【編集者の書棚から】#本好きの人と繋がりたい Vol.14
出版社は本好きの集まり。この「編集者の書棚から」では、毎回2~3人の社員が、いち読者として最近手に取った書籍を紹介していきます。「書棚を見ればその人がわかる」とよく言われるとおり、インプレス社員の人となりが垣間見えるかも(?)なマガジンです。今回ご紹介するのは、『義父母の介護』と『コレラの時代の愛』の2冊です。
思わずうなづく超リアルな介護奮戦記
以前、遠戚三人のキーパーソン(介護の現場での連絡係のようなもの)を担当していました。キーパーソンになった最初の頃、介護の現場には、仕事とは違う、自分ではコントロールできない世界が広がっていることを痛感したものです。
この本は、義両親の近所に住み、フリーランスの翻訳家、エッセイストとして仕事をし、未成年の双子の母でもある著者にふりかかってくる義父母の介護のバタバタを記したエッセイです。元シェフだった義父、茶道の師範だった義母のかつての姿と高齢化による変容にとまどいつつも、奮闘する様子が本人のリアルな本音とともに克明に綴られています。
周囲が準備し、調整したショートステイや通院の予定をさまざまな思惑からひっくり返す義父(その後進化)、(病気により)誤解をする義母に対して、「使命感」と「好奇心」をエンジンとして介護を続けながら、いつのまにか自分も過労で腎盂腎炎になってしまう状況に、皆が幸福になる介護とは何なのかを考えさせられます。
この本を読んだ時、自分が介護に関わった時のもやもやした感情をを思い出し、過去の記憶を言語化されたことへのスッキリ感を味わうことができました。状況が詰んだ時に登場する、魔法使いのように頼りになるケアマネの存在感も、わかりみが深いです。また、著者が持っている能力、『高齢者に寄ってくる悪い人を感知する「妖怪アンテナ」』は、誰もが持つ必要があるでしょう。
人が老化によってどう変わってしまうのか、本人も周りも予測するのは困難です。この本は、暗くなることが多い介護の場面が、ユーモアを交えて描写されており、介護を擬似体験できるので、お勧めです。(制作室・高橋結花)
好きな人と一緒になるために「51年」待てますか?
2024年6月、「ザ・名著」として名高いガルシア・マルケスの『百年の孤独』が文庫化され、大きな話題になっています。
それで、思い出したのですが、最近読んだ同じマルケス作品の中でも、『コレラの時代の愛』が、めちゃくちゃ面白かったので紹介します。
これは、「51年9ヶ月と4日」というトンデモナイ長い期間、元恋人が独身になることを待ち続けた老人男性が、彼女の夫の葬式の日に愛の申し出をするという、なんとも非常識な恋愛物語です。現代なら、「ストーカー」と呼ばれてしまうような危険な行為を老人が行うのですから、ちょっとぶっ飛んだ舞台設定ですよね。
舞台設定もさることながら、この小説は恋の渦中にある男女の心の動きや衝動的な行動が非常に具体的に、またあまりにリアルに描写されており、『百年の孤独』や『族長の秋』に見られるような、マルケスが得意とする魔術的文体「マジック・リアリズム」の色がかなり消えているのが特徴です。
言ってみれば、19世紀のリアリズム小説みたいな文体になっているので、まさに今、恋の渦中にある男女が読むと、リアルすぎて思わず笑ってしまうようなシーンもたくさんあります。「ガルシア・マルケス」と聞くと、小難しいイメージを持つ方もいるかもしれませんが、全然そんなことはありませんよ、エンタメ小説として呼んでもいいくらい面白いですよ、ということは伝えておきたいです。
ただし、最初の80ページくらいはストーリーの筋が見えにくいかもしれません。そこを越え、過去に戻ったときからのストーリーが抜群に面白いですので、ぜひ辛抱強く読み進めてみてください。映画化もされているので、最初に映画を見てから、手に取ってみるのもオススメです。(編集部・今村享嗣)