書籍編集者・本田拓也 スポーツ書籍や絵本に挑戦。新たな可能性を広げる編集者【インプレス出版人図鑑】
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書籍編集者・本田拓也 スポーツ書籍や絵本に挑戦。新たな可能性を広げる編集者【インプレス出版人図鑑】

インプレス出版事業部

プロ野球選手の夢を諦めて編集者に

―――編集者を志したきっかけを教えていただけますか?

編集者になりたいと思ったのは中学2年生の頃です。
小学1年生からずっと野球をやっていて、プロ野球選手になることが夢だったんですが、中学2年生のときにその夢を諦めました。当時、甲子園で活躍されていた「松坂世代」のすごさに圧倒されて「自分はこうはなれない」と思ってしまったんです。そして、その松坂世代が載っている野球雑誌をむさぼるように読んでいるうちに、プロ野球選手が無理なら、野球を報じる側として編集者になりたいと思うようになりました。
インプレスに入りたいと思ったのは、就職活動の際の会社説明会で、創業者で当時社長だった塚本慶一郎さんの話を聞いた時です。仕事の話を面白そうに語ってくれる塚本さんの言葉を聞いて、トップがこんな人なら仕事はきっと楽しいはずだと思ったんです。インプレスはIT関連の書籍が多く、野球の本を作れるとは思っていませんでしたが「これからの時代はITを知らないといけない」という思いと、「とにかく出版業界に入りたい」という一心でインプレスを受けました。

インプレスに入社してから最初の5年は編集部ではなく法人営業の部署に配属になり、受託案件の営業を主に担当していました。営業職との相性が良かったのか、売り上げも自然とついてきて、営業の醍醐味を感じることができましたね。その後、現在の編集部に異動になったんです。
営業部から編集部へは社内異動ですが、仕事内容がガラリと変わるので転職みたいな感じもありまして……。社歴は5年あるので新入社員ではないけれど、すぐに戦力になれるほど編集の仕事はできない。なかなかヒット作が生み出せず、はじめの2年間は何も貢献できなかったですね。

読者の知りたいことを拾って本にしていく

―――今はヒット書籍を連発されている本田さんに、そんな時期があったなんて意外です。仕事が好転するきっかけがあったのでしょうか。

担当した『48歳からのiPad入門』という書籍が重版になったのが大きかったです。シニア層がタブレットを購入するブームに合わせて作った本でしたが、結果的には4刷までいきました。シニア層の知りたいことや、難しいと思うポイントをわかりやすく紹介したいと思い制作した解説書でした。
営業と編集は感覚が全く違うんですよ。営業だとクライアントとの関係づくりは大変ですが、クライアントと信頼関係を結ぶことができれば「こういったものを作って欲しい」と先方が答えをくれます。
でも編集はそうはいかない。数千人、数万人の読者に直接「こういうものを作ってください」と言われることはないので、読者の求めているものに考えをめぐらせて作り出すしかありません。その時代の中で求められているものを拾い集めることが大事だという感覚を得たのがこの本でしたね。

『48歳からの~』シリーズとしてラインナップ展開もおこなっている

人の人生を深掘りする面白さがノンフィクションの真髄

―――この頃から、本田さんの作られる書籍に野球関連の本が増えていきますね。IT書籍の多いインプレスでは異色に見えますが、どんな経緯で出版に至ったのでしょうか。

前述の『48歳からのiPad入門』の他にもExcelの解説書など、インプレスらしい書籍も編集していました。ただ、心にしまい込んでいた「いつか野球の本を出したい」という思いが日に日に大きくなり、著者を探して構想を練り始めていたんです。そんなとき、会社が「既存ジャンル以外の新しい路線も開拓しよう」という雰囲気になったと感じたので、「野球本を出すチャンスかも!」と考えて、思い切って企画を提出しました。それが『101年目の高校野球「いまどき世代」の力を引き出す監督たち』です。
この書籍では、高校野球の監督たちが、いまどき世代の子どもたちをどう指導しているのかを取材しました。指導者や野球ファンに向けた内容ですが、「若い世代に向けた指導法」という切り口なら、ビジネスマンにも受け入れられるのではないかと思い制作しました。

『101年目の高校野球「いまどき世代」の力を引き出す監督たち』

―――この本の成功が、1年後の『幸運な男――伊藤智仁 悲運のエースの幸福な人生』の出版につながっていくんですね。

「次はプロ野球関連の書籍を作りたい」という思いから、ヤクルトスワローズの取材を多くされているライターの長谷川晶一さんに会いにいきました。そこで長谷川さんから「伊藤智仁さんの本を作りたい」というご提案をいただいたんです。伊藤智仁さんといえば、ドラフト1位でヤクルトに入団し、故・野村克也監督に「プロ野球史上最高の投手」と言われたほどの人。鮮烈デビューを果たした後はたび重なる故障に苦しみ、「悲運のエース」として語り継がれている伝説の選手です。
当時のインプレスはまだ野球関連の本を出し始めたばかりだったので、伊藤さんに企画を受けていただけるのか不安はよぎりましたが、「長谷川さんからの依頼ならお受けします」と快諾してくださったんです。そのとき、取材をされる側からしてみれば、どこの出版社から出すかは大きな問題ではなくて、誰にどんな取材をしてもらうかのほうが大事なんだと気づきました。そうしてできた本が『幸運な男――伊藤智仁 悲運のエースの幸福な人生』です。

