心理的に大変だったこと
まず、心理状態でいうと「とにかくモチベーションを保つのが大変」でした。

本は起業に似ていて、「本を書く」ということは素晴らしいことですが、「本を書いている最中は1円も対価が得られない」というのが現実です。また「売れなかったら努力が水の泡」になる可能性も……。

ただ、起業と大きく違うのは「編集者の方がフォローしてくださる」ことです。

私の担当編集の方は和田さんという女性の方で、前作のときもお世話になっていたのですが、思い返すと何度も私のことを心配してくれたり、励ましてくれたり、かなり精神的なサポートをしてくださっていました。

それで書籍制作をなんとか前に進められたのだと思って、とても感謝しています。

2.作業状況として大変だったこと
デザインを解説する本なので「ビジュアル面」と「文章面」の両面で作っていくのが大変です。
図と文章の整合性を取る回数もかなり多いですし、ビジュアルを解説するとなると文章もあいまいになりがちです。なるべく具体的で理由が明確になるように言葉を選ぶのも大変でした。

大変すぎて途中からインタビュー形式で録画をとって、編集チームの方にまとめてもらうといった方法をとったのですが、そこからスピードがあがったのでとても助かりました。

ZOOMで実施したインタビュー形式の執筆&制作活動

このインタビュアーも和田さんがしてくださったので、本当に頭が上がりません。

他に作業的に大変だったこととしては、「悪い作例をあえて作ること」でした。私自身が初心者になりきって作業する必要があるので、かなり想像力を働かせる必要がありますし、悪い実例なんてなかなか見つけようと思って見つけられるものではないので、自分だけでなく和田さんに部署や社内での身近な資料から探してきてもらうこともありました。

「本当はこうしたかった」という部分があるとしたら

私が著者だとはいえ、本は出版社との共同制作物であるので、営業・マーケティング目線での意見や、編集者目線での意見など、自分では決められない部分もいくつかありました。

本の中身についてはほとんど私の意向・伝えたいことが反映されているので、コンテンツとしては本当にいいものができたと思っています。

ただ本の中身以外の部分のエディトリアルデザイン(表紙カバーやレイアウトなどの本自体のデザイン)があるのですが、ここは私ではなく専門の方にデザインしていただいています。

私もデザイナーですが、エディトリアルデザインは専門でやったことはないので、本のデザインのことはわからないことも多いのですが、「違う人の作ったデザインの中に自分のデザインがある状態」がちょっとむず痒い部分もありました。

例えば、「資料デザインの解説内容に合わせて、エディトリアルのほうでも内容に合わせたデザインに」などの意見を伝えたこともありましたが、書店での見え方や本としての読みやすさなどの観点から、想いが叶わなかった部分も実はあります。

エディトリアルデザイナーの方とは面識がないので、意見を直接交わすことだけでなく、挨拶やお礼もできていません。ですので、「本当はこうしたかった」ことは、「どこかでエディトリアルデザイナーさんとも直接お話できたらよかった」ということかもしれません。

まとめ|どんな人に読んでほしいか

この本を読む人は資料を作るひとなので、デザイナーでない可能性が高いと思っています。一般人がデザイナーにジョブチェンジするとき、デザイナーの先輩からは必ずといっていいほど「トレース」をして練習しろと言われます。要するに「いいデザインのマネをしろ」という修行です。

そこで今作はそれにならって、徹底的にマネしてもらうために作りました。

「困ったときに本を開いて、いいと思ったデザインをマネする」という一連の行為を、資料を作るたびに繰り返してほしいのです。
その繰り返しをしていくと、いつか「いいデザインを自分の引き出しだけで作り出せる力がつく」と思います。

ですので、私としては「デザイナーではないけど資料のクオリティをあげたいと思っている人」に一番読んでいただきたいと思っています。

デザイナーの方や、デザインに詳しい方にももちろん読んでほしいのですが、少し物足りなさを感じるかもしれません。ただ、認知の観点での解説は他の本よりは多いと思いますし、作例にもバリエーションがあるので、参考になる部分があるかもしれません。

もし、「まだ買う気にはなってないけど気になった」「参考にはなりそう」と少しでも思っていただけたら、欲しい物リストにだけでも入れておいていただけるととても嬉しいです。

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執筆者:森重 湧太
東京農工大学大学院(情報工学専攻)在学中に「研究発表プレゼンがわかりにくい」と感じたことから、教育工学や認知科学で学んだ知識を活かしながら資料作成ノウハウをまとめる。研究メンバーだけでなくWebにも共有したところ、1ヶ月で閲覧数30万回を突破。これをきっかけに資料デザイン本である『一生使える見やすい資料のデザイン入門』(インプレス)を発刊し、12万部を突破(2021年10月現在)。高校・大学の授業から企業研修まで教科書としても使用されている。スタートアップの資料デザイン代行事業で200社以上のデザインを手掛けた他、大学や県庁での研修講師の実績もある。

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