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"無駄なくわかりやすく"を突き詰めたイラレの入門書『はじめてイラレ』

「この本の企画ってどうやってできたの?」「本のタイトルってどう決めているの?」。担当編集者が普段見せない本づくりの制作の裏側、こだわりを語るマガジンです。今回ご紹介するのは、10月22日発売の新刊『はじめてイラレ 初心者でもIllustratorが使えるようになる入門書』。多機能で、入門者には若干ハードルが高いイメージのIllustrator。どれだけ無駄をなくしてわかりやすくするか……。ネタ決めや解説文作りの大変さが伝わる制作エピソードを担当編集の宇枝に聞きました。

―――まずは簡単にこちらの本の内容を教えてください!

「Adobe Illustrator」初心者のための入門書です。「Adobe Illustrator(以降イラレ)」はイラレと略称されデザイナーが愛用するツールなのですが、色々なことができるツールだからこそ、覚えることが多く「挫折するツール」と言われることが多いです。
なので、イラレ初心者でも、挫折せずに読み切れ、基本がしっかり学べる入門書を今回制作しました。

―――イラレ本というと競合が多い印象です。企画を考えたきっかけも気になります!

著者のコロさんのこちらのXの投稿がきっかけです。

イラレに限らず、アプリケーション入門書はツールの機能を網羅した書籍が主流で、初心者にとって入門書を買うこと自体が学ぶハードルを上げていると、どこかで感じていました。
Adobeツールの入門書を手掛けている同僚から「最近、デザイナーだけでなく動画編集者、会社の広報さんなど、イラレのユーザー層は幅が広い」という話を聞いていて、振り返ってみるとプロツールであったイラレは、今はプロ以外も使うツールになっている気がします。

頭の片隅にそんな情報があるなかで、コロさんが「イラレは全部覚える必要ありません。3割使えれば十分」と投稿されていて。
イラレで覚えるべき3割の基本を紹介した入門書を、イラレ界の神様的な存在のコロさんと作れたら面白いなーと思い、書籍の相談メールを送りました。

ただ、コロさんとの打ち合わせのなかで、Xの投稿の「3割」という表現は、「プロとして充分」という意味で、もし「3割を学ぶ」を本のテーマにするなら、従来のイラレ本と大差ないという話を聞いて、「ガーン」とショックを受けました。やっぱり、イラレってハードル高いじゃん……。
でも、ショックを受けている私にコロさんが
 
「176ページくらいの薄いイラレ入門書を作りたい」
 
と逆に企画の提案書をもらったんです。
ただ、この企画の提案をもらった際に、私の頭の中に既存のイラレ本のイメージが住み着いていて、イラレの入門書は大体ページ数が200~300ページのものが多く、176ページとなると、かなり内容を削ることになるのではと思いました。
「入門書なのに、そこまで削るのか」とびっくりして、戸惑ってしまったのですが、すでにコロさんのなかで本書の章立てのプロトタイプも出来上がっていました。

初回の打ち合わせでコロさんが見せてくれた『はじめてイラレ』の章立てのプロトタイプ

なので、「既存の入門書はこうだから~」という固定概念を忘れて、冷静に考えてみたんです。
もし、私がこれからイラレを学ぶとなると、書籍の告知バナーとかちょっとしたデザインを作れるようになりたい。なので、分厚い本でしっかり勉強するのではなく、要点だけ押さえられた基本的な操作部分をまず学びたいなと。
そうなると、既存の入門書は色々な情報がありすぎて、逆に初心者は読まないページが多いなと思い、「あれ?これがやりたくて私はコロさんに連絡したのでは…」となり、具体的に企画化したいとコロさんに打合せ後に速攻でメールしました。
打合せはけっこう戸惑った感情が大きかったので、メールでの私の態度の変わりようにコロさんは戸惑ったでしょう(笑)

―――確かにイラレは初心者でも覚えることが多いというイメージがあります。176ページほどの薄い本というのは新鮮ですね!制作で大変だったことは何でしょうか?

「解説のネタと文章」、「カバーデザイン」の2つですね。

章立て自体は、コロさんが「自分が入門書を作るなら~」と前々から章立て案を作っていて、そのプロトタイプを元に今の章立てが完成しました。
ただ、その章立てを元にどの機能をどこまで紙面で解説していくか、というネタ決めでコロさんはかなり苦労されたと思います。
「パス」という一つの項目に対して、語ろうと思えば無限に語れるけど、今回の書籍ではそれはマイナスになります。かといって、削るということに重きを置きすぎると、読者がイラレでできることが減ります。コロさんは、どこまで学ぶのかという線引きを終盤まで考えていました。

またネタが決まった後は、解説文作りも苦労しました。やはり、コロさんが作る入門書だからこそ”コロさんらしさ”が入ってほしかったので、解説文を執筆いただく時に”コロ節”を入れてほしいと私からリクエストしました。
コロさんは普段からnoteやXで様々な投稿されているのですが、くすっと笑える例えを使ったり、サムネもコミカルだったりと面白い表現がたくさんなんです。