伊藤さんを直接取材していると、「悲運のエース」というパブリックイメージが重ならない。とにかくご本人が明るいんです。「悲運」と言われるが、そのおかげで人に覚えてもらうこともできたし、むしろ「幸運」だったとおっしゃっていました。そして、引退後は昔を引きずることなく新たな人生を前向きに歩まれている素晴らしい方だったんです。
伊藤さんの本を担当したことで、私自身、1人の人生を深掘りする面白さにハマってしまいました。もともと人と話すのも好きですし、その人のことを知りたいじゃないですか。そんな気持ちで人に会いに行き、一緒に飲みに行って、さらにその人のファンになる……それが僕の企画づくり、本づくりの原点です。そこから何冊もノンフィクションを企画していきました。

『幸運な男』は『高速スライダー 幸運な男・伊藤智仁』としてマンガ化もされた

いい本を作るためのお膳立ては編集者にしかできない

―――本田さんの思い入れのある本は、ほかにどんなものがあるのでしょうか。

ひとつは2020年に担当した『松坂世代 それから』という本ですね。
「松坂世代に魅せられて、野球の本を作っています」といろいろなところで言っていたら、「松坂世代に熱い編集者がいる」と、この本の著者である矢崎良一さんに繋げてくださる方がいたんです。20年前に別の出版社から出されていた矢崎さんの名著『松坂世代』は、僕の生涯でトップクラスに好きな本でした。こういう本が作りたいと思って出版業界に入ったと伝えたら「じゃあ一緒に本を作ろう」と、とんとん拍子に企画がまとまり、『松坂世代』の続編として『松坂世代、それから』をインプレスから出版することになりました。

また、長谷川晶一さんの『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間』も思い入れがありますね。のべ50人もの関係者を長谷川さんに丁寧に取材していただき書籍にまとめましたが、6刷になるなど多くの方に手にとっていただいています。
この本は、関係者にインタビューをとりつけるのが大変でした。取材したいと依頼しても数人は首を縦に振ってくれなかったのですが、1度断られても2度、3度頭を下げてインタビューをお願いし続けました。私は割と図々しい性格なのか、断られるショックはそこまで引きずらないんです。むしろ断られたままのほうが凹むんですよ。あきらめが悪いというか……始めたことを途中でやめるのは嫌なんです(笑)。結果的に、オファーしたすべての方に取材を受けていただくことができました。「著者に本を書いてもらうお膳立てをする」ことは編集者にしかできない大事な仕事だと思うので、その仕事を全うしたい気持ちが強かったですね。

『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間』/『松坂世代 それから』

―――本田さんは、今年アニメ映画化された坂上忍さんの『リクはよわくない』も担当されたそうですね! 芸能人の本、しかも絵本はインプレス初だそうですが、この背景も教えていただけますか?

坂上忍さんが動物好きなことは有名ですが、たった1年で亡くなってしまった「リクくん」という愛犬がいたんです。坂上さんはリクくんとのことを絵本にしたいと熱望されていて、インプレスで初となる絵本を作ることになりました。きっかけは野球の取材で知り合った方からの紹介です。2021年に映画化され、いろいろなところでこの原作の絵本を取り上げていただくことになりました。
IT版元であるインプレスに入って、絵本を作ることになるとは考えていなかったですし、さらにその本が映画の原作になるなんて夢にも思っていなかったです。人生何が起こるかわかりませんね(笑)。

編集した絵本『おやすみ絵本 ねむりの王国のクウ』/『リクはよわくない』

『リクはよわくない』が公開するまでの裏話も公開中!

編集者として大切にしているのは「想像・行動・創造」

―――最後に本田さんにとっての座右の銘、またこれからどんな本を作っていきたいかをお聞かせください。

私のモットーは「想像・行動・創造」です。
まずよく考える。そして行動する。行動することで得られたいろんな情報をもとにクリエイト(創造)していくということですね。編集者としても人間としてもこの言葉を大事にしています。IT書籍もやりつつ新しい分野も開拓して、この会社で私にしか作れない本をこれからも作っていきたいです。そして当たり前ですが「多くの人に手にとってもらい喜んでいただける、売れる本を作っていきたい」と思っています。

―――会社で前例のない初めてのジャンルを開拓するのは、エネルギーも勇気もいることだと思います。この先どんな新しいチャレンジをされるのか、今後の本も楽しみにしています。今日はありがとうございました。

インプレス出版人図鑑】は、書籍づくりを裏方として支える社員の声を通じて、インプレスの書籍づくりのへ思いや社内の雰囲気などをお伝えするnoteマガジンです。(インタビュー・文:小澤彩)
※記事は取材時(2021年12月)の情報に基づきます。


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