【編集者の書棚から】#本好きの人と繋がりたい Vol.13
出版社は本好きの集まり。この「編集者の書棚から」マガジンでは、毎回数人の社員が、いち読者として最近手に取った書籍を紹介していきます。「書棚を見ればその人がわかる」とよく言われるとおり、インプレス社員の人となりが垣間見えるかも(?)なマガジンです。今回ご紹介するのは、『その幸運は偶然ではないんです!』と『赤と青のガウン オックスフォード留学記』の2冊です。
なんだかいつも迷っている、という人へ
私からご紹介するのは『その幸運は偶然ではないんです!』というキャリア選択の本です。本の実物にはオビが巻かれていて、こう書いてあります。
「もうキャリアプランはいらない」
ん? ボク達はいつも、将来こんな仕事をしたいという夢、キャリアプランを描いて、それを目指してがんばってきましたよね。なのに、こう断言されると、軽くめまいがします……。
いや……ちょっと待ってください。将来あんな職業につきたいなというキミの夢って、本気でしたか。そのために、何か努力ってガチにやっていましたか。その夢は、いま実現している(しつつある)でしょうか。私は、すべてNo。普通の人って、本当はこんな感じじゃないでしょうか。
私の場合、今の仕事はなんとなく流れがあって乗っかったら始めていました、という感じ。それでもう何十年も続けていますが、振り返ってもこれでよかったと思いますし、どちらかというと幸せなほうです。やっぱり、キャリアプランはいらなかったってこと?
本書は、こんな感じ(だいぶ違いますが)の45人の事例を紹介しつつ、自分に合う職業ってけっこう偶然に決まるよね、と解き明かしていきます。
いや……ちょっと待ってください。「その幸運は偶然ではないんです」っていう書名ですよね。偶然じゃないよって内容ではないんですか。
はい、ちょっと違います。偶然の転機を活かせるように、心の準備をしておこう、ということです。オープンマインドでいること。自分の夢に束縛されないこと。環境は変化し続けているから、将来を決めなくていい、ということ、などなど。でも安心してください。各章の終わりの練習問題に取り組めば大丈夫。
著者のクランボルツさんはキャリア論の専門家で、共著者のレヴィンさんと一緒に唱えた「プランドハップンスタンス理論」が有名。「キャリアの8割は偶然性によって決まる」というもの。こういう考え方もあるのかと思うと、蒸し暑い夏も少し涼しく過ごせそうですよね。この理論のポイントは、訳者あとがきに少し書いてありますので、ぜひ最後までお楽しみください。(編集部・玉巻秀雄)
女王様(本物)のほっこり英国奮闘記
新型コロナウイルスが猛威を振るっていた数年前。私は御茶ノ水駅を背に会社に向かっていた。秋らしい小雨がそぼ降り、早くも日が暮れようとしていた。海外からの要人でも来たのか、交差点ごとに警官が立っている。ほかに行き来する人もない。
ふと気づくと、大きな黒塗りの車が数台、坂をゆっくりと下ってくる。おや、と思って見ていると、その内の1台の窓が静かに開き、中の御婦人が美しい所作で手を振った。
上皇后美智子様、だった。
驚いた。おそらくは順天堂で診察を受けられた帰りなのだろう。私を含め数人のために、お疲れのところ窓を開け、ご挨拶をしてくださったのだ。ありがたい、という言葉の本来の意味を知った気がした。
以来、私はすっかり皇室ファン……というわけではないが、宮家の方々のニュースを耳にすると、なんとなく心が温まるようになった。そんななか出会ったのが、この本である。
著者は彬子(あきこ)女王。「ヒゲの殿下」こと故寬仁(ともひと)親王の長女で、今上天皇の再従妹(はとこ)に当たる方である。彬子女王は学習院大学在学中にオックスフォードに留学し、その後オックスフォードの博士課程を修了された。
と書くと「さすが皇室の方は学究肌ですなあ」と思ってしまいがちだが、この彬子女王、実は英語が大嫌い。留学前に付け焼き刃で勉強したものの、現地では会話に全くついていけない。しかも留学中は護衛や同伴者なし。加えて、一人で街を歩いたこともない由緒正しい箱入り娘である。
え、どうするの? なすすべもなく「ぼっち」になってしまう彬子女王。だが先輩やクラスメイトに助けられ、どうにかこうにかオックスフォードに馴染み始める。クセが強めの教授陣や、不慣れな一人暮らし、時間通りにこない電車、噂通りのイギリス料理などなど、ハプニング続出の毎日。
彬子女王には失礼(不敬?)ながら、この悪戦苦闘っぷりが面白く、また生き生きと語られる。元は雑誌連載だったためか、最後の「オチ」までの流れが素晴らしく、毎回思わず頬が緩む。400ページ足らずの文庫本なので、少しずつ大切に読みたいと思う。(編集部・荻上 徹)