イラレに苦手意識のある方でもたのしく学べる入門書にしたかったので、難しい専門用語をコロさんらしい表現で嚙み砕いて説明してもらっています。

イラレの仕組みを「福笑い」に例えて解説

また本書は、作例や図解を大きく絵本っぽい紙面が特徴です。なので原稿執筆でもコロさんは、文章が苦手な人でも解説文がスッと読めるように、解説文は”無駄なくわかりやすく”を意識されていました。

本書の紙面。作例や図解が大きいのが特徴

ただ、イラレ初心者の私が読んで、解説が短すぎてわかりにくい部分があり、そういった部分は私が加筆指示を入れていったのですが、最後の方は

文章削りたいコロさんVS削りすぎだから加筆したい担当編集

という感じになっていました(笑)
ただ、VSといっても別にバトルしたわけでなく、私が

「ここ説明がわからず…、○○ってことでしょうか?」

と指摘を入れると、コロさんが私の指摘を元に、更にわかりやすい解説文に推敲してくれるのです。しかも大体文字数を元文から増やさず(笑)
これは普段からXやYouTubeなど、短い文章でわかりやすく大勢のユーザーに発信をしている、コロさんだからできることだな~と書籍制作後に感じたことです。

―――著者さんと「無駄なくわかりやすく」を突き詰めていったんですね。カバー制作も苦労されたとのこと。こちらもエピソードを教えてください。

イラレというたくさんの既刊書籍があるなかで、この本の特徴(売り)を知ってもらうために、どんなデザインにするかは、すご~~く悩みました…。イラレの本は毎年、色々な出版社から発売され、カバーデザインも様々。なので、既刊書籍のデザインや売れ行き、レビューを分析して、デザイナーにデザインを依頼する前に、私の方でデザインの方向性をまとめたんです。

資料の一部

タイトルはこの本の企画立案時にコロさんから「はじめてイラレ」という案をもらっていて、タイトルから入門書として敷居の低い=初心者が手に取りやすい本にしたいというイメージがありました。本書では、ナビゲート役にワンコが登場するのですが、このキャラクターを活かしたデザインにしたくて、「カバーを見て、思わずパケ買いしたくなるデザイン」というのが頭に思い浮かびました。

イラストレーターつまようじさんからもらったキャラクターラフの初回案。キャラ案も色々あった。

カバーは担当デザイナーである細山田デザイン事務所の奥山さんに、色々ご提案いただき、類書と並べたり、営業部の意見を聞いて、ワンコの顔のイラストをデザインに使った案で進めることになりました。

ワンコのイラストを大きく配置した左の案で決定

デザインの方向性が決まった後も、イラレっぽさだったり、初心者でも手に取りやすいデザインという部分で、奥山さんが何度も微調整してくださりイラレの入門書ということが伝わり、苦手意識がある人も手に取りやすいカバーが完成しました。画像だとわからないのですが、カバー周りの加工もUV厚盛加工にしたり、かなりこだわったので、ぜひ紙書籍を一度、手に取っていただけると嬉しいです。
(もちろん、電子版の購入も大歓迎です)

方向性が決まったあとも微調整を繰り返してカバーデザインが完成

帯のキャッチコピーは「まずはココだけで良いよ」とイラレを学ぶハードルを下げる切り口で考えました。また、原稿を読んでこの本の特徴は「イラレのわかりやすい最低減のトリセツであり、かつこれだけでもデザインやイラスト制作が色々できる」のが特徴だと思ったので、帯キャッチで伝わるように意識しました。細かい言い回しの表現はコロさんからアイデアもいただき、帯が完成しました!

『はじめてイラレ』の帯

―――「思わずパケ買い」したくなるデザインですね!質感の感じられるUV厚盛の加工も書店で目を引きそうです。最後に、この本が気になっているという方に向けてメッセージをお願いします!

本当に『はじめてイラレ』は、著者のコロさん、デザイナーの奥山さん、イラストレーターのつまようじさんにたくさんのアイデアをいただき、完成した1冊です。特に今回、「薄い入門書」というのもアピールポイントです。ただ、入門書において「薄い」というのは、内容量が少ないと捉えられるのでマイナスに受け取られないようにこだわりました。

この本を読んでいただければ、薄いからといって学べることが少ないわけでない、ということは理解いただけるのですが、その充実度が本を手に取って感じられるようにしていきました。

・カバーデザインはUV厚盛、マットPP加工
・本文に見返しを付ける
・章扉に描き下ろしイラストを掲載

など、書籍だからできるものづくりにこだわり、本書を手に取っただけで、上質な学びが得られるということを感じられるように、デザイナーの奥山さんと考えて作っています。
 
「イラレって難しそう」「イラレに挫折した」「初心者にはイラレは無理でしょ?」
 
悩めるイラレ初心者の方にぜひ手に取っていただきたい1冊です!
皆さんのイラレライフがたのしくなるきっかけになると嬉しいです。

―――イラレ初心者でも楽しみながら学べる1冊ですね!熱量の伝わってくるお話ありがとうございました。


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